第246話(第七章第1話) 強くなりすぎた……

 ……。

 …………。

 ……………………。


「……空しい」


 私は一人、膝を抱えていました。

 というのも……。



 今日は九月九日(土曜日)。

 サクラさんたち「花鳥風月」が無事、一位でイベント予戦を突破した日から十日ほどが経過していました。

(九月に本番があるPvPイベントはパーティ単位のイベントだったようで、予戦の方も基本的にはパーティで獲得した合計ポイントで競うものだったようです)

(サクラさんたちはパインくんの「全アンデッド駆逐魔法」もあったため圧倒的一位を収めましたが、そういう大事なことは前もって知らされるべきだと思います)

 時刻は③の20時02分(この日、私は学校があったため現実で午後五時にログインしています)。

 ギルドハウスにやってきた私にマーチちゃんが言いました。


「あっ、お姉さん! 待ってたの! 150日記念で新エリアが実装されたみたいだから行ってみるの!」


 と。

 ライザもクロ姉も行く気満々だったため、私たちは第九層に足を踏み入れるべく第八層のエリアボスに挑みに行きました。


 火山エリアダンジョン4「タチシェスボルケーノ内部」、その32階。

 エリアボス・ゴーストタチシェスとの一戦。


「……歩く厄災ウォーキング・ディザスターなの」

「……まあ、こうなりやがりますよね」

「セツちゃんカッコイイ、結婚して!」


 それは一瞬で終わりました。

 相手が、止まって見えるんです……。

 ……カンストしてしまった素早さの所為でしょう。

 そして私は攻撃もカンストしてしまっていますから、一撃を当てるだけで……。

 本来なら物理攻撃は効かないボス、とのことですが、装備に付与されている『全敵接触可』のおかげで私の物理攻撃は通って……。

 戦闘時間0.1秒……。

 マーチちゃんとライザから冷めた目を向けられてしまいました……。

(クロ姉からは熱視線を送られていましたが)

 そして言われてしまいます。



――「なんか、ボスを倒したって感じがしないから、エリアボスと戦う時はお姉さんは控えてもらってていい?」



 と。

 ……まさかの戦闘力が高すぎるがゆえの戦力外通告です。


 ちなみに、タチシェス系統は強くなると、


 防御バフ

 攻撃デバフ

 幻惑無効

 幻惑付与

 防御デバフ無効

 攻撃バフキャンセル

 状態回復魔法

 攻撃バフ、素早さデバフ、悪心無効、悪心付与、攻撃デバフ無効、素早さバフキャンセル、MP回復魔法

 ガード

 パリィ

 魅了無効

 魅了付与

 障壁

 デバフの上書き(攻撃)

 オートリカバリー

 素早さバフ、麻痺無効、麻痺付与、素早さデバフ無効、HP回復魔法

 会心、鈍化、封印無効、封印付与、チャージ、デバフの上書き(素早さ)、オートマジックヒール


 の追加効果を覚えるそう。

(瞬殺してしまったので確かめることはできませんでした)


 あと、ダンジョンの構造ですが、4階ごとに安全地帯が設けられていたのはこれまで通り。

 ちょうど半分となる16階にモンスターフロアがあったのも変わらずです。

(狭い空間に160体のタチシェスが一度に出現して、あまりにも密集しすぎていたため、ちょっと気持ち悪くてぎょっとしてしまいましたが……)

 31階に登場したボス・銀オートマは12体いました。


 新エリア……第九層沼地エリアの街は「ズブズブの街」。

 名前の響きがちょっとアレな感じで、街には常に雨が降っていてグズグズです……。

 舗装されていない地面はぬかるんでいて、それで足元を取られないようにするためでしょうか。

 「無抵抗の長靴」なるものが防具屋さんで売られていました。

 10,035,200Gです。

(宿代は12,600G、武器は一つ642,252,800G)

 どんどんインフレーションを起こしていっているような……。


 あっ。

 道具屋さんで新しいアイテムが取り扱われるようになったんです。

 それが、


 より強力な状態異常とされている忘却状態にする忘却薬

 それを防ぐ忘却耐性ポーション

 一時的に行う攻撃が「自動追尾」状態となるホーミングポーション

 一時的に行う攻撃が「防御貫通」状態になるブレイクダウンポーション


 の四種。

 すかさず購入しました。

 レシピをゲットしましたが、製薬はできそうにありませんでしたが……。

 どの薬をつくろうにも、まだ入手できていない素材が必要とのことで。


 それから。

 第十層を目指そう、という話になって。

 ライザが提案してきました。


「マーチがエリアボスを倒したっつー実感がほしいみてぇですし、っつーことはセツが暇を持て余しちまうんじゃねぇかな、と。ずっとボーッとしてんのもつまらねぇと思うんで、



――タイムアタックとかしてみるのはどうですか?」



 などということを。


 クロ姉は私に期待していて、マーチちゃんは、今の私が本気になったらどんなタイムが記録されるのか、が気になっているようでした。

 ですので、ライザのその発言がきっかけとなって、私は一人、どれだけ早くダンジョンを踏破できるか、ということに挑戦することになりました。


 沼地エリアダンジョン4「スクオスの毒の大湿原」。

 ライザの情報によると、第九層のダンジョンは36階からなり、安全地帯は第八層までと同じで4階ごとに一カ所ずつ設置されているそうです。

 違う点はモンスターフロアが12階と24階の二箇所存在しているというところ。

 あとはギミックがかなり厄介なものになっているという点でしょうか?

 モンスターフロアの方は、このダンジョンでは20体と60体で合計80体しか出てこなかったため難なく突破できましたが、ギミックの方は時間がかかるのなんの、です。

 泥の中から次の階へ行くための鍵を探さなければいけなかったり。

 下の階に戻される底なし沼みたいなトラップに引っ掛からなければ進めない正規のルートがあったり。

 間違ったルートを進むとダンジョン1階に戻されるトラップが配置されていたり……。

 この素早さがあっても最上階まで行くのに結構時間がかかってしまいました。

 ……ライザのありがたみを痛感します。

(ちなみに、35階のボス部屋にいたのは宝箱を模したモンスター・トレックが7体でした)

(こんなに宝箱があるのは流石におかしい! って思って、どれか一つが当たりかな? って悩んで開ける箱一つを決めたのですが、全てモンスターで……)

(……腕を噛まれてパニックになって振り回しちゃってたら、いつの間にか7体全てを倒していました)


 エリアボスは何か真っ黒なスクオス(ライザがいないため名称がわかりません)だったのですが、一発撃破。

 無事に第十層に辿り着きました。

 ……これだから、控えてて、って言われるんでしょうね……。

 あっ、タイムは72分18秒でした(私の居場所を調べられるライザが計測してくれていました)。


 この結果が悪かったのだと思います。

 マーチちゃんから改めて、



――「……やっぱりボクたちだけでボスを倒してみたいの」



 なんて言われてしまって……っ!



 除け者感が否めなかった私は、夜。

 自棄を起こして第十層を攻略してしまいました。

 そうしたら白い空間に辿り着いて。

 途轍もない虚脱感に襲われた私は、しばらくの間その場に座り込んで途方に暮れていました。

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