第253話(第七章第8話) 一番強いのは(セツ視点)
Aブロック一回戦第一試合は私たちの勝利で終わりました。
審判の方が、第二試合を始めるため退場をお願いします、と告げてきます。
私たちはそれに従って観客席の方に移動しようとしたのですが、
「『桜の樹の下』! ふざけてんの!? なんなの、あのやられ方は!?」
「も、申し訳ありません……! ま、まさか、『呪い』を返されるとは思わず……」
「言い訳なんて聞いてないわよ! あの鑑定士、一歩も動いてなかったじゃない! 『呪い』を対処されるかも、とは考えなかったの!?」
「い、今まで一度もなかったので……」
「バカなの!? 想定しなさいよ! 判明したスキルも、少なくてもあんたの『呪い』を返せる、ってことだけ! これだけの情報ではシニガミ様はお喜びにならないわ! 忠誠心が足りないんじゃない!?」
「うう……っ」
先ほどまで戦っていたパーティ「ファンクラブ」の方で口論……というか、大将戦に出るはずだった方が先鋒戦に出た方を責めていました。
その責め方は容赦がなく、マーチちゃんやクロ姉と戦った二人が見ていられなかったようで止めに入ります。
「あ、『赤い月』? 『桜の樹』も反省しているようだし、もうその辺で……」
「そ、そうですよ、『赤い月』さん……! 今回は相手が悪かったのではないかと……! それ以上責めては『桜の樹』さんが可哀想です……!」
「『クモ』……『クロネコ』……っ!」
大将戦に出るはずだった方の前に中堅戦に出た二人が先鋒戦に出た方を庇うように立ちました。
しかし、それで収まることはなく……。
「『クモ』、『クロネコ』……っ! あんたら、『桜の樹』よりもヒドいわ! 一瞬でやられてるじゃない! 何!? 試合時間が十秒もなかったなんて! 相手がどんなスキルを持っているのかもわからなかったし! どんな手を使ってでもあたしに回しなさいよ! それがあんたたちの役目でしょうが!」
大将戦に出るはずだった方の怒りは増していました。
そして、他の三人に無茶なことを言い付けます。
「シニガミ様を崇拝しているというのにこの体たらく! 負けた実績がある従者なんてシニガミ様には相応しくないわ!
――さっさと生まれ変わってリセットして! 強くなれなかったら、あんたたちにシニガミ様のファンを名乗る資格なんてないから!」
「そ、そんな……っ!」
「お、お願いです! それだけはどうかご勘弁を……!」
「し、死にたくない……っ!」
三人は慌てだしました。
悲愴の表情に染められていて、大将戦に出るはずだった方に慈悲を求めていました。
しかし。
「シニガミ様のお顔に泥を塗るような、力不足なのはいらないんだよ! シニガミ様に迷惑をかけたというのに、そんな自分の尻を拭うこともできないなんて! どこまでシニガミ様をコケにすれば気が済むの!? ……もういいわ。自分でできないんだったら、あたしが手伝ってあげるわよ!」
大将戦に出るはずだった方はあろうことか、武器の鎌で仲間の三人を攻撃しようとしたのです。
その光景を見てしまった私は、
「っ!? 動かな――っ!? はっ!? いつの間に!? あ、あんた、何してんのよ!?」
とっさに近づいて、鎌を持っている人の腕を掴んで止めていました。
「どうしてそんなことをするんですか? 仲間なのでしょう?」
「シニガミ様のために勝利を勝ち取れないこいつらと同類になんて思われたくないわ! っていうか、あんたには関係ないでしょ!?」
鎌を持っている人に凄まれましたが、私は臆することなく言ってやりました。
「見ていて気分のいいものではなかったので」
「こ、こいつ……!」
その私の態度が気に食わなかったのでしょう。
鎌を持っている人は審判に怒鳴り散らすように言いました。
「審判! こいつと戦わせて! それであたしが勝ったらこの試合、あたしたちの勝ちにして!」
「そ、そんなこと言われても……!」
無茶な要求をされて困り果ててしまう審判さん。
……気の毒です。
それからしばらくの間、戦わせなさい! というのと、ルールなので無理です! という問答が繰り返されました。
審判さんの方が正しかったので、鎌を持った人の言い分は通らないように思えたのですが――
『いいですよ? 面白そうなので今回だけは許可します。もちろん「ファーマー」側の許可があれば、ですが』
と、聞いたことのない声がバトルフィールドの上につけられているスピーカーからしてきました。
どちら様? と思っていると、審判の方が震え始めます。
「ぷ、プロデューサー!? よろしいのですか!?」
声の主はプロデューサーさんとのこと。
確か、ゲームをつくっている責任者さん、でしたっけ……?
これってもしかして職権乱用というやつなのでは?
訝しんでいる私に、審判さんが聞いてきました。
「あ、あの、特例が出てしまいましたが、『ファーマー』の大将の方、対戦の申し込みを受けますか?」
「うーん……」
私がここで、戦う、と宣言するのはあまりよくないことのように感じられます。
みんなが勝ってくれて次に進めることがもう確定しているのに、もし万が一、私が戦うことを了承して負けてしまったら彼女たちの勝利を無駄にしてしまうことになりかねないのですから。
みんなのことを思えば、受けない選択をするのが正しい判断だと言えるでしょう。
ですが――
「あっ、そうだ! あんた、こいつらを責めるのをやめてほしそうだったしぃ、あんたが万が一にも勝てたら、あたしはこいつらに何もしないって誓ってあげるよ? まあ、薬師如きがあたしに敵うわけないけどね! キャハハハハッ!」
その言葉を聞いて、あの三人が怯えているのを見て。
私は――
「……わかりました。約束は守ってくださいね?」
応じてしまいました。
異常なほどに震えている三人をそのままにしてはおけなかったんです。
私の事情だけで決めてしまって申し訳なくて、みんなの方を見てみると、マーチちゃんとライザはやれやれといった感じで、それでも私の決断を尊重してくれていて。
クロ姉は笑顔で私の応援をしてくれていました。
『それでは、責任者の許可が得られたので特例として大将戦を行います! 「ファーマー」セツvs「シニガミファンクラブ・ミタマちゃんの集い」赤い月! いざ尋常に、勝負っ!』
相手にとっての泣きの一本勝負が始まりました。
舞台の上にいるのは私と相手の人と審判さんの三人です。
相手の人が高々に言ってきました。
「キャハハッ! ねえ、あんた、バカでしょ? あたしはあの三人より強いのよ? 折角お仲間さんたちがもぎ取った勝利を、他のパーティの掟に首つってんで台無しにしちゃうなんてさ! 『スワンプマン』!」
私を嘲笑しながらスキルを発動したその人。
床から泥人形のようなものが四体、形成されました。
その形は私を模しているようにみえます。
「あたしのスキルは、対象のプレイヤーを複製して使役する、ってもの! それが四体もいるの! これが何を意味するか、いくらバカなあんたでもわかるんじゃない? さあ、行きなさい人形ども! これで一回戦突破はいただきよ!」
泥の人形に命令する鎌を持った人。
しかし、泥の人形は動きませんでした。
私は、前にライザに教えてもらっていたことを思い出します。
コエちゃんとカラメルの関係を見た時のことを。
――支配・使役系のスキルは使用者より対象のレベルが高くなるにつれて成功しにくくなるのに、と。
「へ? ま、まさか、あんたの方がレベルが高いなんてそん――ぐへぇ!?」
私は瞬間的に距離を詰めて、何か言っていた鎌の人を投げ飛ばしました。
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