第256話(第七章第11話) 気にしてください
~~~~ キリ視点 ~~~~
ハッとする。
気づいた時にはみんなの近くにいた。
舞台からは降ろされていて、パインが横になってるうちの頭を支えながら顔を覗き込んできていた。
その目には涙が溜まっていて。
すごく心配してくれていたのが伝わってきて。
うちも泣きそうになっていた。
彼の温かさに触れて、さっきまで感じていた冷たくて独りぼっちだった時の恐怖が和らいでいったから。
ただ、無情にも、この宣言は聞こえてきて。
「勝者『ベータテスターの集い』ジオ! 続きまして中堅戦を行います! 出場するプレイヤーの皆様はフィールドに上がってください!」
ああ、うちは負けたんだ、って嫌でも実感させられて。
みんなに負担をかけることになっちゃったことに気分が沈んでると、スーちゃんの声が聞こえてくる。
「……行きますよ、パイン。キリにこんな顔をさせたことを後悔させてやりますよ?」
その声はパインの耳にも入っていて。
うちの頭を撫でたあと、サクラにうちのことを任せて立ち上がって言った。
「行ってくるね、キリ。キリの分までお兄ちゃん頑張ってくるから」
うちに、心配しなくても大丈夫だよ、と励ましてくれて、スーちゃんと一緒に舞台に上がっていくお兄ちゃん。
……今のその格好でお兄ちゃんっていう? っていう言葉は言わないであげよう、って思った。
「中堅、『ベータテスターの集い』ハイドロ&パイロvs『花鳥風月』ススキ&パイン! いざ尋常に、勝負っ!」
二本目が始まった。
うちはサクラに起こしてもらって戦場を見つめていた。
その戦いは、一方的なものだった。
「ねえ、パイロ? あの人って確か『爆発の人』よね? 対処必須でしょ?」
「ああ、そうだな、ハイドロ。一気に決着まで持っていくぞ! 『バックドラフ――』」
「ゾーン・シール……!」
相手二人は戦いが始まるや否や、スーちゃんに目を付けた。
たぶん、危険視してたんだと思う。
スーちゃんは前のイベントの時『大爆発』を使いまくってて大分有名になってたから……。
パインを射程から外してスーちゃんだけを狙える位置に移動して、スキルを使用しようとした二人。
けれど。
パインが自身の周りに透明な半球の形をしたものを展開し、それが急速にその範囲を広げていった。
触れられないそれは相手二人を呑み込んで。
その二人が慌て始めた。
「っ!? 『バックドラフト』! 『バックドラフト』っ! ……おかしい! スキルが発動しない!」
「えっ!? う、『ウォーターカッター』! ……ほんとだ! どうして!?」
スキルが使えなかったから。
その原因はパインが使った魔法「ゾーン・シール」にある。
対象をスキルが使えない封印状態にするシールの広範囲版で、範囲内に入った敵が範囲内に入っている間スキルを使用できなくする魔法。
この「敵」ってところがポイント。
仲間はこの魔法の影響を受けない。
要するに、
「キリにあんな無残な死に方をさせて……。覚悟はできているんですよね!?」
――チュドオオオオオオオオン!
狼狽える相手二人の元に近づいて行ったスーちゃんが自分を中心とした大きな、大きな爆発を発生させた。
「な――っ」
「ひ――っ」
あの「ゾーン・シール」は、味方はその対象に含まれない。
激しい爆炎がフィールド全体を包み込んだ。
黒煙が充満して、フィールドを囲っている透明な壁の中は見通せなかったけど、その煙が晴れる前に相手の待機スペースに二人のプレイヤーが転送されてきた。
(舞台が高すぎてその瞬間を実際に見たわけじゃなかったけど、白く光ってたからたぶんそうなんだと思う)
フィールド内の煙が薄くなっていく。
スーちゃんは悠然と立っていて、その近くにはハニカム構造のドームを展開しているパインの姿もあって。
(「ゾーン・シール」は術者自身も対象に含まれないから、パインもスキルを使うことができる)
(対人戦において最強の魔法なのでは……? なんて思ったり)
スーちゃんとパインしかいないフィールドの状況を見て、審判が宣言した。
「しょ、勝者『花鳥風月』ススキ&パイン! 一対一になったため大将戦を執り行います!」
スーちゃんとパインが勝った。
よかった、まだ終わらなくて。
うちの所為で終わっちゃったら申し訳なさすぎる。
本当にそう思ったんだけど。
……でも。
――何かがうちの胸に刺さっていた。
大将戦はサクラとエアロって人。
これもすぐに決着がついた。
「しょ、勝者『花鳥風月』サクラ! よって二回戦進出は『花鳥風月』に決まりました! シードであるパーティを下す大番狂わせですっ!」
サクラには『能ある鷹は爪を隠す』がある。
帯刀していればいるほど「攻撃」と「素早さ」を上げられるスキルが。
(「素早さ」はセツちゃんやライザ、クロには劣るんだけど……)
それで一瞬で間を詰めて、一撃で相手に膝をつかせた。
相手が攻撃する隙もスキルを使う暇も与えなかった。
圧倒的な勝利を収めていた。
負けなくてよかった。
まだイベントを続けられることが嬉しい。
……そのはずなのに。
――胸の痛みは増していて。
「キリ。切り替えていきましょう」
「そ、その、ボクたちだって負けることがあるかも、だから……」
「だ、大丈夫よ、キリ! 責任は全てお姉ちゃんに押しつけなさい! 何がなんでも勝ってみせるんだから……!」
サクラが戻ってきて。
みんなに言われた。
注意に同情、励ましの言葉……。
うちのことを心配してくれてるのは伝わってくる。
けれど、うちは居たたまれなかった。
「……ごめん。ちょっと外の空気吸ってくるよ!」
うちは無理に笑顔をつくって、走ってみんなから離れた。
イベント会場から街に戻って。
噴水の縁に座って。
ただ、空を見ていた。
……うちは弱い。
……うちだけが一人、負けた。
その事実がどうしようもなく。
悔しかった。
どうすればみんなに迷惑かけないようになるかな……?
そのことをどうしても考えちゃってた。
そんなうちのところに……。
「お疲れさまです、キリさん」
女の子が一人、やってきた。
……セツちゃん。
うちらの中じゃ、たぶん一番強い子が。
「……どうしてここに?」
セツちゃんの方を見て尋ねてた。
彼女は、
「観客席で見てたんですけど、様子がおかしかったので」
って。
「……」
……一人だけ負けたのを気にしてることがばれてたみたい。
心配かけたくなかったから、みんなの前では気丈に振る舞ってたつもりなんだけど……。
うちは、顔を逸らしながら取り繕うとした。
でも、その前に彼女は言った。
「気にしてください」
「え――」
なんて冷たいことを言うんだ? って思った。
彼女の顔を見るまでは。
彼女は優しく見つめるような顔をしていて。
伝わってきた。
彼女が、気にするなといわれる方がつらいと思うから、と感じていることが。
実際、その通りだった。
気にするな、って言われると余計に気になっちゃって。
励ましてもらってるのに気分を落ち込ませている自分がなおのこと嫌になってた。
それをこの子は汲み取ってくれたんだ。
セツちゃんの配慮に。
うちは涙をこらえることができなくなった。
泣きじゃくるうちに、セツちゃんは肩を貸してくれて。
そして、言ってくれた。
「大事なのはこれから。……でも、今のキリさんなら大丈夫でしょう。今の、悔しいと思っているキリさんなら。絶対に前に進める。私はそう思います」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます