第267話(第七章第22話) またもや変わったルールと、天使と悪魔とシニガミ

「準決勝のルールは以下の通りです。


 個人戦は行わずに、いきなり4体4のチーム戦を行っていただきます。

 『天使と悪魔の輪舞 with シニガミ』の皆様は一人少ないですが、イベント参加の申請を三人で受け付けましたので不利な展開となりますがご了承ください。

 4体4のチーム戦ですが、


 場所は、PvPイベント予戦で使われたイベント特設ステージ

 制限時間は、一時間

 勝利条件は、制限時間になった時に生き残っていたプレイヤーが多いこと、または敵の大将を討ち取ること

 制限時間になって生き残ったいたプレイヤーの数が同じであった場合、1対1の大将戦を執り行う

 その他、持ち込めるアイテムの数などに変更はない


 と、このようになっております。

 あっ、予戦で使われた特設ステージでの戦いとなりますが、予戦のようにモンスターが出てくることはありません。

 モンスターに戦いを邪魔されるということはございませんので安心してください。


 以上でルール説明を終わります」


 審判の方が淡々と告げました。

 大幅なルール変更です……。


 私はこれまで個人戦しかやってきていません。

 それなのに、急にチーム戦をしなければならなくなった、ということに、上手くできるか? と不安を抱えさせられます。

 PvPパーティバーサスパーティというイベント名を見れば、チーム戦こそがメインであるという言い分はもっとものような気がしますが、それでも……。

 それなら最初から個人戦はやらずにパーティ戦だけをすればよかったのでは? とはどうしても思ってしまいます。


 審判さんに抗議したい気持ちになりましたが、


「あのプロデューサーめ……! 自分が考えた対戦方式が上手く機能してないから、って何度もルールを勝手に変えやがって……! 非難されるのは表に立ってる俺らなんだぞ……っ!」


 と審判さんが呟く愚痴が聞こえてきて……。

 この方も苦労なさってるんですね……、と思った私は追及することができませんでした。



「それではこれよりイベント特設ステージに皆様を転送します! 移動完了をもって試合開始となります! それでは皆様、いざ尋常に――」


 審判さんがそういうと、私たち「ファーマー」の足元と、対戦相手である「天使と悪魔の輪舞 with シニガミ」の足元に、別々の魔法陣が出現して。

 私たちは白い光に包まれ、闘技場の舞台の上から特設ステージの海エリアへと飛ばされました。


 い、いきなり水の中です。

 水中の地形に対応できるようにしていなかったら、プレイヤーと戦う前に地形によって全滅していたかもしれません……。


「く、クロの装備があってよかったの……!」

「……あの『運営』、またやってきやがりましたね」


 マーチちゃんは私と同じ感想を抱いていたようでほうっと息をついていて。

 ライザは、私たちを水中に放り込むという仕打ちをしてきた「運営」に対して呆れ果てていました。

 クロ姉は……


「セツちゃん! 私、活躍した! 褒めて!」


 ……こんな感じです。

 私はとりあえず要望通りにクロ姉を褒めました。



 地形のことで少し判断が遅れてしまいましたが、ライザが指揮を執ってくれて、私たちはこの試合に集中します。


「っと、もう試合は始まってんですよね。相手のパーティは谷エリアに飛ばされてるみてぇです……って、マジですか、もう増えやがりやがったんですけど……」


 『アナライズ』で「視た」のでしょう。

 ライザは状況の説明に入ってくれました。


「……『増えた』、って?」


 マーチちゃんが聞きます。

 マーチちゃんが抱いた疑問は、私もわからなかった部分でした。

 マーチちゃんがしていなかったら私が質問していたと思います。


「シニガミの奴、『バイロケーション』っつー分身スキルを持ってやがるんです。つくられた分身は本体のスキルを使えちまう、っつー仕様です。なので、全員即死スキル完備でいやがります。本来は分身体をつくる際のMPが消費された状態で分身がつくられるんで本体のMPによってつくれる分身の数が決まってくるんですが、あいつには『スキルによる消費MP0』っつースキルもあって……。つくれる分身に際限がありやがりません。増え続けながら一人称わーたちを探している状況です」


 マーチちゃんからの問いに返したライザの答えは驚きの内容でした。



――シニガミさんのとんでもないスキルに関してのこと、だったので。



 私たちは狼狽えさせられました。

 だって、見つかるだけでアウトなスキルを持つシニガミさんが今も増殖を続けながらそこら中に散らばって私たちのことを探している、ということになるわけですから。

 ここに辿り着くのも時間の問題かもしれません。


「ど、どうする? 制限時間いっぱいまで隠れてた方がいいかな?」

「シニガミ自体は水中の地形に対応できる装備を着けてませんからワンチャンあるかもしれねぇですが、そうなってくるとアンジェが厄介ですね……。あいつには、味方を無敵状態にして地形による悪影響も無視できるようにする『天使の歌声』、っつースキルがありますから……」


 私は、数的有利の立場から考えられる最も安全な策を提案しました。

 こちらは四人で相手は最初から三人なわけですから。

 ですがその案に、ライザの表情を晴らす力はなく……。


「アンジェをどうにかしないとおちおち隠れてもいられないってことなの?」

「そうなります。ですが、シニガミ本体やアンジェたちはシニガミの軍団に囲まれていやがりますから、かなりうまくやらねぇと落とせねぇっつー……」

「うーん……」


 私たちは困らされていました。

 他のエリアを探し終え、シニガミさんの軍団が海エリアまでやってきて囲まれてしまったらアウトです。

 そうならないようにするにはシニガミさんが水中で息ができないようにするために、それを可能にするアンジェさんを倒す必要があるのですが、アンジェさんはたくさんのシニガミさんに守られているという……。

 もし攻めに行って、そのシニガミさんによる包囲網を突破できなかったら最悪そのまま負けてしまうことだって考えられる、リスクが高すぎる戦法……。

 海にまで入ってこないことを祈って潜伏し続けるか、ここまで軍団でやってくることを想定してそれを阻止するために危険な敵陣に攻め込むか……。

 究極の二択に迫られていました。


 どちらがいいか決めかねていた時、クロ姉が、あっ、と声を上げました。


「……あっ。これを使うのはどう?」


 そう言って、クロ姉が取り出したもの。

 それは――

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