第244話(第六章特別編2) 花鳥風月の予戦

 八月二十四日(木曜日)。

 PvPイベント(予戦)の期間に入りました。


 この予戦は、イベント特設ステージで行われます。

 舞台は広いようで、砂漠(地)、海(水)、火山(火)、谷(風)のエリアが設けられており、その場所に適した属性を有したモンスターがエリア内を行き交っているそうです。

 プレイヤーは属性を有していることが多い(選ばずに「無属性」にする方もいますが)ため、有利な場所に行くことができればより多くのポイントを稼ぐことが見込めるでしょう。

 モンスターの強さはどれも弱く設定されているようで倒すと1ポイント獲得できる、とか。

 そして、このイベントの要の部分となるプレイヤーを倒した場合、そのプレイヤーがそれまでに獲得していたポイントを全て奪える、というのがこの予戦のルールになっています。


 イベント特設ステージに行けるのは予戦に参加する権利があるプレイヤーで、イベント開催期間(二十四日が始まってから三十日が終わるまで)中の合計七時間(ゲーム時間)だけ。

 どのタイミングで特設ステージに行くか、が勝利のカギになると思われます。


 シードで、予戦に参加する権利がない、とも言える私たちは、特設ステージの映像をリアルタイムで見ることができる観覧席に案内されていました。

(特設ステージや観覧席には、宿屋の受付さんに話し掛けることで行けるみたいです)

 サクラさんたちが受付さんと話していた時に、ステージには地下があって特殊な属性を有するモンスターが出現するので気を付けて、という警告がなされていましたが、ライザがパインくんにそこへ向かうことを勧めていたのが気になって仕方がありません。

 受付さんのあれは暗に、行くな、と釘を刺していたような気がするのですが……。

 ……まあ、ライザが大丈夫と言っているなら問題はないのでしょうか?

 今は兎に角見守る、ということで。


 ……パインくんと言えば。

 なんかあの日からちょっと変わってしまっているんですよね……。

 ……どこがとは言いませんが。

 私にも彼とは少し違いますが、触れられたくない部分があります。

 ですから、今の彼の気持ちは理解できているつもりでいて、その部分については話題にしないようにしよう、と変わってしまった彼を見た瞬間にそう決めました。

(マーチちゃんもライザもパインくんの気持ちを推し測れていたようで、その部分については見えていない振りをしていたように思います)

 ただ、コエちゃんはそれがわからなくて本人に直接指摘してしまって……。

 その時のパインくんの顔は見ていられませんでした……。

 全員で必死に慰めましたね……。

 コエちゃんには、それは言ってはいけないことだ、ということをなんとか説明して……。


 と、とりあえず、この話は置いておくとして。


 時刻は②の八時。

 サクラさんたち「花鳥風月」のPvPイベント予戦が始まりました。



 まずはサクラさん。

 彼女は火属性を有しているので、有利である風属性のモンスターが湧くという谷の方へ向かっていました。

(どの方角になんのエリアがあるのか、は最初に訪れることになる特設ステージ中央の平原に何故か立てられているその場所にあるのが違和感でしかない案内板に書かれていました)

 谷に着くと、すごく小さな竜巻(高さと最大の直径が十センチくらいの)が何体かふよふよと浮いていて。

 ライザによると、あれはエアロ・メディオクリスという妖精タイプのモンスターとのこと。

 それをサクラさんは居合でばっさばっさと切り倒していきました。

 武器を持っているなら、その武器に自身が有する属性を纏わせることが可能とのこと(ライザによる説明)。

(……これまた武器を持てない生産職の不遇っぷりに拍車をかける仕様です)

 それでサクラさんは刀に火を纏わせて戦っていました。

 サクラさんは『能ある鷹は爪を隠す+』のスキルを持っているため、何度も刀を鞘に納めるという戦闘スタイルです。


 サクラさんは大丈夫そうなので、次はキリさんを見てみます。

 彼女が有しているのは地属性であるため、向かったのは海エリアでした。

 そこにいたのは直径が十センチほどのハイドロ・メディオクリス水の玉

 海エリアは水の中に入らなければいけないので本来なら装備が固定となって装備の恩恵をあまり受けられない不利な場所になるみたいですが、キリさんはスキルのおかげで環境によって不利になることはありません。

 サクラさん同様、属性を忍者刀に纏わせて戦っていました。

 斬っては姿をくらませて、を繰り返すのがキリさんの戦闘スタイルです。


 キリさんも大丈夫そうですね、と思ったところで。



――チュドオオオオオオオオンッ!



「ひゃわっ!?」


 画面の向こうから爆発音が。

 ……言わずもがな、ススキさんです。

 今回のイベントはアイテムの持ち込みが不可だったのですが……。

 ライザの「スキル変更の巻物」の使い方を見てススキさんは閃きました。

 『雲蒸竜変』を捨て、『火薬類取扱保安責任者』を取得。

 その効果は、



――HPが最大の状態で『大爆発』を使った場合、HP1で耐える



 というもの。

 本来ならポーションや回復魔法が使えない状況において一度発動したらしばらくは使えないスキルのはずですが、彼女には『パラダイムシフト』があります。

 スキルのダメージと回復を反転させるというスキルが。

 これによってススキさんは、『大爆発』で敵を薙ぎ払い、『火薬類取扱保安責任者』で自身は粘り、『パラダイムシフト』を使った『大爆発』でHPを全回復させ、『パラダイムシフト』を解除した『大爆発』でまた敵を薙ぎ払うという暴挙が可能になりました。


『アハッ! アハハハハハハハハッ!』


 画面から聞こえてきた笑い声に、私は言葉を失いました。

 イベント初日の早い時間だったからか、他のプレイヤーさんがいなくて彼女の爆発の巻き添えにならなかったことだけはよかったと思います。


 最後にパインくん。

 彼はライザに勧められた地下に向かいました。

 そこにいたのはアンデッドのモーテム・メディオクリス。

 「不死」という特殊効果を持つ十センチほどの人の頭蓋骨をしたモンスターです。

 ライザ曰く、「不死」は文字通り不死身になるため相当厄介な特殊効果なのですが、神官系が覚える「ピュリフィケーション」という魔法にだけはめっぽう弱くなる性質があるのだとか。

 ライザがパインくんにそこへ行くことを勧めていた理由に納得しました。

 ……あれ? 何か忘れているような……。

 あっ、パインくんって――


『いやああああああああっ!?』


 オバケ、ダメなんでした……。



 その後、恐怖でパニックを起こしたパインくんは伝説をつくることになります。

 聖女の高すぎるMPを使って超広範囲の「ピュリフィケーション」を展開。

 地下全体を範囲に収めたそれは、全ての頭蓋骨を葬り去りました。

 結果、パインくんは一位で予戦を通過することになったのです。

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