第271話(第七章第26話) 飢えた怪物1(セツ視点から)

「勝者、『ファー……」


『待ってください。両者ともおかしいです。ちゃんと4対4で戦ってください。特に「ファーマー」。なんですか、あれは? 自立戦闘型の機械人形という装備をつくれるようにしていたのはこちらですが、それにさらに機械人形を装備できるようにしていたなんて……。人形たちに戦わせておいて自分たちは安全な場所から高みの見物、そんな戦い方での勝利など認められるわけがありません。それだけにとどまらず、モンスターを連れ込んでそれを大群にして相手パーティを襲わせる行為も卑怯で勝者というには汚らしい。よって



――今回の勝負は「天使と悪魔の輪舞 with シニガミ」の勝ちとします』



「え」

「なっ」

「……は?」

「……」


 なんとかシニガミさんを倒して、転移によって闘技場に戻された私たち。

 勝者の宣言がなされ、勝鬨を上げようというタイミングでスピーカーから声が発せられました。

 何回もいちゃもんをつけられて大将戦をやらされていたので、憶えてしまっています。

 その声はプロデューサーと呼ばれる人のものでした。


 また難癖……。

 しかも今回は、「ファーマー」を失格とする、という横暴すぎる内容でした。

 私はあまりの衝撃に言葉が出てきません。

 たぶん、マーチちゃんも、クロ姉も、おんなじだったのだと思います。

 そんななかで一人、反論する人がいました。


「……待ってください。一人称わーたちは別に問題を起こしたわけじゃありません。できることをした、に過ぎねぇんです。わーたちのしたことがダメだってんなら最初からルールに載っけといてください、ってんですよ」


 ライザです。

 彼女は私たちを代表して言ってくれていて、その言い分が理にかなっていることを主張してくれました。

 しかし、プロデューサーは……。


『あなたは、人を殴ってはいけない、と注意書きがされていないなら、人を殴ってもいい、と判断するのですか? そんな当たり前のことは書いていなくても、人を殴ることはよくないことだ、と理解できているものだと思っていましたが?』


 などということを言ってくる始末……。

 この理屈には頭が痛くなってきます……。

 ただ、やはり。

 ライザは頼もしかったです。


「それとこれとは別なような気がしますが……。っつーか、いいんですか? 今、テイマー全員を敵に回す発言をしましたが?」

『……は?』

「だってそうでしょう? わーたちがやった、大量のモンスターを相手に仕向けること、ってテイマーがやってることとなんら変わらねぇんですから。それって要するにテイマーがその力を発揮したら負けになる、っつーことになりますよね? まさか、わーたちだけがダメ、ってことはねぇですよね? ……あっ、ですがそうすると別の問題が生じてきますね。いいんですか? あんたらが職業で差別なんかして?」

『ぐ……っ! そ、そうです! 問題なのはそれだけではなく、機械人形も使ってるということで――』

「じゃあ、『洗脳』系のスキルも使うのはまずいってことになりますかね? あれも自分以外のものに戦わせてる、って点では、機械人形と同じ、って言えなくもねぇんじゃねぇですか? そういう系統のスキルを持ってる人もあんたらのさじ加減で勝利を覆させられる可能性がある、と……」

『……っ!』


 言い負かされたプロデューサーさん。

 ライザに押し黙らされていました。


 しばらくして、先ほどの理屈は押し通せない、と感じたのでしょうか?

 プロデューサーさんはこんなことを言ってきました。


『……わかりました。今回は、失格、というのはなしにします。ですが、先ほどの戦いは今回のイベントの趣旨から大きく離れてしまっていますので無効とし、分身、使役モンスター、支配系スキルに制限をかけた大将戦を行っていただきます。その勝者のパーティが決勝に進出する、ということで』


 正直、私たちはげんなりとさせられていました。

 相手であるシニガミさんも、アンジェさんも、あまり戦いたくないという感じだったのですが、一人だけ……ベリアさんだけは、ここまで来たなら決勝に行きたいから勝ってこい、とシニガミさんを送り出していて……。

 彼女(?)が舞台の上に立ってしまったことで、大将が出ないと不戦敗になる、と審判さんに警告されてしまい、私とシニガミさんが戦うことになりました。



「『ファーマー』対『天使と悪魔の輪舞 with シニガミ』の延長戦を執り行います! 本っっ当に申し訳ありません……! 『ファーマー』セツ! 『天使と悪魔の輪舞 with シニガミ』シニガミ! いざ尋常に、勝負!」


 試合開始の合図があり、私はいつも通りに駆け出しました。

 シニガミさんは、試合に出るからには勝つ! というような表情をしていて、その目には力が籠っていました。

 相手に接近しようとしてすぐ、私の身体はくらっと揺れました。

 スキルを使われたのだと思います。

 力を失って前のめりに倒れそうになる身体。

 しかし。

 私は地面に手をついて



――勢いでハンドスプリングを成功させ、相手の眼前に着地。



「なっ!? なんで効いてな……っ!?」


 ひどく狼狽するシニガミさんの腕を掴んで投げて倒しました。


「せいっ!」

「あが……っ!?」


 地面に背中を叩きつけられたシニガミさんが黒い粒子となって消えていきます。


「しょ、勝者『ファーマー』! 決勝戦進出一組目は『ファーマー』に決定しました!」


 それにより、私の勝利が確定。

 審判さんの宣言が特設闘技場内に響き渡りました。


 ちなみに、シニガミさんの『黒粒子化』を受けても平気だったわけですが、私が復活薬を持っていたから、です。

 HPが「9,999,999,999,999,999」あったのに、それを一気に「0」にさせられた感覚があってゾッとしました。

 『黒粒子化』、恐ろしいスキルでした……。

(チーム戦の時にこの方法を使わなかったのは、単純に相手が多すぎたからです)

(いくら復活薬を増やしたとしても持てるアイテムの数には制限がありますから、シニガミさん本人に辿り着く前に「シニガミさんたち」にスキルを使われ続けて復活薬を切らしてしまうことが想定されました)

(「シニガミさんたち」の軍勢の中に突っ込んでいくのは無謀である、と流石の私でも理解できます)



 私たちはなんとか決勝進出を勝ち取ったわけですが。

 私たちが知らないところで、事件は起きていました。



~~~~ 第二闘技場 ~~~~



「準決勝第二試合、勝者



――『MARK4』!」

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