第237話(第六章第31話) 因縁との決着(セツ&ライザ)4

「『海賊版』!」


 ワワワがそう叫ぶと、その着ていた服(初期装備?)が光りだしました。

 そして、装備を変えさせられるワワワ。

 光った服はその男の周りに散らばっていました。

 この行動の意味はなんなのでしょうか?

 何かのスキル……?

 どういう作戦なのかわからずに警戒した私でしたが、この行動を選択したはずの本人が一番困惑していて。


「なんだ!? なんで装備が違うのに変更されてるんだ!?」


 その様子に私は困惑してしまいました。


 私はすぐにはこの状況を理解できなかったのですが、相手の会話を聞いているうちに少しずつ把握することができました。


「お、おい! なにしてんだよ! 『海賊版』使った装備をなんで脱いでんだ!?」

「し、知らないよ! ! 脱ごうと思って脱いだわけじゃない!」

「はあ!? 何わけのわからないこと言って……!」

「あっ、おい! その装備、『薬師専用防具』とかいう特殊効果がついてるぞ!?」

「な、なんだって!?」


 ワワワとミックスの言い争いをしているなか、トイドルが装備を見て二人に知らせて。


 あの薬師の装備の性能をコピーした……。

 脱ごうと思って脱いだわけじゃない……。

 『薬師専用防具』……。


 もしかしてワワワは、装備に関するスキルを持っている……?

 自分が装備している防具の性能が私の装備している防具のものと同じになる、というような……。

 だとしたら、今地面に無造作に置かれたあの防具たちには、クロ姉が私のために付けてくれたものと同じ、とんでもない機能が備わっているってこと!?

 ……でも、『薬師専用防具』の特殊効果までつけちゃったから装備を強制的に外された、ってことかな?

 盗難防止措置が施されててよかった……!


「安心しろ! 『薬師専用防具』だけ外せばつけられるようになるだろ!? 俺にはそういうことが可能なスキルもある!」


 トイドルが外された装備に近づいて行って何かをしようとします。

 口ぶりからして、あの男は装備に付与された特殊効果に干渉することができるスキルを持っていそう……!

 性能がいい装備が相手に渡ってしまったら、こっちが不利になってしまう気がして私はそれを阻止しにいこうとしました。

 あと単純に、私の装備を着られるみたいに錯覚して嫌悪感を抱いたので……。

 ただ、私が止めるまでもなく、あの人たちの思い通りにはなりませんでした。 


「……って、なんで外せねぇんだよ!? はあ!? 『スキルや装備の特殊効果の発動妨害無効及びスキルや装備の特殊効果自体の消滅無効』に邪魔されたぁ!?」


 付与されていた別の特殊効果によって阻害されたために。


 『スキルや装備の特殊効果の発動妨害無効及びスキルや装備の特殊効果自体の消滅無効』は、虹色プディンと戦うことを前提として付与してもらっていた特殊効果です。

 自分が持っているスキルや特殊効果が使えなくなることを防ぐための特殊効果。

 それが付与されていたおかげで、あいつは装備の特殊効果を弄れなかったようです。

 トイドルが愕然としつつも焦燥感に駆られていた様子だったことで私は少し気を抜いてしまっていました。

 安心したのも束の間、あいつはすぐに対抗策を打ち立ててきました。


「そうだ! 装備の方を変えられないならプレイヤーの方を変えればいい!」

「そうか! その手があったか!」

「なるほどな! 冴えてんじゃねぇか!」


 ……え?

 意味がわかりませんでした。

 ただ、私は油断して止まってしまっていたことを後悔することになります。


 トイドルがワワワに手をかざすと、ワワワの身体が淡く輝き始め……。

 それが収まったあと、地面に放られた装備を手にして



――それらを難なく着てしまったのです。



「っ!? ど、どうして……!?」


 さっきまで着れなかったはずなのに、今は普通に着ることができている……っ。

 この変化に、私は驚かずにはいられませんでした。

 そんな私の様子に、あいつが得意気になって言ってきます。


「どうして? って? 薬師しか着られないなら、プレイヤーの方を薬師にすればいいだけの話だろ!? ワワワを薬師にして装備できるようにした! それだけのことだ!」

「……っ!」


 プレイヤーの職業を薬師に変えた……!?

 そんなことまで可能だと言うんですか!?

 私はライザを見てその真偽を判定しようとしましたが、彼女は悔しそうに顔をしかめているばかりで……。

 ……本当か嘘か、判断がつきません。


 そんなことよりも問題なのは、相手にクロ姉がつくってくれたとんでもない機能が備わった装備と同等のものが渡ってしまったという事実です……!

 私は焦らされましたが、次に私が耳にしたのは予想だにしなかった言葉でした。


「『全地形ダメージ無効及び全地形による悪影響無視』や『いいとこどり(全地形)』でどこにも行ける……。

 『薬師専用防具』や『薬師の専用防具及び薬師の初期装備化(耐久値∞)』で奪われたり壊れたりすることを防ぐ……。

 『経験値四倍』が二つ、『ドロップアイテム+4』なんて四つもある。……これ、重複させる意味なくないか?

 使えそうなの『全敵接触可』と『空中行動+1』、『スキルや装備の特殊効果の発動妨害無効及びスキルや装備の特殊効果自体の消滅無効』くらいしかないじゃん……。

 しかも『全敵接触可』は武器使えばいいから必須じゃないし、『スキルや装備の特殊効果の発動妨害無効及びスキルや装備の特殊効果自体の消滅無効』は有用だとは思うんだけどさっきので融通が利かないのを知っちゃったからな……。



――総評するとゴミだな、この装備」



 なっ――。

 ゴミ……?

 私がクロ姉に相談してつくってもらった装備を、ゴミ、だって……?


 その言葉を受けて、私は少しの間放心してしまっていました。

 その間にワワワはまたスキルを使って、今度はライザの装備の性能をコピーしたようで……。

(もう一度装備は強制的に外されていましたが、あの男に職業を鑑定士に変えてもらって身につけたのでしょう)


「……おお、回避に有効な『直感強化』! 攻撃した時にノックバックやスタンが見込める『弱点看破』! 何よりも単純に一撃が連撃になる『攻撃回数+4』が四つもついてる! こっちにして正解だな! これは当たりだわ!」


 ワワワのこの言葉で私の意識は引き戻されました。

 ステータスを確認しているのか、歓喜しているワワワ。

 私の装備の性能をコピーした時とは大違いです。

 ……なんか釈然としません。


 ……決めました。

 今からこの職業とこの装備でやれることを証明したいと思います。

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