第242話(第六章第36話) 帰る場所

「よう、トイドル! さっきぶりだなぁ! 逢いたかったぜェ?」


 ライザとともに淡い光に包まれてこの場所にやってきたのはトイドルの仲間・ミックスでした。

 私はどうなっているのかわからずに困惑してしまいます。

 どうしてこの人がライザと一緒に……?

 もしかして、スキルでライザを脅した、とか!?

 そう判断した私は急いでライザの元へ向かおうとしました。

 ですが、私のその動きは止められます。

 こっちを見ている彼女の表情を見て。

 彼女の顔は、考えがある、そう言っているようでした。

 それなら、ミックスのことはライザに任せて問題ないでしょう。

 私はトイドルの動きにだけ気を付けることにしました。


 トイドルはミックスを見て驚いた表情をしていましたが、私がトイドルのことを注視するようにしてからすぐに余裕の笑みへとその表情を変えました。


「ハッ! お前、やり直しになったんだろ? お前が持ってたスキルを俺がそのスキルの本来の性能で使えてるんだから間違いない。お前がここに来れたのはその女の『強制転移』によるものだろ? 『アナライズ』で『視れる』んだからわからないわけがねぇんだよ。……で? その女を頼ってここまで来て、何がしてぇんだ?」


 トイドルがミックスに貶すように言うと、ミックスは、


「あん? そんなの決まってんだろ? お前にお礼をするためだよ! さっきはよくもやってくれやがったな、この野郎! 百倍にして返してやる! 覚悟しろ!」


 額に青筋を浮かべ、トイドルを指差しながら叫んだのです。

 その様子をトイドルは鼻で笑いました。


「ふんっ! もうお前のスキルは手に入れてる。四分の一の性能しか発揮できなくなった『シンクロナイズマイナス』で何ができるっていうんだ? それにあと二つのスキルはどうした? 急いでリスタートしてつくり忘れたってか? 笑わせんなよ。お前にはもう用はねぇ。用済みは引っ込んでろ。女どもを潰したら、またリスタートさせてやっから」

「テメェ……っ!」


 バカにするトイドル。

 それを受けたミックスは我慢の限界を迎えたのか、トイドルに突っ込んでいきました。

 私は、止めた方がいいのではないか!? と焦らされましたが、ライザは動いていなくて。

 ……これも計画のうち?

 私は事の成り行きを見守ることにしました。


「ごふぁっ!?」


 結果は……。

 お腹に膝蹴りを受けるミックスという光景。

 何か策がある、そう思っていた私でしたが、先ほどの再現がなされたことに私は動揺しました。

 やはり止めるべきだった……! と悔しさが募っていきます。

 ですが、



――ニィッと



 ミックスの口角はつり上がっていて。


「お前には用はねぇって言ってんだろ……って、何笑ってんだよ?」

「ああ、俺な? 死んで途方に暮れてたんだけどさ、そこに女神様がやってきて転生特典をくれたんだよ。不思議な不思議な巻物だった。さらにさらに、俺の願いを二つ叶えてくれたんだ。一つは復讐する方法。もう一つは復讐する相手のとこまで案内してくれること。だから俺は、今回女神様と組むことにした。今の俺のスキルは、『シンクロナイズ-』とスキルを一つしか持ってないと思わせる『ジョーカー』、そして、



――自分を殺した相手も一緒に一からのやり直しにする『旅は道連れ世は情け』だ!



 さあ! 一緒に堕ちようぜ、トイドル!」

「は? はああああっ!?」


 『旅は道連れ世は情け』――。

 ミックスの身体だけでなく、トイドルの身体も少しずつ黒い粒子へと変わっていくのを見て、私はミックスの元に行こうとしていた足を止めていました。

 手には使うかどうか迷っていたけれど一応取り出していた復活薬を持って……。


「ふ、ふざけんなよ、ミックス! こんなことしてタダじゃ――っ」

「いい気味だ! 先に裏切ったのはテメェなんだからなぁ! 死んだらコピったスキルを手放すことになるらしいが、知ったことか! フハハハハッ!」


 自身が消えていっていることに焦るトイドル。

 ミックスはそんなトイドルを見て愉快気に嗤います。


「クソが! クソが、クソが、クソが、クソがああああ!」

「アハハハハッ! いいねぇ! だが、これで終わりだと思うなよ!? やり直したあともお前に美味しい思いは何一つさせてやらねぇからな! アーハッハッハッハーッ!」


 ミックスの笑い声とトイドルの慟哭がこだまするなか、二人の身体は完全に黒い粒子となって消えていきました。




「……終わった、かな?」


 二人が消えてしばらくの間、その空間を眺めていた私がぽつりと呟きました。

 それから彼女の方に身体を向けます。

 彼女は少しビクッと反応して、俯くようにして私から視線を外しました。

 私は言います。


ミックスあの人に『旅は道連れ』を取らせたんだよね? そうでもしないとトイドルあいつをどうにかするなんて無理だった、そうじゃないかな? ……ありがとう、ライザ」

「……っ」


 そう微笑みかけると、彼女は驚いた表情を私に向けてきました。

 彼女の身体が小さく震え始めます。


「ありがとう、って……っ。一人称わーは、わーは二人称なーらにあんなひどいことをしたってのにっ。そんなことを言ってもらえる資格、わーになんて……っ!」


 悲愴の面持ちで卑屈になっている彼女。

 その目には涙をたたえていて。

 それを見た私は……。


「私はひどいことをされた、なんて思ってない。ライザは私たちのことを思って距離を取ろうとした、そうでしょ? それはひどいことなんかじゃないよ」


 そう諭して。


「行こう。みんなが待ってる」

「わっ!? ちょ、ちょっと、セツ……!?」


 彼女の手を取って歩き出しました。

 彼女は戸惑っていたけれど、それを無視して。

 だって。

 無理やりにでも連れて行かないといつまで経っても戻ってこない気がしたから。



 帰る前に仲間のみんなに、今から連れて帰る、という連絡を入れて、第五層の私たちのホームへ。

 なかなかギルドハウスの中に入らない彼女の背中を私は押しました。


 ハウスの中にはみんなが揃っていて。

 そこにはサクラさんの姿もあって。


 サクラさんは一番に彼女の元に駆け寄ってきてその身体を抱きしめました。


「本当にごめんなさい!」

「な、なんでなーが謝るんですか!?」


 謝罪の言葉を口にするサクラさんに、彼女は困惑していました。

 サクラさんは答えます。


「あたしがあいつに操られたりなんてしなければ、ライザさんがひどく言われることなんてなかったのに……!」

「な、なーが謝ることじゃねぇですよ! 謝んなきゃいけねぇのはむしろ……っ」


 そんなやり取りをしている二人の元にみんなが寄っていって。


「ごめんね、ライザ。深く考えもしないでライザのこと悪者だって決めつけて……」

「私もすみませんでした。サクラがやられたことで視野が狭くなっていました……」

「ぼ、ボクもちょっと疑っちゃってた。だから、ごめんなさい……!」

「……悪かった。謝罪、する」


 キリさんが、ススキさんが、パインくんが、クロ姉が、彼女に謝って。

(クロ姉はマーチちゃんに肘で小突かれてました)


「やっと帰ってきたの。ボクたちがどれだけ心配したと思ってるの? 反省するの」


 マーチちゃんの言葉に。

 彼女のせき止めていたものは決壊しました。


「ごめんなさい……っ、ごめんなさい、みんな……っ」


 彼女は、ライザは、涙をぽろぽろと零しながら、その言葉を口にしました。


 その光景を私は静かに見守っていて、そしてもう一人、コエちゃんは羨ましそうに眺めていました。

(そんな私たちの周りをカラメルは嬉しそうに跳ねて回っていました)



          ―――― 第六章・おわり ――――

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