第248話(第七章第3話) それは装備ですか?

 それから、私たちは最後の依頼品があるという第五層「スクオスの天空城」に向かいました。

 その17階北側に、第二層の「アホクビ砂漠」にあった砂の城の内装を彷彿とさせるお部屋があって、その中に入ると閉じ込められてカゼノスクオスが出現しました。

 依頼品をドロップする他の三体と比べて、空気の塊みたいな存在であったため視認しにくかったというのが厄介な敵でした。

 それでも、マーチちゃんやクロ姉が火属性を纏わせた攻撃をするとカゼノスクオスの身体が燃えて位置を特定できたため、あとは投げるだけ。

(『全敵接触化』があるおかげで身体が空気の敵だとしても掴んで投げることができました……空気を掴むのは不思議な感覚でしたが)

 無事に戦闘は終了して、最後の依頼品「四元素の魔核(風)」をゲットしました。


 ちなみに、第五層の最難関ダンジョンである「スクオスの天空城」の17階へは第六層から戻るという形で行っています(その方が普通に1階から上るより早いので)。



 「帰還の笛」と「踏破者の証」を使って第三層「ブクブクの街」へ。

 路地裏に行って、ライザがご老人に話し掛けます。


「依頼品、集めてきましたよ」

「もう!? は、早いな……。し、しかし、これでわたしの悲願が……! 確認させてもらおう。……よ、よし! それでは報酬を」


 ……確かに早いですよね。

 依頼を受けてから一時間も経っていない(大体四十分くらい)のですから。

 NPCの方にも驚かれちゃっています……。


 ライザが四つの依頼品をご老人に渡すと、それと引き換えにご老人はライザに何かの抜け殻のようなもの(それも結構大きめの)を渡してきました。

 その見た目はしわくちゃになっていましたが、ヒトの皮膚のように感じます。

 まるで、破れないように剥ぎ取ったかのような……っ。

 ぶ、不気味すぎます。

 ライザは何故このようなものを欲しがったのでしょうか……?

 私が疑問に思っていると、ご老人が説明をし始めました。


「それはある日、空から舞い降りてきたものですな。それをわたしが拾いました。とても貴重なものだと思いますが、わたしではその価値を実感できません。ならば、あなた方が持っていた方が良いでしょう」


 ご老人はそれだけ言うと腰を上げ、どこかへと行ってしまいました。


 私たちはライザが渡された、貴重である、というものを見ます。


「き、貴重なんだ……」

「……グロ。こんなものがほしいとか、ライザ、どんな趣味してるの?」

「……推奨。焼却処分」


 ライザが受け取ったそれは一応クエストの報酬だというのに、その見た目の所為で総好かんを食らっていました。

 評価はよくありません。

 ライザも苦笑いをしていました。


「……まあ、見た目はよくねぇですよね。一人称わーもあんまり持っていたくはねぇです。というわけでクロ、持ってください」

「嫌がらせ!?」


 そしてクロ姉に問題のアイテムを押しつけようとするライザ。

 クロ姉は断固拒否の態勢を取ります。

 ですが、そんなクロ姉にライザは言いました。


「違います。これ、鍛冶の素材なんですよ。これ、っていうかさっき手に入れたのも、ですが。これは『神のかく』っつーアイテムで、他の『神の素材』と併せて『鍛冶』をすれば特殊も特殊、最強の装備がつくれるんです」

「え……?」


 ライザ曰く、それは鍛冶の素材とのこと。

 このアイテムを使うことで現段階では最強の装備を作成することが可能なのだとか。


「材料は『神の殻』、『神の糸』、『神の金属』、『神の水』と魔石四個になります。それでつくれるのは、



――戦闘型機械人形コンバット・オートマタ



 装備しているプレイヤーの命令に従って動いてくれますし、装備を付けることが可能な装備、という扱いらしいです」

「っ!」


 そしてライザは、その装備をつくることの有用性を説いてくれました。

 装備を付けられる装備……それは確かに最強といってもいいのかもしれません。

 特にクロ姉は、装備をつくる技術に関しては抜きんでていますから。


 私は強さの面でこの装備をつくるべきだと考えていました。

 ですが、クロ姉に火を点けたのはその部分ではなかったようで……。

 続くライザの言葉、それにクロ姉は即答していました。


「あっ、外見は好きなように設定できるみてぇで――」

「つくる!」


 強さには惹かれなかったクロ姉でしたが、見た目の話が出た途端、クロ姉はライザの手から『神の殻』を引っ手繰りました。

 ……あれ?

 なんか悪寒が……。



 ギルドハウス(メイン)に戻って、倉庫から『神の糸』と『神の金属』を取り出して。

 いざ装備作成! と取りかかろうとしたクロ姉。

 ですが、その直前で彼女は静止しました。


「ど、どうしたの、クロ姉?」


 十秒も動かなかったので私が尋ねると、クロ姉はライザの方を向いて聞いていました。


「……質問。これ、増やせる?」


 尋ねられたライザは答えます。

 答えたあとで、ライザは狼狽え始めました。


「増やせるには増やせますが……。って、まさか……!?」

「っ! マーチちゃん、増やして!」


 『神の素材』を増やせることが判明して、クロ姉はマーチちゃんに頼み込みました。

 あまりにもクロ姉が必死だったため、素材を増やすマーチちゃん。

 その増えた素材を全て手にしたクロ姉は、


「うぇへ、うぇへへ……っ」


 緩みきっただらしのない表情を浮かべていて……。

 私の背筋に感じていた寒気が、より一層強くなった気がしました。

 嫌な予感しかしません……。



 そうして、最強の装備作成の時。

 クロ姉は九体の戦闘型機械人形をつくり上げました。

(装備を身につけられる装備という機械人形に機械人形を装備するという暴挙で九体の機械人形を操っているクロ姉)

 その姿はやっぱり……。


「……『私』だ……」


 つくるのがクロ姉なのでなんとなく予想はついていましたが、つくられた戦闘型機械人形はその全てが全て『私』の姿をしていました。

 ちょっとだけ作り物(頬や関節部分、腕や脚などに細い線がある)という感じは見受けられましたが、身長が低くて、ひ、人目を引くような体型をしている『私』を模しているということは一目でわかります……。

 それが九体、しかも、もこもこのパーカーにホットパンツ、ニーハイソックスという普段着の姿……。

 私の部屋着姿をみんなに見られているみたいで顔から火が出そうでした……。


 しかし、これはまだ序の口。

 クロ姉は『私』の複製体にとんでもないことをしやがりました。


「この子はセーラー服! この子は体操服(ブルマ)! この子はスク水! この子はチア! この子はメイド服! この子はキツネ巫女! この子はナース服! この子は浴衣! この子はミニスカサンタ!」


 着替えさせられる『私』の複製体たち。

 クロ姉の趣味全開であるため、際どいものが多く……。

 私の中で何かが切れました。


「……今すぐ普通の服に戻しなさい。そうしなければ一生口をききませんよ、クロさん」

「ぴぇ!?」


 私は冷めた目でクロ姉のことを見下ろしました。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る