第261話(第七章第16話) キンジンという男
十九日、イベント三日目。
この日は決勝トーナメント進出をかけた各ブロックの決勝戦が行われます。
私たちが待機スペースで気持ちを落ち着かせるために談笑しながら待っていると、スピーカー越しに司会の方の声が響いてきました。
『これより決勝トーナメント進出を決める各ブロックトーナメントの代表決定戦を行う! まずはAブロック! 「ファーマー」、「プディン帝国」両パーティは舞台の上へ!』
試合の時間が来たことを知らせるアナウンスです。
私が階段の方へ向かおうとすると、マーチちゃんに呼び止められました。
「待って、お姉さん! ちょっとやりたいことがあるの!」
「え?」
そう言って私の背中に片方の腕を回してくるマーチちゃん。
マーチちゃんのやりたいことというのが瞬時には理解できなかった私でしたが、戸惑っているうちにライザに肩を組まれて、目の前にいたクロ姉もマーチちゃんとライザに同じようにされていて。
それでようやく、私はマーチちゃんが何をしたいのかがわかりました。
円陣です。
ファイト、オー! で気合いを入れた私たちは、舞台へと上がっていきました。
階段を上り切ると、そこには既に対戦相手となる「プディン帝国」の皆さんが並んでいました。
男女二人ずつのパーティのようです。
大将戦で私と当たることになる方の前に移動して、その人のことを見ると……。
「……あっ」
頭部だけ黒っぽく他は金色のフルプレートアーマー、
金色のマント、
剣身がない柄だけの武器……。
その姿には見覚えが!
この方は、第一層と第三層で私に情報を教えてくださった方です!
「あなたは……!」
「おお! 薬師の嬢ちゃん! まさか、こんなとこで会うとはな! いや、嬢ちゃんたちの実力があれば当然の結果だよな! 見たぜ、ギフテッドライブ! すげぇことやってんな、嬢ちゃん!」
「え、えっと……ありがとう、ございます?」
あちらも私に気づいてくれました。
気さくに話し掛けてきてくれます。
ですがまさか、今までの対戦相手からは訝しむような視線を向けられていたので生産職である私たちの実力を認めてくれるとは思っておらず、また、
(今までの対戦相手たちからは、私たちが勝ち上がってきたことに納得できない、といった視線を向けられていました)
私があわあわしていると、審判の方から注意が入ります。
「キンジンさん、進められませんので私語は慎むように」
「はいはい。じゃあ最後に一つだけ。嬢ちゃん。正々堂々勝負しようぜ!」
怒られてしまったのにまだ私との会話を続けるその方は、私に手を差し出して握手を求めてきました。
「は、はい……!」
私はそれに応じました。
対戦相手と挨拶を交わしたあと、ライザともう一人の方を残して私たちはそれぞれの待機スペースへと下がります。
決勝トーナメント進出をかけた一本目の戦いが、始まりました。
先鋒、ライザvsロア。
ロアさんは舞台の上に大量のプディンを出現させました。
まず間違いなくスキルでしょう。
そしてそのプディンたちを
――纏めて、一体の虹色のプディンへと変えました。
これもスキルだと思います。
虹色のプディンをつくったロアさんはライザに言ってきました。
「俺にはプディンの攻撃が届かない設定になっている。お前の仲間の薬師も俺と似たようなことができるようだから、このプディンの強さを説明するまでもないだろう? この最強のプディン、どうやって対処する?」
ライザがどう動くのか楽しみだ、といわんばかりの表情でした。
ロアさんは、自分には攻撃を加えることができない虹色のプディンをつくりだしてそのプディンに戦わせる、という戦法を得意とするようです。
実際、つくられた虹色のプディンはロアさんに襲いかかっていましたが、ロアさんにダメージは入っていませんでした。
三つ目のスキル、ですかね……?
……ただ。
ライザはもう既に動いていました。
それから虹色のプディンがライザを狙い始めたので、ライザはその攻撃を躱しながらロアさんの後ろへ回り込みました。
直後、背後からロアさんに密着したライザ。
その行動にロアさんが動揺していました。
「な、なんだ!? 俺を盾にするつもりか!? それとも色仕掛けが目的か!? だが、そんなことをしても意味は――」
「あっ、向かってきてますね。『パフォーマンス・ディグラデーション』」
虹色のプディンがロアさん諸共自分を倒そうと突っ込んでくるのを捉えたライザはスキルを発動させました。
先ほど手に入れたスキルを。
すると、ロアさんが淡い光に包まれます。
黒っぽい光に。
そして――
「ぐへぁ!?」
虹色プディンの突進を顔面で受けてしまったロアさん。
ダメージは受けないはずですが、吹っ飛ばされて透明な壁に激突した彼は黒い粒子に変わっていっていました。
ちなみに、ライザはその高すぎる素早さをフルに活用して、ロアさんにはダメージが入るけれど自身にはダメージが入らない絶妙なタイミングでロアさんから離れていました。
恐らくですが、くっついていないと効果が発動しないスキルを取っていたのだと思います。
くっついている間だけスキルの性能を下げられる、というようなスキルを。
あと、虹色のプディンですが、創造主が消えると同時にその姿を消していました。
「しょ、勝者『ファーマー』ライザ!」
その宣言を受けて、彼女は私たちの方を見てVサインをつくってきました。
中堅、マーチちゃん&クロ姉vsボネ&クレム。
この戦いは少しだけヒヤッとさせられました。
というのも、相手のボネさんが『攻撃・スキル・特殊効果を一切受けないスキル』を持っていたからです。
それで、ボネさんにクロ姉の攻撃は全て防がれてしまいます。
クレムさんの『地面をプディン質な地形(底なし沼っぽい)に変えるスキル』はクロ姉の装備によって無効化できていたのですが……。
この状況をどうやって打開するのか、と固唾を呑んでいたところ、クロ姉がマーチちゃんの名前を叫びました。
「マーチちゃん!」
それが合図だったのか、マーチちゃんはスリングショットに弾をセットしてそれをクロ姉越しに射ました。
カラフルな液体が入った弾を。
それはクロ姉の身体をすり抜けてボネさんに命中。
彼女は一瞬にして消滅してしまいました。
何故ならマーチちゃんが放ったのは私特製のバステポーションだったのですから……。
ボネさんの最後に見せた表情は、困惑でした。
その後クロ姉が、ボネさんに守られていたクレムさんをハンマーによる一撃でノックアウトし、マーチちゃんとクロ姉の勝利が確定します。
そして、当たり前のように始められようとしていた大将戦ですが……。
対戦相手であるキンジンさんによって待ったが掛けられました。
「二本先取で勝ち上がる、そういうルールだっただろ!? なのに、なんで適当な理由をつけていつもいつも大将戦をやらせようとするんだ!? この試合はもう決着がついている! 『ファーマー』の勝ちだ!」
そう言って審判の方に詰め寄ったんです。
審判さんは、戦ってもらわないと困る! と言っていましたが、キンジンさんは、不正に加担する気はない! と一刀両断。
私に、決勝トーナメント頑張れよ! とエールを送ってくれました。
キンジンさん……、いい人です……っ!
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