第251話(第七章第6話) Aブロック一回戦第一試合
~~~~ サクラ視点 ~~~~
『先鋒! 「ファーマー」ライザ! 「シニガミファンクラブ・ミタマちゃんの集い」桜の樹の下! それ以外の方はフィールドから降りてください! ゴングが鳴ったら試合開始です! ……他の方がバトルフィールドから降りたのを確認しました! それではライザvs桜の樹の下! いざ尋常に、勝負っ!』
――カーンッ
審判の人がそう言って、舞台の上にはライザさんと相手の人、あと審判の人の三人だけとなって、ゴングの音が鳴り響いた。
あたしたち「花鳥風月」と「ラッキーファインド」のメンバーの最後の一人は、その様子が映し出されている巨大なモニターを観客席で見ていた。
「は、始まっちゃった……」
「ライザは勝てるかなー?」
「なにせ、レベルは1ですからね……」
「……きっと大丈夫よ」
イベントが始まって、まだ自分が戦う番じゃないけどすごく緊張してるパインちゃん。
言葉は心配してるけど、その表情には少しの焦りも見えないキリちゃん。
キリちゃんの言葉に、ただ一つの懸念材料を口にして、見守るような視線をモニターに向けるススキちゃん。
あたしは自分に言い聞かせるように、ライザさんなら大丈夫、と言っていた。
あたしが落ち着いていなかったら、みんなも不安にさせちゃうと思ったから。
そんなあたしたちの真ん中で、コエちゃんは黙ってモニターを食い入るように見つめていた。
戦場の変化は、意外にもなかった。
二人が話していたから。
(その最中にライザさんは何かをしていたみたいだけど、あいにくその手元は映されなかった)
(ちょっと光ったのは見えたけど)
話の内容は観客席にも届いていた。
……自分たちが戦う時はあんまり喋らないようにした方がいいかもしれないわね。
あたしたちができることとか作戦とか、そういった大切な情報を晒しちゃうことになりかねないもの……。
二人の会話の内容はこんな感じ。
『ねえ? あなたたちはどうしてシニガミ様からの寵愛を受けられているの?』
『……寵愛?
『あ、あいつ!? ぐぬぬ……! シニガミ様と関わりになれるだけで素晴らしいことなのに邪魔されたって言った!? なんておこがましいの……っ!』
『……事実です。あいつの所為で同じエリアボスを二度も倒さなくちゃいけなくなったんですよ? これを妨害以外のなんだってんですか?』
『またシニガミ様を侮辱した! ……アハハハハハハハハッ! よくわかったわ。あなたの考え方はおかしい。私が正しい道に導かなくては……! シニガミ様の愛を感じられるようにっ!』
『……こいつ、やべー奴でした。こんなやべー奴に会ったのなんて初めて……じゃありませんでした。ありました。しかも、すぐ近くに……。……マジで相手の人間性がわかるようになんねぇですかね……』
え、えっと……?
相手のパーティ名からして、今話題になってる動画配信者のシニガミって人と何かしらの関係があるとは思っていたのだけど……えっ?
ライザさんって有名人に会ったことあるの?
ライザさんが言うには、次のエリアに行くのを阻まれた、って感じだけど……。
有名人がなんでそんなことを?
相手の人は、ライザさんたちが寵愛を受けてる、って言ってたけど、それが愛情表現なの?
相手の人は笑ったり怒ったり忙しない……。
ライザさんはなんか物思いに耽ってるし……。
あたしには何がどうなっているのか、理解できなかった。
必死に理解しようとしてると、後ろの方から声が聞こえてきた。
その方をちらっと見てみると、左の後方に話している二人の男性の姿があった。
観客席にはあたしたち以外にもプレイヤーがいたの。
現実では朝の早い時間だったから結構空いていて、あたしたちと二人の間には誰もいなかったからちょっと距離があったけれど二人が何を言っているのかは聞き取れた。
「『ファーマー』ってさ、どう思う? 生産職だけのパーティで一位を総なめしてるって話だけど、本当に強いのかな? イベントの時、あの人たちだけカメラがあんまり仕事してくれてないからどうしても疑っちゃうよね?」
「そうだな。あいつらが一位取ってるのはまぐれかインチキか、はたまた『運営』と手を組んで注目度を高めようって魂胆のやらせか、ここではっきりするだろ。相手は予戦四位通過のパーティらしいしな」
「っていうか、今鑑定士の人と戦ってるの、付与魔術師派生の『
「これは終わったな、鑑定士。前々回のイベントで一位だったらしいが、速かったっていうくらいしか印象がなかったらしいし。相手が悪すぎる。つうか、なんで鑑定士なんて仲間に入れてるんだろうな、『ファーマー』? ネタだろ、あいつ?」
それはライザさんたちの悪口で……!
あんなにいい成績を残しているのに、まだよくない評価をしていた人がいることにあたしはカッとなっちゃって……。
その人たちの元へ向かって行って文句の一つや二つ言ってやろうと思ったのだけど、それはキリちゃんに止められた。
「ほっとけばー? すぐにライザがわからせてくれるってー」
余裕の笑みでそう言ってきたキリちゃん。
信じてるんだ、ライザさんのこと……。
だったら、あたしも……。
あたしは立とうとしていたのをやめ、モニターに目を向けてライザさんの武運を願った。
モニターでは。
『私は勝って私が正しいということを証明する! 私は「呪い師」! 今あなたに呪いをかけたわ! その呪いは「てるてる坊主」! 私に危害を加えようとしたら死ぬ呪いよ! だから、あなたはもう終わりなの! 私が正しいということが証明されたわ!』
『……いや、何勝った気でいやがるんですか? まだ勝負はついてねぇでしょう? わーはまだ立ってるんですから』
『頭悪いの? あなたは呪われてて何もできないのよ? これからは私があなたをいたぶるだけの時間が始まるの!』
なんて会話がされていて……!
あたしは固唾を呑んだ。
ライザさんが窮地に立たされてる!? と思って。
……けれど。
相手の人がライザのことを杖で殴ろうとした時、異変は起きたの。
『え――』
その人の口の端から黒い液体(イベントの仕様)が垂れた。
その量は徐々に増していっていて。
『ごぽっ!? な、なんで……っ!?』
目を見開いて固まるその人に、ライザはニヤッとして言った。
悪い笑顔で。
『「人を呪わば穴二つ」って言葉、知りませんか? 相手を不幸にしようとするなら自分も不幸になることを覚悟しろ、っつー意味なんですが』
『っ!? ま、まさか、あなた……!』
『そのまさか、だと捉えてもらって結構ですよ? あんたはわーに危害を加えようとしたから死ぬ。そういうことがわーにはできる。それだけ理解してもらえれば充分です』
『あっ、がっ!?』
この会話があった直後。
相手の人は見えない何かに足を掴まれるようにして逆さづりになり、首を撥ねられた。
……そういう呪いだったみたい。
(これはあとで本人に直接聞いたことなのだけど、ライザさんはあの光った時にスキルを替えていた)
(自分が呪われた時、呪ってきた相手にも同じ呪いをかける、というスキルに)
相手の人が黒い粒子に変わっていって。
『先鋒! 勝者! 「ファーマー」ライザ!』
勝者を確定する宣言が響いた。
ライザさんは一歩も動くことなく勝利を収めたの。
……心配なんていらないほど、彼女の強さは圧倒的だった。
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