第254話(第七章第9話) Aブロック二回戦第一試合は……

――サー……ッ



 床に叩きつけられた鎌の人が黒い粒子となって消えていきます。

 それに伴って、彼女が出現させた泥の人形も全て消失しました。


「しょ、勝者『ファーマー』セツ! 特例による下克上ならず……! 二回戦に進出するのは『ファーマー』で確定しました!」


 審判さんの宣言が響いて、それを聞いた私はホッと胸を撫でおろします。

 マーチちゃんたちに迷惑を掛けなくてよかった……。


 私は舞台から降りてみんなの元に向かい、彼女たちに謝りました。


「ごめんね? やらなくてもいい勝負を引き受けちゃって」

「お姉さんはまったく……。人がよすぎるの。あの人の仲間のことを心配してたんでしょ? ……まあ、それがお姉さんらしいと言えばお姉さんらしいのだけれど」

「セツが負けるとは思ってねぇんで、セツのやりたいようにすればいいと思います。それよりも問題なのは、あのプロデューサーです。 職権乱用でしょ、あれは。勝手にルール変更しやがるなんて、憤懣やるかたねぇですよ」

「けど、滑稽。思い通りにならなかった。流石セツちゃん。相手のリーダーも、プロデューサーも、ざまぁw」


 すると、マーチちゃんは呆れつつも私の行動を認めてくれて。

 ライザは私を信用してくれていて(「運営」への不満はたまっていましたが)。

 クロ姉は私を褒めてくれて。

 私は仲間に恵まれていますね……。

 対戦相手の彼女たちの仲がぎすぎすしていましたから、余計にそう感じました。


 その彼女たちですが、


「あ、あの……!」


 対戦を終えた私の元に三人が駆け寄ってきました。

 私と戦っていない三人です。


「た、助けていただきありがとうございました……!」

「私たち、誤解してました……! あなたたちがまともじゃない手段でシニガミ様に取り入ったんじゃないか、って……っ」

「普通に強かった……! シニガミ様は強い人がお好きだから、あの方に気に入られたのは納得できたわ。勝手にやっかんでしまって本当にごめんなさい……!」


 三人はそう言って頭を下げてきました。

 私は慌てさせられます。


「い、いえ! 私が見ていられないって思って勝手にやったことなので……!」

「お、お優しい……!」

「あれほど強いのに驕らないなんて……!」

「人間ができているのね……。とても魅力的だわ……っ」


 複数のそれも年上であろう方たちに、九十度に腰を曲げられて感謝と謝罪をされているという状況に耐えられなくなって、私は、自分のためにやっただけ、と言ったのですが、何故だか今度は尊敬の念を向けられることに。

 褒めちぎられて居たたまれなくなって、どうやって切り抜けよう!? と戸惑っていたところ……。

 私と対戦した人が復活して、私たちの元へやってきました。

 その様子は……。


「フー、フゥー……! あり得ない! あり得ない、あり得ない、あり得ない、あり得ないっ! あたしが負けるとかおかしい! インチキ! マッチポンプ! 『運営』と組んでるに決まってる! 正々堂々あたしと勝負しろっ!」


 フードが目深に被られているので口元しか捉えられませんでしたが、歯茎を剥き出していたことから激昂していることが窺えました。

 鎌を振り上げてこちらに向かってきているその人。

 それを見て、その人の仲間の三人が私の前に出てきました。

 私を庇うように両腕を広げていて、私の盾になろうとしているようです。

 三人の行動を目の当たりにしたその人は、さらに苛立ちを強くさせていました。


「や、やめてください……!」

「っ! 何、あんたたち! そいつらはシニガミ様を誑かす悪党なんだけど!? そいつらに与しようっていうの!? それがどういうことなのかわかってるの!? シニガミ様に対する重大な裏切り行為よ!? 粛清! 粛清が必要だわ!」


 仲間が止めようとしても鎌を持った人は止まりませんでした。

 私の視界に入っている私を庇おうとする三人が僅かに震えているのが見えて……。

 私は正面にいる一人を右側へと押し退けて、彼女たちの前に出ました。


「大丈夫です。……約束、守っていただけませんか?」

「何カッコつけてんの!? わかったわ! あんたから粛清してやる!」


 約束、という言葉を出しても効果はなく……。

 不正を正す! と言って、私に突っ込んでくるその人。

 私は、この鎌の人を倒すことも考慮しなければいけない、と考えていたのですが……。

 私の視界に、横からものすごいスピードで入ってきた人がいました。

 キンッと、その人の構えた武器が、こちらの首を狙って振り回された鎌を押さえました。

 相手の凶行を止めたのは



――クロ姉です。



 クロ姉に制された鎌の人は叫びました。


「っ!? 何すんのよ!」


 ただ――


「……何する? それ、こっちのセリフ。お前、セツちゃん、困らせた。許さない。その代償、きっちり、払ってもらう。償え。償え償え償え償え……」


 クロ姉からはどす黒いオーラが放たれていて。


「ひっ!? なんなのよ、あんた!」


 そんなクロ姉と対面しても威勢は崩さなかった鎌の人は、今度は鎌を振り上げようとします。

 しかし、そう動かす前に鎌の先をクロ姉が抓みました。

 クロ姉がやりすぎてしまいそう……!

 このままだとそうなる予感がして、私はとっさにクロ姉に忠告しました。


「クロ姉、殺すのはなしだよ?」

「……セツちゃんがそう言うなら仕方ない。で許してやる。寛大なセツちゃんに感謝して?」


 私が注意をしたことで最悪な展開になることだけは避けられそうでしたが、不気味すぎるクロ姉の笑顔を見せられて、私は不安を覚えざるを得ませんでした。



 結果。

 最初はクロ姉を煽っていた鎌の人でしたが、クロ姉に武器の特殊効果を『攻撃不可』と『装備変更不可』に変えられて絶望することになりました。

 最終的に、その人はクロ姉に泣きつきましたが、クロ姉は相手にせず、その人は泣きながら走り去っていきました。

 クロ姉の言う、ちょっと、とはいったい……?



 ちなみに、私たち「ファーマー」の二回戦の相手は「777」という予戦を免除されたパーティの一組でした。

 ですが、苦戦を強いられることなく勝利を掴み取ることができました。

 内容は一回戦とほぼ同じ。

 ライザは「巻物」を使ってスキルを有利なものに替えて相手の『ギャンブル』というスキルを封殺。

 マーチちゃんとクロ姉、それと私は相手に何もさせることなく決着をつけました。

(またプロデューサーさんという方が「大将戦で勝利すればトーナメントを勝ち上がれるものとする」なんて言い出したため、本来なら戦う必要がなかった私も戦わされる羽目に……)

(あれ、私たちが試合してる時にしか言ってこないんですけど、もしかして私たちって「運営」に嫌われてるんでしょうか……?)


 私たちの試合は今日はもうありません。

 あとは午後(現実)、サクラさんたちの応援を頑張らなければ……!

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