第257話(第七章第12話) ルールに載ってないなら

~~~~ キリ視点 ~~~~



 セツちゃんはうちが泣き止むまで傍にいてくれた。

 何も言わずにただずっとそこにいてくれた。

 もう大丈夫、ってうちが告げたら、セツちゃんは次の言葉を残して去っていった。


「このゲームの強さ、ってスキルに依存する部分が大きいと思います。大事なのはスキルの合わせ方なのではないでしょうか? 勝ちにこだわるというのであればいっそのことスキルを替えてしまう、というのも手段の一つかもしれません」



 うちは広場の噴水で一人、考えさせられていた。

 彼女が言ってた、このゲームでのプレイヤーの強さがスキルに依存する、というのはうちもわかっていた。

 そのために、スキルを替える……。


 そういえば、スーちゃんはPvPイベントの予戦が始まる前にスキルを替えてたっけ……。

 『雲蒸竜変』から『火薬類取扱保安責任者』に。

 スーちゃんが持ってた『大爆発』を補助するスキルを取っていた。

 それにスーちゃんには『パラダイムシフト』もある。

 この三つのスキルを掛け合わさせたことで、スーちゃんは復活薬がないと一回も使えなかった『大爆発』を何回でも使える必殺技へと昇華していた。

 スキルの合わせ方が大事、っていうのがよくわかる例えだ。

(ジョブスキルは三つのスキルとシナジーがあるわけじゃないけど、確かスーちゃんは、近接職の中で最速だからその職業に就いた、って言ってたっけ)


 考えてみたらパインだってそう。

 タンクとしてこの上ない組み合わせのスキルを持ってる。

 『我が身を盾に』でピンチの仲間のカバーができ、『堅牢優美の障壁』で自分や味方を危機から救える。

 さらにタンクにありがちな相手にダメージを与えにくいという欠点を、ジョブスキルの『聖女の慈愛』と三つ目のスキル『痛いの痛いの飛んで行けっ!』で補っている。

 よく考えられている構成だ。

 あのお兄ちゃんはゲームなんてあんまりしないから、狙って有能タンクになろうとしたわけじゃないと思うけど。

 たぶん、みんなのことを考えてたら自然とあの組み合わせになったんじゃないかな。


 サクラは……どうだろう?

 そもそも『能ある鷹は爪を隠す』が強すぎて他のスキルにあんまり目がいかない。

 でも確か、『初期装備・侍』は刀をゲットするのに必要なスキルで、ジョブスキルの『達人の目』は『能ある鷹は爪を隠す』と相性が良かったはず。

 『我らに勝利を』だけはサクラ自身に効果をもたらすスキルじゃないけど、うちら姉妹のことを常に考えてるサクラらしい選択だと思う。


 クロは……。

 『ポケットの中のビスケット』を持ったマーチちゃんが仲間にいなかったらあそこまでの強さにはならなかっただろうけど、装備に好きな特殊効果を付けられる『名匠たる所以』があの人の装備はヤバいことにさせてる。

 その『名匠たる所以』を上手く機能させるための『数だけ強くなる』と『素材管理』。

 この三つは全て鍛冶師の『鍛錬』があってこそ。

 あの人は完全に鍛冶師特化型だ。


 その、クロとスキル面で相性がいいマーチちゃんだけど……。

 『ポケットの中のビスケット』が強力。

 セツちゃん特製のMP回復ポーションを増やせば、MPがなくなる心配がなくなる。

 あとその『ポケットの中のビスケット』とシナジーがある『収納上手』をマーチちゃんは持ってる。

 お金を得やすい商人の特性を活かして、装備で戦えるようにしてるマーチちゃん。

 確か、このイベントが始まる前にもう一つのスキルを替えてなかったっけ……?

 兎に角、スキルの組み合わせがいいのは確かだ。


 ……ライザ。

 彼女がある意味一番ヤバい。

 ジョブスキルはネタで使い勝手が悪すぎて、『トリックスター』は使わないのに誰かの手に渡ってセツちゃんがピンチになるのを防ぐために手放さないでいる。

 スキル枠が一つ圧迫された状態であっても、『アナライズ』がぶっ壊れ性能過ぎ。

 それと「スキル変更の巻物」を駆使して相手の弱点を突く、っていう後出しじゃんけんをするチート。

 もう一つのスキルはよく変わる。


 そしてセツちゃん。

 彼女も薬師特化型。

 『ポーション超強化』と『有効期限撤廃(自作ポーション限定)』、『薬による能力補正・回復上限撤廃』によって、つくった薬の効果が切れない。

 だからステータスがとんでもないことになってる。

 あんなに、薬師は弱い、って言われてたのに。

 彼女を見ると、スキルの組み合わせがいかに大事なのかがよくわかる。


 対してうちのスキルは……。

 『私が通ったところに道はできる』、『初期装備:忍』、『忍耐の者』、ジョブスキルの『隠形術』……。

 ……シナジーはある。

 でもそれは、特殊な地形を難なく渡り切ることができるっていうことに関してで、どれも戦闘には向いてない。

 ……これは見直す必要がある、と感じた。


 悩んで、悩んで。

 うちは一つだけ思いついた。

 それを実行するためにうちは、ある人の元に向かった。

 こういう時、一番頼りになる人の元に。



「というわけなんだよね。協力してもらえないかな?」


 観客席。

 手を合わせて頭を下げる。


「はあ……、まあ、いいですが。一人称わーは何をすればいいんですか?」


 うちが頼ったのはライザ。

 やっぱり『アナライズ』を持つ彼女のアドバイスは聞いておいた方がいい、と思ったから。


 周りに人がいない場所に連れてきたライザにうちは伝えた。


「このイベント中に『スキルを替えちゃいけない』ってルール、なかったよね? だから、その場所の地形を変えるスキルを取りたいんだけど」

「……ほう」

「どれを替えればいいんだ? って悩んでてさ。ライザの意見を聞こうと思って。どれがいらないと思う?」


 新しく得るスキルの代わりに捨てるスキルの相談をライザにすると、彼女は驚きの発想を展開してきた。


「そういうことならわーに付き合ってください。ちょっと試してみたいことがあるんですよ。上手くいけばスキルを捨てなくて済むかもしれません」


 そう言ってライザは取り出したアイテムを自分に使った。

 ポーチから取り出した「スキル変更の巻物」を。


 そして、うちの手を取ったかと思うと……。


「『スキル合成シンセサイザー』」


 そう発して、うちを淡い白い光が包み込んだ。


 うちが驚いている間に、ライザは納得してうちに言ってくる。


「……成功ですね。二人称なーのスキルは性能が似通ってるのがあったんで、くっつけられるんじゃねぇか? って思ってたんです。案の定、その通りでした」

「え、えっ?」


 困惑することしかできないうちにライザが説明してくれた。


「わーが先ほど取ったのは『スキル合成』っていうスキルです。その性能は、二つのスキルを対象として使うことができて、それらのスキルが部分的に被っていた場合、一つに纏めることができる、っていうものです」

「っ!」


 まさしく斜め上の発想。

 うちは、どれかを諦めるしかない、って諦めてたのに……。

 ライザはうちが諦めなくてもよくしてくれた。


 それからライザはうちに「スキル変更の巻物」を渡して、少し離れたとこにいたセツちゃんたちの元に戻っていった。

 うちは彼女に感謝しながらスキル『急激な気候変動』を自分の所持スキルの中に追加した。

 ここまでしてもらったんだ。



――次の試合は絶対に勝つ!



 そう、うちは心に誓った。

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