第266話(第七章第21話) 「天使と悪魔の輪舞 with シニガミ」

『ベスト4が出揃いました! 明日は準決勝! 「ファーマー」対「天使と悪魔の輪舞 with シニガミ」及び、「花鳥風月」対「MARK4」の戦いを執り行います!』


 余韻に浸る間もなく発表された準決勝の対戦カード。

 第二闘技場で行われていた試合は既に決着がついていた、ということでしょうか?

 サクラさんたちの試合が終わったあとすぐにそんなアナウンスが聞こえてきました。

 準決勝の対戦相手を知らされます。

 「天使と悪魔の輪舞 with シニガミ」……。

 この「with」のあとにつけられている名前って……。

 私は気になったのでライザに確認しました。


「ね、ねえ、ライザ? 次に戦うパーティの名前のことなんだけど、シニガミって……」

「ええ。一人称わーたちの前に立ち塞がったあの人物です。一人じゃこのPvPイベントに出られねぇんで臨時でパーティを組んでるみてぇですね……」

「そう、なんだ……」


 聞いてみると、やはり私の予想通り、という答えが返ってきます。

 シニガミさん……。

 『即死』のスキルを持っていて最強のプレイヤーと言われている人……。

 一度対峙したことがありますが、あの時肌がぴりついたような感覚を受けていました。

 あれは、勝てない、という予感だったように思います。

 私たちもあれから強くなっていますが、特殊なスキルを持っているあの人に勝てるだろうか? と不安が募っていくのを嫌でも感じてしまいます。


「恐らくですが、奴が出てくるのは大将戦です。セツとやることになると思いますので覚悟だけはしておいてください」

「う、うん……」


 ライザに言われました。

 シニガミさんと戦う可能性は私が一番高いから心の準備をしておくように、と。

 私は深呼吸をして、シニガミさんとの戦いに備えることにしました。




 そして翌日。

 九月二十一日、イベント五日目。


 私たちが舞台の上で待っていると、相手のパーティの皆さんがやってきます。


「あっ! 『ファーマー』だ! 今日はよろしくねっ!」


 階段を上っている途中で私たちの姿を視認した一人の人物が、私の方へと駆け寄ってきて私の手を取って握手をしてきました。

 とても楽しそうな表情を浮かべながら。

 中性的なきれいな容姿で線が細く、漆黒の神官服に身を包んだ片側だけヘアピンを多用しているその人――シニガミさんが。

 私が、ちょっと前回会った時と印象が違っているシニガミさんの行動に戸惑っていると、彼女(?)の頭上に手刀をつくるような手がぬっと現れます。

 そしてそれはシニガミさんの頭に下されました。


「いたっ!? な、何すんのさ、熾織しおり!」

「熾織言うな、美珠みたま

「熾織だって、美珠、って言ってんじゃん!」

「仕返ししただけっす。いいからさっさと整列するっすよ? セツさんたちを困らせちゃダメっす」


 シニガミさんの頭にチョップをして、彼女(?)の背後から現れた人物に私は驚かされました。


「え、ええ!? あなたはお店に来てた……!」


 その人は頭の上の方に三角でふさふさの大きな白い耳を持った猫っぽい見た目の女の子――私たちのお店に来てくれたお客様第一号の方だったのです……!

 服装はあの時とは変わっていて、クロップドタンクトップみたいなトップスとホットパンツのようなボトムスを着用していましたが、そのトップスやボトムスの下にタイツのようなぴっちりとした服を着ていたため露出はほとんどありません。

 あっ、この前はローブで隠されていましたが長くて白い尻尾は見えています!


「はいっ! その節はお世話になりました! あなた方のお店で買ったアイテムのおかげで第四層のエリアボスを倒すことができたっす!」

「っ! それはよかったです!」


 私がその人と会ったことがあることに気づくと、その人は深く頭を下げてお礼の言葉を言ってくれました。

 私がつくったアイテムが誰かの役に立ったということが実感できて嬉しくなります。


 そんな私たちを見て、シニガミさんは口を尖らせていました。


「……いいなぁ、アンジェは。僕はファンの子たちに『ラッキーファインド』のお店に行くのを邪魔されてたから行けなかったんだよ……。行きたかったのにぃ……」


 いじけています。

 この人、あの時襲ってきた最強プレイヤーさんと本当に同一人物なのでしょうか?

 あと、今さっき彼女(?)が出した名前……。

 アンジェって……!


「えっ、あ、あなたがアンジェさん!? 私たちのお店を宣伝してくれた……!?」


 私が確認すると、


「そ、そうなる、っすかね? ご、ごめんなさいっす、勝手なことをして……。直接お礼を言いにいこうとしたんすけど、すごい行列ができてて……。大変なことをしてしまったんじゃないかって……。違う日に行ってみたら臨時休業になってたし……」


 アンジェさんは申し訳なさそうに肯定しました。


「臨時休業、って……あっ! あれはお店のこととは関係ないので! ……お礼を言うのはこちらですよ。宣伝してくださってありがとうございました!」


 私はアンジェさんがお店の宣伝をしてくれたことに感謝の言葉を伝えました。


 私がアンジェさんたちとお話していると、アンジェさんに抱きついて彼女を私から引き離そうとする少女がやってきます。

 アンジェさん同様、頭の上の方に三角の耳がある可愛らしい獣人族の子でしたが、私に向けられるその目は警戒のものでした。

 ジトっとした目で睨まれます。

 ……私、何かしました?


「あの、えっと……?」


 私が困っているとアンジェさんが助け舟を出してくれます。


「ダメっすよ、ベリア。そんなに睨んじゃ。この人がつくってくれたアイテムのおかげで第五層に行けるようになったんすからね?」

「……そうなのね。ありがとう、感謝するわ」


 アンジェさんが言ってくれたことでぺこりと頭を下げてくれるベリアさん。

 ですが。


「それはそれとしてアンジェにちょっかいかけないでもらえるかしら? 泥棒猫になるっていうなら容赦しないわよ?」

「え、えっと……?」


 黒く淀んだ瞳を私は向けられました。

 何故かはわかりませんが、私はベリアさんに敵として認定されてしまっているようです。

 ……本当に何故?


 アンジェさんは活発で人懐っこい白い猫を擬人化したような見た目で、ベリアさんは服装はアンジェさんとお揃いですが、彼女は気だるげで素っ気ない黒い猫を擬人化したような見た目をしています。

 そこから推察すると、二人は姉妹でお姉ちゃんまたは妹を他の人に取られたくない、という感情がある、とかでしょうか……?

 とりあえず、これ以上ベリアさんは刺激しない方がよさそうです。



 ちょっと対戦前に話し込みすぎてしまいました……。

 審判の方に怒られて、試合が始まることになります。

 ですがその前に、審判さんが言いました。


「試合を開始する前に準決勝のルールを説明させていただきます」


 と。


 ……え?

 またルールが変わるんですか!?

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