第269話(第七章第24話) 天使と悪魔とシニガミ2

~~~~ 海エリア深部 ~~~~



「……あっ。『マーチ』がやられました」

「えっ!?」

「そ、そんな……っ」

「仕方ねぇ、ですかね……。なにせ相手は『黒粒子化』を使えるんで。それに、ただの無駄だったわけじゃありません。アンジェに『天使の歌声』を使わせられたのはデカいです。あれ、結構長めのインターバルがあるスキルなんで」

「……仇! 『マーチちゃん』のためにも勝つ! 必勝!」

「……」

「兎に角、今は一人称わーたちにできることをしましょう」

「そ、そう、だね……」



~~~~ シニガミ視点 ~~~~



 崖の上も「僕たち」に調べてもらう。

 上から狙われたからね……。

 そこに「ファーマー」の他のメンバーもいるんじゃないか? って思ったんだけどそうじゃなかったみたい。

 あの小さな子は単独行動をしてたのかな?

 それとも、もう既に逃げたあとだったりする……?

 それはもう確かめようがない。

 だから僕は、いつ狙われてもおかしくない、って警戒を強めることにした。


 谷を抜けると草原が広がっていた。

 「僕たち」もいっぱいいる。


「首尾はどう?」

「……あまりよくないかも。北に砂漠地帯、南に火山地帯、西に海が広がってるんだ、って。砂嵐を消失させられたから砂漠地帯には調査隊を送り込めたらしいんだけど、火山と海には入れてない。ローブとかブーツとかウエットスーツとかシュノーケルとか必要になってくる、ってさ」

「そっか……」


 僕は近くにいた「僕」に情報を求めた。

 どうやら特殊な装備が必要になる火山エリアと海エリアがあって、その特殊な装備を着ていなかった「僕たち」はそこに入り込めていないみたい。

 でも、谷や砂漠、草原にはたくさんの「僕たち」を放てているから、そこには「ファーマー」はいなかった、って見ていいだろう。

 ってことは、「ファーマー」がいるのは火山か海のどっちかだ、って考えていい。


 ……完全に初手をミスっちゃった。

 分身には持ち物と控えの装備は受け継がれない……。

 だから、火山と海、この二箇所に行けるのは控えで特殊な装備を持ってる本体である僕だけ、ってことになる。

 ……装備、変えてから『バイロケーション』を使うべきだったなぁ。

 事前にどんな地形があるか調べてから行動すべきだった……。

 試合が終わるまであと大体45分。

 このまま隠れ続けられると引き分けになっちゃうかな?

 潜伏って、「ファーマー」にしてはちょっとダサい戦術だと思うけど……。

 でも、即死スキルを持ってる相手と戦う、ってなったらそうなっちゃうのも仕方がないのかも……。

 うーん……。


 「ファーマー」のスキルについて洗い直してみる。

 これから何をしてくるのか、その予測を立てようとして。

 鍛冶師さんは、『武器を二つ持てるスキル』と『壁を壊せるスキル』……

 商人さんは、『投擲武器をつくれるスキル』と『ステータスアップ系のスキル』……

 鑑定士さんは、『素早さアップ系のスキル』と『ノックバックまたはスタンを狙えるスキル』……

 薬師さんは、『危険な薬品をつくるスキル』と『なんらかの形でプディンを使役するスキル』……

 これらのスキルを持ってる可能性が高い。

 三つ持てるスキルを推測でも全て埋められる人が一人もいないのが不気味に感じられた……。


 どうしようか……、って悩んでいたら熾織が自慢げに言ってきた。


「ふっふっふ! 地形のことなら問題ないっすよ! 今こそ僕の『天使降臨』を使う時っすね!」

「……『天使降臨』?」


 聞いたことがない言葉に首を傾げる僕。

 それは熾織が持ってるスキルの一つだったらしい。



『天使降臨』――光輪と白い羽を顕現させ、「飛翔」が可能となり、

        周囲の味方のHPを継続回復させ、状態異常にならなくする。

        (分身には効果がない)

        また、自身のスキルの効果範囲が、単体から

        自身を中心とした一定距離にいる味方全体、に変更される。

        (分身に効果があるかは使用したスキルの性能による)

        このスキルを発動している間は、自身が持つ他のスキルの

        効果持続時間の制限が撤廃されるが、このスキルの発動中は

        MPを消費し続ける。



 教えてもらったスキルの詳細がこれ。

 僕たちは本来仲間ってわけじゃないから、たとえイベントでの優勝が懸かってたとしても、持ってるスキルでできることを全部教えて! なんて聞くのははばかられてた。

 だから僕は、熾織のスキルを知らなかったんだけど、熾織が打ち明けてくれたから――


「も、もしかして『天使降臨』を使ってる状態で『天使の歌声さっきのスキル』を使えば……!」

「海の中にも火山の中にでも行けるっす!」


 突破口が見えたんだ……!


「……あなた、結局熾織シーに頼ってるじゃない。役立たず」

「……」


 熾織頼みになっちゃったから、烏丸くんには口撃されることになっちゃったけど……。

 烏丸くん……相変わらず、っていうか、いつも以上に辛辣かも……。



 それでも、烏丸くんの勝ちたいって気持ちは気に入らない僕と組むことへの嫌悪感よりも勝っていたようで、僕と協力してくれることになった。

 烏丸くんのスキル『悪魔招喚』によって「ファーマー」がどこにいるのかが絞り込めた。


『悪魔招喚』――スペード型の尻尾と蝙蝠コウモリの羽を顕現させ、「飛翔」が可能となり、

        敵と定めた相手複数からMPを奪い、自身のMPを回復させる。

        近い距離にいるほどその相手から奪えるMPの量が増える。

        MPを奪った相手がいる位置をおおよそ把握できる。

        このスキルの発動中はHPが減り続けるという珍しいスキル。


 あと、烏丸くんは『最後に愛は勝つ!』というスキルも持っていて、それは、指定した仲間一人のMPを、自身のMPが回復した時に同じ分だけその仲間のMPも回復する、っていう効果だった。

 そのスキルで熾織のMPを回復させつつ、熾織のスキルで烏丸くんのHPを補う、っていう相互扶助の関係。

 相性が抜群で、これは確かに僕はお邪魔かもしれない、って感じた。


 兎に角、烏丸くんのおかげで「ファーマー」が海の中にいることがわかった。


========


名前:アンジェ    レベル:527

職業:付与魔術師

HP:1,511/1,511

MP:1,670/1,670

攻撃:879

防御:721

素早さ:1,489(×1.1)

器用さ:933(×0.9)


スキル:『天使降臨』

    『天使の歌声』

    『神のお導き』


ジョブスキル:『付与魔術』



名前:ベリア     レベル:527

職業:神官

HP:1,670/1,670

MP:879/879

攻撃:1,353(回復魔法に影響/攻撃時は1/16)

防御:721

素早さ:1,141(×1.1)

器用さ:1,360(×0.9)


スキル:『悪魔招喚』

    『最後に愛は勝つ!』

    『ダーインの遺産』


ジョブスキル:『回復術』


========



 地形の悪影響を受けなくなる熾織の『天使の歌声』はMPの消費量はそれほどでもないんだけど再度使用できるようになるまでのインターバルが11分6秒と長くて、再び使えるようになるのを海の波打ち際で待っていた時のこと。

 僕たちは予期せぬ現象に巻き込まれた。



――海から、カラフルな円錐台の形をした物体が無数に押し寄せてきたんだ!

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