第258話(第七章第13話) 覚醒したキリは

~~~~ キリ視点 ~~~~



「Gブロック二回戦第五試合、先鋒! 『花鳥風月』キリvs『スターバグ』マンティスの戦いは、



――キリの勝利で『花鳥風月』が先制しました!」



 審判の宣言が響く。

 その内容はうちがこの大会において初勝利を収めた、というもの。

 その事実にうちは、


「……やっちゃったー……」



――控えめに言ってドン引きしていた(自分自身に)。



 というのも……。



 うちらの戦いが始まった、今から四分前のこと。


 うちは早速、新たに手に入れたスキル『急激な気候変動エリア・デプロイメント』を発動した。

 これは、範囲内の地形を変化させることができるスキル。

 うちには『私が通ったところに道はできる』と『忍耐の者』をライザが合わせてつくってくれた『私の居場所はここにある』がある。

 そのおかげで、全てがうちの足場になる。

 どんな地形の上も普通に歩けるし、ダメージも悪影響も受けない。


 相手も鎌二つでうちを攻めようとしてきてたし、余裕はかましてらんなかった。

 だから、一番効果がありそうな地形に変えることにした。



――海の地形に。



 相手は「水中自在のウェットスーツ」を着けてなかった。

(うちも着けてないけど、うちは忍衣装を着けてれば地形の好影響だけを受けられるんだよね)

 相手は動きが制限される。

 うちは制限されないから、間違いなくうちが有利になる。

 勝利に近づくはず、って思ってフィールド全体(透明な壁で覆われた空間全て)を水で満たした。

 めっちゃMP持ってかれたけど……。


 いきなり大量の水が出現して自分がいつの間にかその中にいたら戸惑うはず。

 その隙を逃さないようにしよう、ってうちは考えてた。

 ……けど。


「もごっ!? もが……っ!?」


 相手は苦しみ出した。

 ……うちはそういうの着ける必要がなかったから失念してたんだ。



――このゲーム、水中にい続けるには専用の装備が必要だったってことに。



 あの人、「空気のシュノーケル」を着けてなかった……。

 ……結果。

 うちの対戦相手は三分間もがき苦しんで黒い粒子へと変わっていった。

 対戦相手のメンバーが固まってた。

 サクラたちも唖然としてた。

 そして、やった張本人のうちが一番、反応に困っていた。


 うちは勝った。

 勝った、けど……。

 ……なんかちょっと想像してた勝ち方とは違った。


 うちの戦いを観客席で巨大なモニターを通して見てる人たちの声はうちがいる特設闘技場には聞こえないはずなんだけど、観客たちの声が聞こえてきたような気がした。



――「やり方がエグイ……っ」

――「鬼畜の所業だ……っ」



 と。


 うちらの待機スペースに戻るとパインが恐る恐るといった様子で話し掛けてきた。


「……キリ? 何、あのスキル……? 一瞬で水でいっぱいになったけど……っ」

「あー……、その、もう負けたくなかったからさ? スキル調整したんだよね……」


 初お披露目だったから戸惑わせちゃった……。

 うち、もう一人だけ負けるのは嫌だ、って追い込まれてたから余裕なくて話せてなかったのを申し訳なく感じる。


「い、いいスキルなんじゃないかしら? あなたは地形の悪影響を受けないのだし、あなたに合った必殺技! って感じがして、あたしはいいと思ったわよ?」

「サクラ……。ごめんね、黙ってて……」


 次に話し掛けてくれたのはサクラ。

 うちが新しく取得したスキルがあまりにも一方的過ぎるスキルだったからだろう。

 うわー……、って感じてるとは思うけど、いいところを探して褒めてくれた。

 優しいお姉ちゃんだ。

 ただ、今は、その優しさがちょっと痛い……。

 だってうちだって、あれはエグイ、って認めてるんだから……。


 そして最後。


「危ないスキルを取りましたね……。そのようなスキルをむやみやたらに使って悦に浸る、なんてことになってしまわないか心配ですよ」

「……」


 スーちゃんに注意されたけど。

 ……。

 正直に言っていいのなら、



――あんただけは言っちゃいけなくない!?



 って言いたかった。

 言ったら面倒なことになりそうだと思ったから、うちは黙って聞いていた。


 勝てたには勝てたんだけど、なんだかなぁ、って感じ……。

 ……まあ、今回のイベントはパーティ対抗だし、サクラたちに迷惑かけるよりはいいだろう、ということにしとこう。

 勝てば官軍、って言葉もあるし。

 ……ただ。

 うちのPvPイベント初勝利はちょっぴり苦いものになったのだった。



 ちょっとセツちゃんたちのいる領域に片足突っ込んじゃった感あるなー……、なんて感想を抱いている間に、中堅戦が始まった。


「中堅! 『花鳥風月』ススキ&パイン! 『スターバグ』スパイダー&ホーネット! いざ尋常に、勝負っ!」



――チュドオオオオオオオオンッ!



 ……うん。

 やっぱスーちゃんにはうちの戦い方がどうとか言われたくない。


 開始早々、『大爆発』を起こしたスーちゃんは


「ふぇ? きゃああああっ!?」


 パインをその爆発に巻き込んだ。

 パインの悲鳴を聞いて、うちとサクラの目が点になる。

 うちらがいるところに白い光が集まってきて、パインの姿が現れた時はもっと呆けてしまった。

 それでも、がくがくと震えて自分の身体を抱いてる彼(彼女?)をそのままにしておけない。


「「ぱ、パイン(ちゃん)!」」


 うちとサクラはパインのことを抱きしめていた。


 すぐに舞台の反対側からも、二人がやられた! とか、もう負け確定かよ!? っていう声が聞こえてきたから、さっきの一撃で決着がついてるって理解できたからまだよかったけど……。

 いや、パインには説明しろし。

 なんでパインにまで爆発食らわせてんの、あの人?


「しょ、勝者『花鳥風月』ススキ&パイン! 『花鳥風月』が二本取りました! よって三回戦進出は『花鳥風月』に決まりました!」


 その宣言があったあと。

 一人だけ舞台の上に残っていたスーちゃんが戻ってきた。


「いやー、上手くいきました。私が思っていた通り、相手は何もできませんでしたね」


 呑気にそんなことを言ってたスーちゃんの頭をサクラがガシッと鷲掴みにする。


「ススキちゃん? パインちゃんに何してるの? ねえ?」


 あっ、激ヤバモードだ。

 パインが泣いてる時のサクラは怖い。

 普段は怒ってもあんま怖くないんだけど、パインが泣いた時だけサクラって病むんだよね……。

 怪しいオーラを纏い始めたサクラに、スーちゃんは必死に弁明を始めた。


「や、これにはわけがあって……! 始まる前にあいつらが言ってたんだし! 『爆発』は味方の『バリア』展開を待つはずだからそれまでに潰そう、って! これ、パインが準備できんの待ってたらマズくね? って感じて、それで……!」

「でも、やっていいことと悪いことがあるわよね? あなたお姉ちゃんでしょ? そんなこともわからないの? ねえ? どうしてわからないの?」


 ……スーちゃん、サクラが怖すぎて素が出てますよ?


 このあと、スーちゃん渾身の土下座が披露されることになった。


「す、すみませんでしたぁああああああああっ!」



 ちなみに。

 うちらの二回戦は中堅で決着がついたはずなんだけど、相手チームに(主に先鋒、中堅で出てきた三人に)土下座されて何故か大将戦を行うことになった。

 ……まあ、病みモードのサクラを間近で見た対戦相手が、そのおどろおどろしさに屈して棄権したから、結局二回戦突破が覆ることはなかったんだけど。

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