第268話(第七章第23話) 天使と悪魔とシニガミ1

~~~~ シニガミ視点 ~~~~



「とうとう始まったね! これでやっと『ファーマー』の強さを直で確かめられるよ!」


 PvPイベント、決勝トーナメント準決勝第一試合。

 僕ら「天使と悪魔の輪舞 with シニガミ」の相手はあの「ファーマー」だ!

 これまでとは大きく対戦方式が変わっちゃって憶え直すのが面倒だけど、僕はウキウキしていた。

 なんたって、イベントで一位を取り続けてるあの「ファーマー」と直接戦えるんだからね!

 それはウキウキするでしょ!


 なんて、僕は闘技場から魔法陣で飛ばされたどこかの谷を、ハイテンションで歩いていたんだけど……。

(ここは八月にあったPvPイベント予戦で使われた場所みたいだね……僕の周りの人たちは誰も予戦に出てないから初めて見た)


「はあ……。なんでこんなうるさい奴とチームを組まないといけないのよ? 熾織シーの頼みだから仕方なく受け容れたけど、やっぱり入れたくなかったわ……。大体、運営も運営よ。何よ、三人はいないと参加できないイベントつくるって。私たちは二人で充分なのに……っ!」

「ま、まあまあ……」


 し、辛辣ぅ……。

 黒の猫耳少女になってるベリア烏丸くんがぶつぶつと棘のある言葉を呟いてきた。

 この子、本当に僕のこと嫌いだよね……。

 同じ悩みを持つ者同士のはず、なんだけどなぁ……。

 間に挟まれてるアンジェ熾織が板挟みになって、烏丸くんの機嫌を取ろうと必死になってる……。

(今の僕たちは横じゃなくて縦に並んで歩いてるけど)

 ……ここは彼氏くんに頑張ってもらおうかな?


熾織シーはどっちの味方なの?」

「え? それはベリアに決まって……」

「……嘘。さっきから福知山フクチヤマさんのこと庇ってばかりじゃない!」

「そ、そんなことないっすよ……!?」


 ……あっ、ダメだ。

 これ、無理っぽい。

 熾織に任せてらんない……!

(烏丸くんプンプンで、僕の苗字口走ってるし……!)


「あ、あはは……。ま、まあ、無理に組んでもらったのは確かだからね。それなりの活躍はしてみせるよ!」


 僕もお嬢様(烏丸くん)のご機嫌取りに協力することにした。


 スキル『バイロケーション』を発動して僕の分身を四人つくる。

 このスキルは僕がつくれる分身は四人までだけど、僕の分身は僕のスキルを使えるから分身が分身を生み出すことができる。

 その分身がさらに分身を生み出せて……。

 鼠算式に分身をつくることが可能なんだ。

 本来なら、分身をつくるのにMPが必要で、つくられた分身はMPが消費された状態でつくられるからMPが枯渇したらそれで打ち止めになっちゃうんだけど、僕には『スキルによる消費MP0』っていうスキルもある。

 だから、MPが尽きることはなくて、無限に分身を増やすことができる、ってわけ。

 明らかに過剰戦力なんだけど、相手が「ファーマー」なら問題はないかな?


「「「「「「「「よし! このまま増え続けながら『ファーマー』を探して、見つけ次第『黒粒子化』を使おう! 何人かはアンジェとベリアの護衛だからね!」」」」」」」」


 僕は烏丸くんに、組んでよかった、って思ってもらえるように、「ファーマー」に勝つために動き出したんだ。


「うるさ……っ。一人でも厄介なのに増えるとか勘弁してほしいんだけど?」


 ……。

 僕が無理を言って組んでもらってるからお荷物になるのは論外だと思うんだけど、勝つために行動するのもダメ、って言われたら……。

 ……どうしろっていうのさ?



 なんとか姫を宥めて、分身を使うことを許してもらって(すごく渋々だったけど)……。

 「僕たち」が熾織と烏丸くんの周りを固めて辺りを警戒しながら歩くこと十数分。

 もうそろそろで谷を抜けられそうってところに差し掛かった。


 この十数分間、増え続けるっていう人海戦術で「ファーマー」を探してるんだけど、試合が終わってないってことは見つけ出せていないってこと、だよね……。

 それか、見つけることができてても返り討ちに遭ってるか……。

 『バイロケーション』って便利なスキルだけど、分身個体と思念伝達ができないのがネックなんだよなぁ……。

 情報が入ってこないもん。

 ……なんにしても一筋縄じゃいかないのは流石一位のパーティって感じだよね。


 なんて思ってたら……。


「福知山さん? あなた、即死スキルを持っているのよね? あなたの分身もそれを使えるのよね? どうしてまだ決着がつかないのかしら? ……使えないわね」

「ひ、ひど……っ!」


 毒を吐かれた。

 うぅ……、烏丸くん、辛辣すぎるよぅ……!


「助けて、熾織~! 烏丸くんがイジメるー!」


 熾織に救いを求めて縋りつこうとした時だった。

 熾織の表情が驚愕に染まって、僕の名前を叫んだのは。


「美珠っ!」


 僕の身体が透明な何かに覆われたと思った次の瞬間――



「あがっ!?」



 僕の頭に凄まじい衝撃が加えられた。

 猛スピードの車が突っ込んできたような、そんな感覚を後頭部という限られた部分に受けて、僕は耐えることなんてできなくて吹っ飛ばされる。

 僕たちがいたのは谷の底で左右には壁のような斜面があって、そこに僕の身体は叩きつけられた。

 う、噓でしょ……!?

 僕のレベル1,582なのにこんなに痛いなんて……!

 それでも黒い粒子にならなくて済んだのは熾織のおかげだった。

 さっき僕を包んだ透明な膜のようなものは熾織のスキル『天使の歌声』。

 対象を四分間無敵状態にすることができるスキル。


「大丈夫、美珠!?」


 心配した熾織が僕の元に駆け寄ってきてくれる。

 熾織に助けられちゃったな――なんて考えている暇はなかった。

 熾織に向かって何かが高速で飛んできていたから……!


「熾織っ!」


 僕はとっさに動いた。

 『黒粒子化』は、消せるものであればなんだって消滅させることができる。

 魔法や矢なら消せる。

 それを使って……。

 なんとか熾織に当たる直前でそれを消失させることができた。


 遠距離攻撃を仕掛けてきたであろう方向に急いで目をやる。

 切り立った崖の上だった。

 そこには黒い服に身を包んだまさしく黒子のような姿をした人物がいた。

 僕が見た時には既に「僕たち」の反撃を受けていて、黒い粒子に変わっていっていたけれど。


 遠目だったから定かじゃないけど、あまり大きいって感じは受けなかった。

 あれは小さな子だと思う。

 これはゲームだから身体の大きさはあまり関係がないけれど、小さいとリーチが短くなっちゃうっていうのは確かだし、大きい方がレベル上げはしやすいわけで……。

 どうやってあの威力になるまでレベルを上げたんだろう……?

 スキルって可能性もあるけど、きっとレベルもそれなりに高くないとあの威力は出せないはずだ。

 僕は気になって仕方がなかった。

 流石「ファーマー」といったところなんだろうね。


 その「ファーマー」を一人倒せたこと。

 それは自信に繋がった。

 もしかしたら渡り合えるかもしれない! って……。


 ……でも。

 僕はこのあと思い知らされる。



――「ファーマー」の強さは次元が違っていた、ということを……。



========


名前:シニガミ    レベル:1,582

職業:神官

HP:4,993/4,993

MP:2,620/2,620

攻撃:4,448(回復魔法に影響/攻撃時は1/16)(×1.1)

防御:1,931(×0.9)

素早さ:3,094

器用さ:4,518


スキル:『黒粒子化』

    『バイロケーション』

    『スキルによる消費MP0』


ジョブスキル:『回復術』


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