第260話(第七章第15話) 「ラッキーファインド」は順調に駒を進めます

「Aブロック決勝進出一組目は『ファーマー』!」


 審判の方から、私たちの勝利、という宣言がなされて、私たちは特設闘技場をあとにします。


 観客席へ移動する際、私たちは先ほどの戦いについて話していました。


「そういえば、ライザ。今回、何をしたの? 気づいたら終わってたんだけど……」

「ああ、あれは向こうのスキルですよ? 『全部俺のターン!』っていう時間を止めるスキルを使われたんです」

「えっ!? そ、それって大丈夫だったの!?」

「まあ、『視て』たんで。『止まらない、止められないっ!』ってスキルを取って対策しました。それで相手のスキルを使われても動けるようにしてたんですよ」

「そ、そうなんだ……」


 先ほどの試合で、ライザが出ていた先鋒戦がいつの間にか終わっていた理由を尋ねたところ、そのわけをライザから明かされました。

 相手が時間を止めるスキルを持っていて、その効果が発動している間に『アナライズ』で対策を取っていたライザが相手のHPを削り切ったから一瞬で決着がついたように捉えられたのだそうです。

 ちなみに、相手は時間を止めたことで優位に立てると踏んでいたみたいで、ライザがスキルの影響を受けなかったことに気が動転してそれを立て直す前にライザにやられたため、止まっていた時間も十秒程度なのだとか。

 ……やはりチートですね、後出しじゃんけん……。


 私が、本当にライザとはもう戦いたくないな……、なんて感想を抱いていると、ライザが言ってきました。


「それよりも、二人称なーの時の方が問題ですよ。審判、明らかに不正を黙認してやがりましたから」

「え……っ」

「なーの相手、ゴングが鳴る前に動いてやがったでしょう? あれ、公正な審判だったなら止めて仕切り直しをするはずです。なのに、そうはしやがりませんでした。一人称わーたちに勝たせたくない、っつー意思を感じました」

「そんな……っ」


 彼女が指摘したのは私が出ていた大将戦でのこと。

 ちょっと、それ、フライングじゃない? とは私も感じていたことでした。

 緊張から気持ちが急いてしまったのか……。

 或いは、私が試合開始と同時に懐に入り込むという戦闘スタイルを取っていることを把握していてその対処をしようとしたのか……。

 どちらにしても、私の対戦相手だったネプという人が開始の合図が鳴るコンマ数秒早い段階で辺り一帯を凍り付かせる魔法かもしくはスキルを発動していたのは事実です。


 ライザが危惧している通り、「運営」側が私たちが負けることを願っている、とする場合、私たちはもっと気を引き締める必要が出てきます。

 今回、許されたのは僅かなフライングでしたが……。

 これがエスカレートしていくと、もっと明確な不正を見逃される気がしてしまいます。

 それで負けた、なんてことになったら……。

 私は前方に目を向けました。 

 やっとイベントに参加できた感じがした! と嬉しそうにしているマーチちゃんと、その横で微笑ましそうに彼女のことを見つめているクロ姉が視界に入ります。

 みんなの、特にマーチちゃんの表情を曇らされてしまうかもしれません。

 そんな展開になってしまうことだけはなんとしてでも阻止しないと……!


 私が決意するその横で、ライザが言いました。


「……まっ、心配はしていませんけどね。このパーティは強いんですから。もし何かされそうになったとしても、わーが全力で捻じ伏せてやりますよ」


 そう、真剣な顔で。

 ……本当に頼りになる仲間です。

 私は自然と口角が上がっているのを感じました。

 そんな私を見て、彼女もふっと微笑をたたえました。



 午後になってサクラさんたちの試合の時間がやってきます。

(私たちは観客席で応援)

 Gブロック三回戦第三試合「花鳥風月」vs「ワンダーランド」。

 今回の相手もシードを獲得しているパーティでした。


 正直、私は少し不安を抱えていました。

 キリさんが一回戦で苦戦して負けてしまった相手もシードを獲得していたパーティでしたので、キリさんが変に意識してしまわないか、と……。

 ですが、それは余計な心配でした。


 先鋒戦。

 キリさんは二回戦目同様『急激な気候変動』を使って地形を海に変えました。

 相手は「水中自在のウェットスーツ」と「空気のシュノーケル」を着けていなかったため弱々しい抵抗しかできなくなり、三分後には力尽きて黒い粒子へと変わっていきました。

 『急激な気候変動』……、まあまあに壊れているスキルですよね……。

(『ポーション超強化』と『有効期限撤廃(自作ポーション限定)』でステータスをカンストさせている私が言うのもなんですが……)


 そのあとは、まあ、あれです。

 ススキさん&パインくんが出た中堅戦。

 『パラダイムシフト』を使った『大爆発』を初手で行うというフェイントによって相手二人は完全にススキさんに翻弄されることになりました。

 その状態で直後に使われた普通の『大爆発』を防げるわけがなく……。

 もろに受けて戦闘不能に。


 本当ならサクラさんたちがこれで二本先取となるので終わりのはずですが、何故か大将戦が行われました。

(行わなくていい大将戦が行われるのって、私たちやサクラさんたちの時だけしか行われていない気がします……)

 内容は



――一閃。



 一回戦目や二回戦目の時と同じでした。

 開始と同時に瞬間的に間合いを詰めて目にも止まらぬ速さで相手を切り伏せる、という……。

 ……あれ? これ、やってること、私と同じでは?

 サクラさんまで化け物呼ばわりされてしまわないか心配です……。



 少し時間を置いて。

 Gブロック準決勝第二試合。

 相手パーティはまたしてもシードの「ギフテッドの師団」。


 先鋒。

 キリさんの相手はキリさん対策なのでしょうか?

 「水中自在のウェットスーツ」と「空気のシュノーケル」を着用していました。

 これで妙なスキルは使えまい! と相手プレイヤーさんは自分が勝つことを宣言していました。

 ですが……。

 キリさんの『急激な気候変動』は発動されます。



――火山地形にするために。



 今までキリさんは「海」の地形にしか替えていませんでしたが、『急激な気候変動』は何も地形を「海」にするだけのスキルではなかったのです。

 「火山」の地形になったため、相手は熱に苦しめられることになりました。

 装備の耐久値がごりごりに削られて崩壊、初期装備に戻されます。

(このイベントでは試合終了後、装備は復元されるそうです)

 そのタイミングで再度『急激な気候変動』が使われ、地形は「海」に。

 「水中自在のウェットスーツ」と「空気のシュノーケル」を失っている相手はなすすべなく黒い粒子へとなり果てました。

 ……容赦のない戦い方をしますね、キリさん……。


 中堅。

 相手二人はフェイントを意識しすぎていました。

 その所為で、開始してすぐに使われた普通の『大爆発』に対処できず、待機スペースに送られることに。

 パインくんはなんとか爆発の被害に遭うことを防げたみたいですが、抗議の目をススキさんに向けて頬を膨らませていました。

 ……今、彼に対して思ってはいけないことを思ってしまっていました。

 ごめん、パインくん……。


 もう恒例の大将戦。

 変わらないので特筆すべきことがありません。

 一閃でした。



 何はともあれ。

 サクラさんたち「花鳥風月」もGブロック決勝戦へと駒を進めることができました。

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