第270話(第七章第25話) 天使と悪魔とシニガミ3

~~~~ シニガミ視点 ~~~~



「「「「「「「「るーりるーっ!」」」」」」」」



「に、虹色のプディン!?」


 その数は百や二百なんてものじゃない……!

 千……、ううん、下手をしたら一万も超えていた……!


 モンスターは出現しないはずじゃ……!? って一瞬動揺しちゃったけど、思い出す。

 薬師の子がプディンを使役できたことを!

 ……どうやって連れてきたのかは不明だけど!


 兎に角!

 このプディンが普通のプディンじゃないことはギフテッドライブを見ていて明らかだったから、僕は、というか「僕たち」は油断することなく『黒粒子化』で対処することを選んだ。

 それが、間違いだとも知らずに……。


 一人の「僕」がスキルを使ってプディンのHPを削り切った。

 その瞬間――



――パァアアアアアアアアンッ!



 と爆ぜて、そのプディンの粘り気のある液体が飛び散ってスキルを使った「僕」にかかったかと思うと……


「っ! あ……が……っ!?」

「っ!?」


 刹那。

 その「僕」は苦しみ出して、黒い粒子へと変わっていった。

 それは、僕の周りで「僕」と同じことをしていた「僕たち」にも起こっていて……!

 近くには二百人ほどいたのに、「僕たち」はあっという間に五十人くらいにまで減ってしまっていた。


 わけがわからなかった……。

 僕が放心してると、烏丸くんが叫んだ。


「ああ、もう! 何をやってるのよ!?」


 僕に悪態をつきながら、漆黒の剣をつくりだして自身を切りつける。

 そうして、彼女の周りに彼女が持つ剣と同じ形をした黒い剣を宙に浮いた状態で出現させた。

 これは烏丸くんが持つスキル『ダーインの遺産』の効果だ。


『ダーインの遺産』

――自身のHPが減っている数値分の数の魔剣を生成でき、その魔剣を操れる。

  魔剣で切り付けられた相手に、スキル使用者の攻撃力分の固定ダメージを与え、

  与えた分のHPを回復する。


 それで烏丸くんは、周りにいた無数の虹色のプディンを攻撃した。

 けれど――


「っ! 想像以上にタフね……!」


 虹色のプディンを倒せなかった。

 1,300の攻撃力があるのに……っ。

 ……でも。

 予想外だったのはそれだけじゃなかった。


「きゃっ!?」

「ベリア!」「烏丸くん!?」


 プディンから何かの液体を掛けられて、動きが緩慢になる烏丸くん。

 ステータスを確認したらしい彼女が、顔面蒼白になる。


「……っ!? 攻撃から器用さまで『1』に……っ! それにあの液体、バステにする効果もあるみたい! 熾織シーのおかげでそれは防げたけれど……!」

「「なっ!?」」


 僕と熾織の驚きの声が重なった。

 な、なんでそんなことに……!?

 この虹色のプディンたちの仕業なの……!?

 僕たちは理解しがたい現状に固まってしまった。



 それからは悲惨なものだった。

 あれだけいた僕の分身体は一人残らず消えてしまっていて……。

 僕と熾織のステータスも、攻撃・防御・素早さ・器用さの四つのステータスを「1」にさせられた。

 熾織のおかげで状態異常になることだけは防げたけど……。

 僕が、ステータスが低下させられている原因を取り除いたとしても、周りにいる無数の虹色のプディンたちによってすかさずステータスを下げられる……。

 戻しても戻しても、きりがなかった。


 僕たちは虹色のプディンたちに翻弄させられていた。

 そこに、一体の虹色プディンの中から二つのハンマーを女の子(服装は黒子だったけど)が現れて、僕たちに襲い掛かってきた。

 虹色のプディンたちの相手をすることで手いっぱいだった僕たちが、新手に対処することなんてできなくて。

 狙われた烏丸くんを守ろうとした熾織だったけど、無敵にできる『天使の歌声』はまだ使える状態じゃなかったから烏丸くんの前に立って身代わりになるくらいしかできなかった。


「うぐっ!?」

「熾織っ!」


 僕は怠く感じるようになってしまった身体でなんとか二つのハンマーを持った女の子を黒い粒子に変えたけど……。

 間に合わなくて……っ。


「熾織ーーーーーーーーッ!」



――熾織は一撃で退場になってしまった。



 烏丸くんの慟哭が響いた。


 そのあと……。


「……仇を打ってくれたことには感謝するわ、福知山さん。でもね、その役目は私に取っておいてほしかったわ」


 怒りに震える烏丸くんにそんなことを言われて……。


「僕は熾織を助けようとしたんだ。間に合わなかったけど……。えっと、どっちが先にとか、仇を取るとかじゃなくってさ、力を合わせて大将を――」


 僕は宥めようとした。

 その時だった。



――烏丸くんの背後の空中に、スタイルの良い女性(格好は相変わらず黒子)が姿を現したのは。



 その女性が、烏丸くん目がけて急降下してきて……!


「危ない、烏丸く――っ」


 僕は彼女に知らせようとした。

 彼女は気づいてくれた。

 けれど、その時にはもう手遅れだったんだ。



――烏丸くんが避けきる前に女性は烏丸くんの身体の上に勢いよく着地した。



 彼女も、一撃だった。


「う、うわああああっ!」


 僕は『黒粒子化』のスキルを使って、烏丸くんを消したその人を消した。


 ……僕は判断が遅すぎる。

 烏丸くんも助けられなかった。

 こんな僕で勝てるのか、一気に不安になる。

 ……いや、ダメだ! 弱気になるな!

 もう三人倒せてる。

 何故だか周りにいる虹色のプディンたちは、ステータスを下げること以外のことをやって来ない……。

 だったら、考えるべきは一つだ!

 そうだ、相手も一人なんだ……!


 僕は自分を叱咤して、辺りに全神経を集中させた。

 すると――



――海の中からものすごい勢いで僕との距離を詰めてくる女性の姿が(服は黒子)



 ……!

 僕はその人に懐に入られて。

 腕を掴まれた。

 そして――



――その女性は黒い粒子になって霧散していった。



 僕のスキルが間に合ったんだ……!

 これで四人、倒した。

 僕らのチームは僕が残ってる。

 それって……!


「……っ! やっ――」


 喜ぼうとした。

 ところが――



――どういうわけか僕の視界はぐるんと回って。



 直後。

 僕の視界は真っ黒に染まっていった。

 どうなったのかわからないまま。

 気づいた時には闘技場にいて、熾織と烏丸くんに心配そうに見下ろされていた。



~~~~ セツ視点 ~~~~



【数分前】



「これ、使うのはどう?」


 そう言ってクロ姉が見せてくれたのは戦闘型機械人形コンバット・オートマタでした。

 顔は全て『私』でしたが、背格好はこっちの私に似たものとライザに似たもの、マーチちゃんに似たものも用意されていて……。

 クロ姉はいろんな『私』に愛されたかったようで様々な体型のものを試作していたようですが、それを見たライザが閃きました。



――「使いましょう。黒子みてぇな服着せて顔をわからねぇようにすれば相手を出し抜けるかもしれません」



 と。


 ライザはシニガミさんの『即死』を警戒していました。

 ですから、正面突破では事故に繋がる可能性を考慮していて。

 そしてそれだけでは足りない、と唸り始めます。

 少し悩んでいたライザでしたが、マーチちゃんを見て決断しました。



――「マーチ。二人称なー、カラメル増やして持ってきてますよね? 『総てはこの手の中にある』でアイテム化したカラメルを『ビスケット』で増やしちゃってましたもんね? ……その子、セツのMP回復ポーション使ってさらに増やしてください」



 こうしてライザの悪魔的な作戦が立てられました。

 それは、戦闘型機械人形とカラメルの複製体(正しくはさらにその複製体)たちによる陽動作戦……。

 最後の最後は、私がシニガミさんを倒しに行く、ということになりましたが……。

 ……その、隠れてばかりは卑怯であるように思えてので……。

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