第243話(第六章特別編1) 八月・九月の合同イベント

 あの事件があってから数日が経った八月十七日。

 現実でちょうど正午となるころ、「運営」から一通のメッセージが届きました。

 それは、



――『八月・九月の合同イベント開催のお知らせ』



 から始まるもので……。

 それを読もうとしたところでライザから電話が掛かってきました。

 みんなに連絡して招集を促しているようです。

 私はコエちゃんと一緒にゲーム内のコエちゃんのお部屋にいましたが、呼ばれたライザの部屋へコエちゃんとともに向かうことにしました。



 ライザの部屋に到着したのは、そのお部屋の主を除いて、私とコエちゃんが一番でした。

 続いてマーチちゃんが来て、少し遅れてサクラさんたちがやってきます。

(マーチちゃんが店番をしていて、サクラさんたちは第八層に行けるように攻略をしていました)

(お店の方ですがすっかりお客さんは来なくなってしまっていました……というのも、ライザ曰くほとんどのプレイヤーが第二層のエリアボスを倒していて第二層にプレイヤーがいない、という状況になっていたからだそうです)

(私たちは「踏破者の証」を持っていますからエリア間の移動が容易ですが、あれは超貴重アイテムみたいなので、他のプレイヤーさんはエリア間を移動するのはそう簡単ではない、とのこと)

(あと、クロ姉ですが今日もアルバイトです)

 ずっとボードに何やら書き込んでいたライザが、私たちが揃ったのを確認すると言ってきました。


「えっと、今度開催されるイベントが決まりやがりましたね。あんまり望んじゃいねぇ形式だったんですが、PvPイベントです」


 説明を始めるライザ。

 私は前に教えてもらったことのあるその単語の意味を確かめるように口にしました。


「PvP……って、確か対人戦だったっけ? プレイヤーバーサスプレイヤーで」

「そうです。コンピューターが相手のPvEの対義語になります。これまでは魔石を集めたり、ダンジョンを踏破したり、スタンピードから村を守ったり、相手はどれもコンピューターでした。プレイヤーを直接相手にするイベントは初です」


 私の知識に不安があったのですが、間違っていなかったようです。

 加えて、ライザは補足をしてくれました。

 初の対人イベント……。

 そう言われるとなんだか緊張してきます。

 私、ちゃんとできるでしょうか……。


 私が、他のプレイヤーさん相手に戦えるだろうか? と悩んでいると、ライザの呟きが聞こえてきました。


「……この前、一人称わーたちにうざく絡んできやがった奴らはイベントへの参加権を剥奪されてるみてぇですが、厄介なスキルを持ってる奴らは他にもいやがりますからね。例えば、スキルを使われたら即アウトの通せんぼう野郎とか……」

「……あっ」


 そうでした。

 あの人とも戦うことになるかもしれないんですよね……。

 PvPイベント……。

 これまで一位を取ることができていましたから、今度のイベントも優勝を目指したいところですが、これまで通りとはいかなさそうです。

 厳しい……。


 若干気分が沈みかけていた私でしたが、問題はそれだけではないようで。


「ボクとしては、ライザとはもう戦いたくないのだけど……」

「……え? 戦う? ライザと?」

「えっ? メッセージの内容を見てみたけど、団体戦とは書いてなかったの。だったら、個人戦の可能性もあるんじゃない? パーティ対抗なら仲間だけど、個人戦になると敵になっちゃうから……。それは、お姉さんとも……」

「そ、そんな……っ」


 今度のイベントが個人戦か団体戦か、その表記がなかったこと。

 そのことが大きな不安を私たちの中に生まれさせました。



 完全に空気が悪くなっていたところに、パンパンと手を叩く音が響きます。


「情報が開示されてねぇんでそれについて今から悩んでも仕方ありません。追加でメッセージが送られてくると思うんでその時に考えましょう。それよりまずは八月のイベントをどうするか、です。『運営』によれば、八月は予戦、九月が本戦らしいので」


 ライザが、切り替えるように、と言ってくれました。

 そういえば、八月と九月のイベントは合同なんでしたっけ?

 なら、私たちのやるべきことは……。


「……そっか。じゃあ、まずは予戦を勝ち上がらないと、なんだね?」

「セツ、わーたちは予戦、ねぇですよ?」

「ほえ?」


 目標を明確にしようとした私でしたが、ライザに、私たちには予戦がない、と言われておかしな声が出ちゃいました……。

 それってどういうこと? と説明を求める顔をしていたのだと思います。

 ライザが教えてくれました。


「シードです。前回までのイベントで好成績を収めているプレイヤーは予戦を免除されてるみてぇです。六十人ほどのプレイヤーの本戦出場が決まってる、っつーことがメッセージに書かれてました」

「そ、そうなんだ……」


 シード……有力選手や有力チームが序盤で対戦しないように試合を調整されること。

 試合数が少なくなることもある……。

 ちなみに、私たち「ファーマー」の四人の他に、


「シニガミ」

「ギフテッドの旅団」

「ギフテッドの師団」

「ギフテッドの騎士団」

「ギフテッドの兵団」

「MARK4」

「ROYAL」

「CODE:S」

「ベータテスターの集い」

「イベント特攻隊」

「777」

「プディン帝国」

「お菓子がなければプディンを食べればいいじゃない?」

「ワンダーランド」

「天使と悪魔の輪舞」


 以上のパーティのメンバーがシードになっている、とライザが説明しながら、イベントのことが記されているボードに書き加えます。

 そこに、「花鳥風月」の名前はありませんでした。


 私、マーチちゃん、ライザ、クロ姉の四人は八月のイベントに参加する必要はない、とのこと。

 ですが、サクラさんたち四人はシード権を得ていないため予戦に挑む必要があるそうで……。

 サクラさんたちは、もちろんイベントに参加する、と言っていたのですが……。

 私たちがシードであるということは、予戦に参加することはできない、ということでもあります。

 それはサクラさんたちのサポートをすることができない、ということ。

 助けになれれば、と思っていたのですが、残念でなりません。

 サクラさんたちなら大丈夫だとは思うのですが……。


 私が心配するなか、ライザは言いきりました。


「まあ、大丈夫でしょう。予戦のルールは『一週間のイベント期間中、そのうちの七時間(途中休憩可)でモンスターやプレイヤーを倒してポイントを集めること』ですので。プレイヤーを倒せなくてもモンスターを倒せればポイントは稼げます。プレイヤーにやられたらその時に持ってた全てのポイントを奪われちまうようですが、サクラたちなら遅れは取らねぇでしょう」


 彼女がそう言うととても安心できました。

 サクラさんたちのことを信じきれていなかったことに罪悪感が襲ってきましたが……。


 それからライザは、サクラさんたちが必ず勝ち上れるように、と作戦を話し始めました。

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