第238話(第六章第32話) 因縁との決着(セツ&ライザ)5

 私はライザの装備の性能をコピーした装備を着たワワワを取り押さえようとしました。

 私のこの職業だったからこそ上げられた素早さを駆使して。

 しかし、



――私があの人たちの元に到達する前に、三人は忽然と姿を消しました。



「き、消えたっ!?」


 思わず止まってしまいます。

 辺りを見渡す私にライザが言ってきました。


「あいつらは透明になっているだけで動いていません!」


 と。


「なっ!? あの女……っ!」


 ライザが今のあの人たちの状態を見破ったことに焦りをみせる声。

 音量や声が発せられた方向といった聞こえ方で、ライザの言っていたことが正しいことがわかります。

 私は行動を再開させました。

 あの人たちを捕まえよう、という行動を。


 その私を見て、トイドルが嗤いだしました。


「アーハッハッハッハーッ! スキルですり抜けられるようにしてるに決まってんだろ! バーカ、バーカッ!」


 スキルがあるから触れられない! と勝ち誇って煽ってきたのです。

 男子小学生が揶揄ってくる、みたいな言い方だったんですが……。

 ……それは置いておいて。

 私は構わず腕を伸ばしました。



――がしっ



「ハッハッハー――もがっ!? あんれふれあれふんら!?」


 ……よかった、掴めました。

 『全敵接触可』がちゃんと機能してくれて助かりました。


 ……?

 相手は驚いているようですが、何を言っているのかわかりません。

 とりあえず、そのまま投げて倒します。

 もちろんPKのペナルティは避けたいので、直後に復活薬を振り撒く形で。


「ぐはぁ!? なんで……っ、なんで触れるんだよ!?」

「『全敵接触可』なので」

「っ! クソ、クソッ!」


 地面に叩きつけると消えていた三人は姿を現し、地面に転がるトイドルは喚くように叫んできました。

 うるさい……。

 っていうか、私が着ている装備の性能は既に知っているはずでは?

 ワワワが読み上げていたのですから。

 ……トイドルは何故、今初めて知った、みたいな顔をしているのでしょうか?


 兎にも角にも、一人を捕まえることができていました。

 ですからまた嫌なことをされないために、その一人、トイドルを無力化する方法を考えようとした矢先のこと。

 私からも視認ができるようになったワワワが慌てた様子でトイドルに向かって言っていました。


「トイドル! 姿を消しても意味がない! それよりも早くミックスの職業を変えるんだ!」

「……ちっ! 命令すんな!」


 何かをする気満々です。

 私はこの人たちの思惑を阻もうとしました。

 しかし、できませんでした。

 いやになるほどの寒気を覚えて。

 悪寒――。

 それが纏わりつくように感じて、考えるよりも早く私は三人から距離を取っていました。


 あのままトイドルを掴んでいたら、危なかったかもしれません。

 トイドルを掴んでいたらそこに私の腕があったであろう位置に、ものすごい勢いで誰かの腕が振り下ろされていましたから。

 あんなのに当たっていたらちょっとのダメージでは済まなかったと思います。


 やったのはミックス……。

 私は誰よりもこの人を警戒することにしました。


 そんなことをしていると、


「よし、終わったぞ!」

「了解だよ! それじゃあ、『レンタル』!」


 他の二人が動いていて……!

 ミックスとその人が身につけている装備が淡く輝きだしたのです……!

 ……直感します。

 この展開はまずい、と。



 ミックスが動き出しました。



――目にもとまらぬ速さで。



「っ!?」


 私は間一髪、急接近からの右ストレートを身体を反らして躱しました。

 視界に収めた腕は余波のようなものが幻影として捉えられたようにみえます。

 やはり一撃でももらってはいけない気がします。


 私が避けたことでミックスは口角を釣り上げて言ってきました。


「ほう? 今のを避けるか! まあ、バケモノみてぇなステータス持ってんだから当然っちゃ当然だな! やべぇ、楽しくなってきたぜ! すぐに倒れてくれるなよ!?」


 何かのスイッチが入ってしまったらしいこの人。

 執拗に私を攻め始めました。

 間合いを維持しながら高速でパンチやキックを繰り出してきます。

 私はあまり詳しくはないのですが、ジャブやストレート、それにフック? というのでしょうか?

 あと、キックも下段や中段だけでなく、上段も狙ってきていて……!

 間違いなく格闘技の経験がある人です……!


 幸いにも私の方が素早さは高いようで、全ての攻撃を辛うじて回避することができていました。

 しかし、速いです……!

 パワーも並みではありません……!

 当たってはいませんが、攻撃したあとの空気の流れというか振動というか、それがもうすごくて……っ。

 どうやってそんな強さを手に入れたのでしょう!?

 恐らくスキルなのは間違いないと思うのですが、できることがどれだけあるのか……!?

 余裕のない私には相手のスキルの詳細について考えている暇なんてなく……!


 防戦一方……。

 私の主な攻撃手段は投げ技ですので、パンチやキックで挑んでくる相手はあまり得意ではなくて……。

 分が悪いです。

 なんとかしなければ……! と考えていたところへ、


「加勢するぜ、ミックス!」

「ああ、助かる! もういい、って思ってたんだ! 避けられてばかりでフラストレーションが溜まった!」


 先ほどまで倒れていたシーヴァが割り込んできました。

 一対二で私を挟み撃ちにするミックスとシーヴァ。

 この状況は非常に不味いです……!

 誰がどう見てもピンチな状況に陥ってしまって、私は大変焦らされました。

 ですがそれでも、この状況を切り抜けられる方法を必死に探しました。

 ただ、相手は待ってはくれなくて。


 もう感覚です。

 ミックスの方に多くの意識を割きました。

 あの人の攻撃は受けたら大変なことになる予感がしたので、こっちに意識せざるを得ません。

 シーヴァの方は多少攻撃を食らってしまったとしてもあまり問題はないでしょう。

 スキルが一つしか判明していないのは気になりますが、ミックスほど危ない感じはしなかったので……。

 もしシーヴァが危険なことをしてくるのならライザが知らせてくれるはず……!

 そう信じて、私はこれに賭けることにしました。


 迫ってくるミックス。

 後退しながらミックスが繰り出す攻撃を避ける私。

 回避をし続けて隙ができた瞬間にあのステータスをどうにかする、それが私の作戦だったのですが……。


「よっしゃ! もらったぁ!」


 すぐ後ろでそんな声がして。

 ちらっと見ると、シーヴァが私を羽交い絞めしようとしていました。

 その動きが気持ち悪かったので反射的にしゃがんで避けたら――



――ズガアアアアン!



「ぶべっ!?」


 ミックスのハイキックがシーヴァに見事に入りました。

 吹っ飛ばされ、空中で黒い粒子に変わっていくシーヴァ。

 それを見て、ミックスが言ってきます。


「よ、よくも! よくもシーヴァを……!」


 ……これ、私の所為じゃなくないですか?

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