第239話(第六章第33話) 因縁との決着(セツ&ライザ)6

「おい! 仲間を攻撃するなよ!」

「ち、違う! 誘導されたんだ!」


 仲間をやってしまったことで揉め始める二人。

 今、この二人は言い合いをしていて、私から注意が逸れていました。

 これは隙!

 意識の外にいる間にミックスの高いステータスの対処をしよう! と私は高い器用さにものを言わせて離れた位置から全デバフポーションをふりかけました。

 ですが……、



――『レジストされました』



「えっ!?」


 私にとって予想外の結果が返ってきました。

 レジスト……!?

 デバフに耐性を持ってるってこと!?

 戸惑う私の方にミックスが振り向きます。

 流石にポーションを掛けられてそのことに気づかないということはなく……。


「なぁにしようとしてんだぁ!? デバフ? 効かねぇよ! 俺には『全デバフ無効(上書き不可)』がついてんだからなぁ!」

「っ!?」


 『全デバフ無効(上書き不可)』……!?

 私が持っている状態の変化を、この人も持ってるの!?

 ……どうやって付与したのでしょう?

 スキル……?


 あまりにも狼狽えていたからでしょうか?

 ミックスは解説を始めました。


「フハハハハッ! なんつう顔してんだよ! 簡単なことじゃねぇか! 俺は『シンクロナイズ』っていうスキルがある! その効果は、対象にかかってるステータスの変化と状態の変化を自分にも適用させる、っつうものだ! 要は、お前にかけられてるバフが俺にもかかってる、ってことなんだよ!」

「な……っ!?」


 『シンクロナイズ』、対象にかかっているバフを使用者にも適用させるスキル……。

 私のステータスの強さはほとんどがバフによるものです。

 そのバフがこの人にも適用されている……っ!?

 それって、今のこの人のステータスは私と同じくらいの強さになっているということを意味しているのでは!?

 「素早さ」と「防御」は元の数値がわからないほどに上げられています。

 「攻撃」や「器用さ」に至っては、上げすぎて数字の表記すらないという……。

 それに、さっきデバフポーションが本当に効かなかったことから、状態の変化も適用されるというのも本当で、相手には『デバフ無効(上書き不可)』だけでなく『バステ無効』もついている可能性が……!

 ……やりにくいです。

 まるで自分を相手にしているみたい……っ。


 動揺を隠しきれない私に、ミックスは攻めることを再開させました。


「シーヴァがお前のレベルをコピーしても、ワワワがお前の装備の特殊効果をコピーしても大したことなかったからな! それでピンと来たんだ! お前はバフによる強化をしてるんじゃねぇか、ってな! フハハハハッ! 正解だった! お前はお前が強化したその強さによって窮地に立たされるんだ! ぶっ潰すぜ! シーヴァの仇いいいいっ!」


 そう言って間合いを調整されて、また高速のパンチとキックを繰り出すミックス。

 相手の左手によるジャブを左に身体を反らして躱し、相手の右のストレートを身体を反らして躱します。

 キックはしゃがんだりジャンプしたり、後ろに退いたりして回避しました。


 目が慣れてきたのか、しっかりと見ていれば危険を感じることはなくなっていました。

 ……もしかして、素早さは私の方が圧倒的に上?

 この人が言っていたことを思い出します。



――「対象にかかってるステータスの変化と状態の変化を自分にも適用させる」



 ということは、ステータスが一緒になる、ということではなく、対象と同じようにステータスが上昇する、ということ。

 それは、上がり幅が同じになる、というだけで、まったく同じ数値になるわけではない、ということに気づきました。

 ……間違いありません。

 この人の素早さの実数値は私より低いです。

 これなら止めることができるかもしれません。


 あとはタイミング。

 危険物を扱う必要がありますから、相手が攻撃していない時の方が安全……なのですが、なかなか相手の攻めが止まってくれません。

 右へ左へ、跳ねたりしゃがんだり、そうやってひたすら回避していました。

 しかし、相手の攻撃が長く続いたことで集中力が欠けてしまっていたのでしょう。

 どのように回避するにも全てにおいて後退がセットで行われていて、気がついたら私の位置は――。



――トンッ



「っ!?」


 何かが背中に当たりました。

 もう一度退こうとしましたが、身体が後ろに行きません。

 少し背後に目を遣って確認するとそこにあったのはダンジョンの壁(とても中に入っていけない木の群生地帯)。

 私は、



――もう退けられないところにまで追いやられていたのです。



 私は明らかに隙をつくってしまっていました。


「食らえやああああ!」


 見逃してもらえるなんてことはなく……。

 後ろを気にしてしまった私は反応に遅れました。

 隣接する木と木の間に嵌ってしまっていた私へのキックは避けられそうになくて……。


 私は必死でした。

 生きたくて、生きたくて。

 直感が働き始めます。


 とっさに動いた私の身体が行ったのは、



――自分の身体の中にあった攻撃バフポーションの効果を切ること。



 直後、相手の蹴りは私のお腹に直撃しました。

 直撃しましたが、


「おお! 当ててやったぜ! これで……は? なんで死なないんだよ!?」


 私は黒い粒子に変わることなく、その場にい続けることができていました。

 困惑するミックス。

 私自身も困惑していました。

 私はこの時、なんとなくそうではないか? という感じだったのですが、



――『シンクロナイズ』は、対象にかかっているその時点のバフをコピーするスキルではなく、スキルを使用している間ずっと対象にかかっているバフを使用者にもスキルだったのです。



 即ち、このスキルの使用中に対象のステータスがバフ・デバフ関連で変動したらその影響を使用者も受けるスキルだった、ということ。


 本当に助かるのか、根拠なんてなかったため無事でホッとしました。

 そこへ、ミックスは、さっきのは何かの間違いだ! と殴りかかってきました。

 私はまたしてもとっさに行動しました。



――危険物・麻痺無効無視の麻痺薬を振り撒いたのです。



「うぉ!?」


 殴る途中の態勢で止まったミックス。

 それを見たその人の仲間たちが慌て始めます。


「あいつ何やってんだ! 世話かけやがって……! 待ってろ、すぐに薬師になって状態回復薬つくってやる!」

「どうしたんだ、ミックス!?」


 薬師になって『製薬』をし始めたトイドルと、心配してミックスに寄ってきたワワワ。


 一方でライザも叫んでいました。


「セツ! 自分の攻撃力上げてください! 早く!」

「ひゃ、ひゃい!?」


 何故かはわかりませんでしたが、鬼気迫るものを感じて私は彼女の言う通りに自分に攻撃バフポーションを使用します。

 しかし使ってしまったあとに、これ今使ってもよかったのかな!? と思いました。

 ミックスのスキルのことを考えると……!


 トイドルによって動けるようになったミックスが、途中で止められていた拳を私に向けて振るってきました。

 身体で感じる感覚が脳に、このままでは不味い! と知らせてきていました。

 死ぬかもしれない、という恐怖が過ります……!

 ……けれど。

 その拳が私に当たることはありませんでした。

 ミックスの身体が一瞬で前後反転したことによって。

 

「……へ? は? お、おい、ちょっと待――っ!?」


 ミックスの元に寄って行っていたワワワが、ミックスの真正面に捉えられる形になりました。

 ミックスの勢いは止められず。

 

「ごはぁっ!?」


 その拳はワワワの顔面に直撃しました。

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