第255話(第七章第10話) Gブロック一回戦第九試合

~~~~ キリ視点 ~~~~



『勝者「ファーマー」セツ! またしても特例による下克上ならず! 「ファーマー」、三回戦進出確定っ!』


 あはは……。

 やっぱ強いねー、セツちゃんたち……。

 一切危なげなかったもん。

 他のパーティが大体二十分くらいかける試合を、セツちゃんたちは約一分で終わらせてる……。

 しかも、やらなくていいはずの三本目をやらされてるっていうのに……。

 格の違いを見せつけられた、って感じかな。

 ……でも。

 あれを見て、うちらも頑張んなきゃ、って思えたんだよね。

 それはたぶん、「花鳥風月うちら」みんなが感じてたことなんじゃないかな?



 それからお昼ご飯を食べるために一旦ゲームをやめて、戻ってきて作戦なんかをみんなと考えたり話し合ったりして。


 ③の15時48分。

 うちらの番が回ってきた。

 Gブロック一回戦第九試合。

 相手は「ベータテスターの集い」。

 予戦を免除されたパーティの一つ。


 うちは先鋒を任されてる。

 向こうの先鋒は岩みたいにデカい人。

(うちはまだ舞台の下にいたけど、その人はもうステージに上がっていた)

 ジオ、っていう人みたい。

 ジオ……。

 どっかで聞いたような……。

 ……。

 そうだ!

 ダンジョン踏破のイベントの時にトップテンにあった名前じゃん!

 うっわ……。

 トップランカーが相手とか勝てっかなー……?

 ……超不安なんですけど。


 この舞台があるとこに来る前、セツちゃんたちにエールを送ってもらったけど、ここからじゃ観客席の様子がわかんない。

 あー……、セツちゃんたちの声が聞こえたら、もうちょっと緊張しないでいられたんじゃね? なんて思ったり。

 ……まあ、でも。


「が、頑張ってね、キリ……!」

「あなたは一本目なんですから気楽にやって構いません。全ての責任は大将であるサクラが取ってくれます」

「うぇ!? ちょっと、ススキちゃん!? プレッシャーかけないで! や、やばい、心臓が……っ! ひっひっふー……!」

「サクラちゃん、落ち着いて!? それ違うから!」


 うちにはこの人たちがいるんだよね。

 スーちゃんがサクラを揶揄って、テンパるサクラを見たパインがもっとテンパる。

 それがおかしくって。

 だいぶ助かった。

 ……うん、落ち着いた。

 ありがとね、三人とも。

 うちは軽くなった足取りで舞台の上へと上がっていった。


「それではこれより先鋒戦を開始します! 『ベータテスターの集い』ジオvs『花鳥風月』キリ! いざ尋常に、勝負!」


 審判の人が宣言して、戦いが始まった。


 うちは早速ジョブスキルを使って気配を消す。

 『隠形術』……攻撃するまで認識されなくなるスキル。

 暗殺するには超有能。

 ジオって人もきょろきょろと忙しなく首を動かしてて、うちを見つけ出そうと必死になっていた。

 これで一気に終わらせる!

 って、そう思ってたんだけど……。

 そう上手くは運んでくれなかった。


 相手の人は左の足を天井に向けてまっすぐに伸ばした。

 そして――


「ふんっ!」


 その足を降ろし、強く地を踏んだ。

 まるで相撲の四股のように。

 瞬間。


「わわっ!?」


 ぐらっと。

 烈震か激震か。

 兎に角、地面がものすごく揺れた。


 うちは急に発生した振動にびっくりして尻もちを搗いてしまった。

 なおも地面は激しく揺れていて立つことがままならない。


「く……っ!」


 これってスキル?

 ……まずいっ。

 うちの強みは、ダメージも悪影響も受けずにどこでも歩ける、って点。

 歩けないと話にならない……!


 幸い、ジョブスキルの効果はまだ切れていないみたいだった。

 ジオって人は明後日の方向を見ている。

 今のうちに体勢を立て直して……! って思ってたんだけど、



――ジオが片膝をついて地面に手を付けたかと思うと、今度は地面が動き始めた。



 フィールド全体の地面が一メートルほどのキューブ状に切り分けられてバラバラの高さに打ち上げられて、それぞれがものすごい勢いで別々の方向に動き出した。

 前後左右上下、そこに規則性なんて微塵も感じさせない。

 急な方向転換は当たり前で、キューブ同士がぶつかることもお構いなしで。

 一つのキューブと一緒に打ち上げられたうちは放り出されて、空中を舞うキューブを避け続けることを余儀なくされた。

 うちには『私が通ったところに道はできる』があったから、高いとこから振り落とされてダメージを受けることはなかったんだけど、四方八方、どこからでも襲ってくるキューブに当たらないようにするのはムズかった。

 そもそも相手はうちが見えてなくて適当に動かしてるだけみたいだったから、狙われてる時より却ってキューブの動きが読みづらくて……。


「あがっ!?」


 背後から来た一つのキューブにうちは当たっちゃった。

 ジオって人はうちが悲鳴を上げた瞬間、偶々うちの方を見ててそれで居場所を大体絞り込まれちゃって……。

 うちは前後左右上下、どの方位もキューブで包囲された。

 そしてそのキューブたちは一気にうちとの距離を詰めてきた。

 うちを押し潰そうとしてたんだ。

 迫ってくるキューブの隙間をなんとか抜けて、うちは地面に着地した。

 ジオって人はまだ宙に浮かんでいるキューブの塊(さっきまでうちがいた場所に、押し潰そうとしてキューブを動かしてできたもの)の方を見ていた。

 うちが下りてきたことに気づいてない。

 チャンス! って思った。

 うちはジオって人を攻撃しに向かった。


 しかし――



――後ろから忍者刀で急所を狙った時、ジオって人は簡単に崩れ落ちた。



「え――」


 簡単に落ちた首が土くれへと変わっていて。

 何が起きたのか一瞬、理解できなかった。

 そして、まずい、と判断することができた時にはもう遅かった。



――がしっ



 掴まれる。

 足首を。

 思わず確認した。

 そこには、



――まるで水の中にでもいるかのように、地面から顔と手だけを出しているジオの姿が……っ!



 うちは、地面の中へと引き摺り込まれた。


「えっ!? ちょっ、待……っ!」


 どんどん沈んでいく身体。

 底なし沼にでも嵌っていくかのように。

 抵抗すればするほど、うちの身体は地面の中に入っていく。

 そして、ついに……。



――うちの身体は全部、地面の中に取り込まれてしまった。



 そのあと。


「っ!?!?!?」


 うちの身体は強烈な痛みを訴えてきた。

 痛いなんてものじゃなかった。

 縦からも横からも前後からも、恐ろしいほどの力を加えられて、うちの身体が潰れていっているのが理解できてしまった。

 叫びたくても地面の中だからか声にならない。

 うちは「死」を直感した。


 実際、うちはすぐに黒い粒子に変わることになる。

 うちは、負けた。

 それに悔しさはあった。

 けれど、それよりも。



――誰もいないところで死ぬことへの恐怖を感じさせられてしまったことが、情けなくて自分が嫌になった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る