第252話(第七章第7話) 圧倒的なのはライザだけじゃありません

~~~~ サクラ視点 ~~~~



「……えっ? 何が起きたんだ、今……?」

「わ、わからん……! だが、あの死に方はあの『呪い師』の呪いによるものだ! 予戦でモンスターやプレイヤーをああやって倒していたから間違いない……っ!」

「ちょ、ちょっと待って!? それっておかしいじゃん! あの『呪い師』しかその呪いは使えないはずでしょ!? それなのになんで『呪い師』の方がその呪いにかかってるの!?」

「スキルは同じものをつくれないから、他人のスキルを使えるスキルか、スキルの効果を相手に返すスキルか……。どっちにしろ、あの鑑定士、やばいスキルを持ってるのは確かだ……っ」


 あまり多くはないのだけど、観客席にいたあたしたち以外の観客からどよめきの声が上がった。

 ライザさんが勝ったことが意外だったみたい。

 ライザさんは過去のイベントで優勝しているのに彼女の力を信じている人がいなかったということの方があたしにとっては驚きだった。

 彼女が鑑定士だから?

 ……だとしても彼女の強さを疑うなんて失礼じゃないかしら?


 あたしが不満に思っていると、パインちゃんとコエちゃんを挟んでその隣にいたキリちゃんが愉快そうに笑いだした。


「ねー? 言った通りっしょー? すぐにわからせてくれるって」


 もう周りの反応になんて興味をなくしていて、ライザさんの強さ、ただそれだけを見ているようなそんな様子でモニターに視線を向けていたキリちゃん。

 それを見て、あたしは思い直した。

 周りがどれだけ彼女たちのことを認めようとしなかったとしても、あたしが、あたしたちが彼女たちのことを理解していればそれでいい、って。

 そう考えれば、周りのざわざわは気にならなくなった。



『中堅! 「ファーマー」マーチ&クロ! 「シニガミファンクラブ・ミタマちゃんの集い」横切る黒猫&真夜中の蜘蛛! フィールドに上がってください!』


 モニターに映し出される光景は中堅戦へと移っていく。

 ライザさんが優雅にバトルフィールドから降りて、階段のところでマーチちゃんとハイタッチをしていた。

 クロさんとも何かお話をしていたみたいだけど、小声だったからかそれはこっちにまで聞こえては来なかった。

 ただ、クロさんが何か文句を言っているようで、ライザさんはうんざりとした感じで溜息をついていたように見えた。


 一方で相手チームの方では、待機スペースの一部が白く輝きだしてライザさんにやられた人が復活していた。

 これはこのイベントの仕様で、「決闘」のルールと同じようにやられても一からのやり直しにならない措置が施されているから。

 そうでないと大変なことになるものね。

 やられた側もやった側も。

 それで、ライザさんにやられて復活した人なのだけど、その人は地団太を踏んで悔しさを露わにしていた。

 このイベントにかける思いは相当だったみたい。


 舞台の上にはマーチちゃんとクロさん、相手が二人、そして審判の人の五人となる。


『……四名が揃ったのを確認しました! それではマーチ&クロvs横切る黒猫&真夜中の蜘蛛! いざ尋常に、勝負っ!』


――カーンッ


 ゴングの音が鳴り響いて、二本目が始まった。

 相手の人たちの名前は確か、審判の人がクロネコとかクモとか言っていたけど、同じ格好をしているからどっちがどっちかわからない。

 だからとりあえず、向かって右にいる方をクロネコ、左の方をクモとすることにしましょう。

 クモが言った。


『「桜の樹の下」がやられるなんて……! なんとしても「赤い月」に繋げなければ……! 私はあの槌を持った方に「色褪せた心」を使って五感を奪う! そうして一人を無力化しているうちにあなたは「魔女裁判」でもう一人を!』

『わ、わかりました……!』


 クロネコがその指示に従おうとした時、


『へ? ――うぎゃっ!?』

『なんだ――ぐわっ!?』


 相手二人は一瞬にして吹っ飛ばされた。

 身体を「く」の字に曲げ、左側の透明な壁に勢いよくぶつかったクロネコと、右側の透明な壁にこれまた勢いよくぶつかったクモ。

 あの透明な壁はたぶん、場外に逃げたり遠距離攻撃が対戦相手じゃないプレイヤーに当たることを避けるためのものじゃないかしら?


「な、なんだ!? 何が起きたんだ!?」

「『ファンクラブ』の人たちがいきなりおかしな動きを……!? い、いや、吹っ飛ばされたのか!?」

「誰に!? どうやって!? 攻撃されたようには見えなかったぞ!?」

「す、スキルだ! スキルだろ!?」


 これが今のを見ていた他の観客の声。

 対してあたしたちはというと。


「あー……。相変わらずでたらめだね……」

「は、速すぎてぶれて見えたよ……」

「他の観客の方々には彼女の動きは捉えられていないようですから、私たちの動体視力はステータスによって補正されているのでしょうね」

「あれは避けられないわよ……」


 正確にではなかったけど、何が起きたのかは見えていた。



――クロさんだ。



 彼女が二人との距離を瞬間的に詰め、その勢いのままハンマーを振るったのだ。

 現に彼女は、吹っ飛ばされた二人が元々いた場所に悠然と立っている。

 ハンマーを肩にかけて、ふんっ、と鼻を鳴らしていた。

 圧倒的な強さを持っているのはライザさんだけじゃない。

 クロさんも圧倒的……。

 パーティ「ファーマー」、イベントで一位を取り続けているのは伊達じゃなかった。


 相手二人が黒い粒子に変わる。

 審判の人が宣言した。


『ちゅ、中堅、勝者「ファーマー」マーチ&クロ! 「ファーマー」の二連勝! よ、よって、Aブロック二回戦に進出するのは「ファーマー」!』


 「ファーマー」が勝利したことを。

 試合時間は先鋒・中堅を併せて五分足らず。

 あまりにも一方的な試合内容に、あたしたちがいる観客席はしんと静まり返っていた。

 だから、画面内にいるマーチちゃんの小言がよく聞こえた。


『……クロ、ダブルスの意味知らないの? ボクも戦いたかったのだけれど?』

『えっ!? あ、その……っ、あまりにも手ごたえがなかったから、つい……』


 その内容はクロさんに文句をつける、というもので……。

 彼女たちの会話が聞こえていたあたしたちの周りはざわつくことになった。



――二人の相手を倒したのは鍛冶師の子みたいなのに、その鍛冶師の子に注意ができる立場の商人の子っていったい……!? と。



 ちなみに、セツさんなのだけど。

 ちょっとぽわぽわしたような呆けた感じの笑顔で佇んでいた。

 たぶん、試合に出ることがなかったから、しっかりと固めた戦う決意を持て余してどのように発散すればいいのかわからなくなっちゃったのね……。

 ちょっとおバカみたいな雰囲気(可愛かったけど……っ!)が出ちゃってて、観戦してた人たちからは完全に「お飾り大将」として認識されていた。

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