第236話(第六章第30話) 因縁との決着(セツ&ライザ)3
現れたのは、あの時私を生贄にしたトイドルと一緒にいた人たち。
ミックス、ワワワ、シーヴァの三人。
『犠牲通過バグ』をされて嗤われた時の感情が再び押し寄せてきて、私はつい眉間に力が入ってしまいました。
「……一応確認しますが、あなたたちもその人と同じ意見ですか? ミックス、ワワワ、シーヴァ」
「呼び捨てかよ。目上のものには敬意を払えって教わらなかったのか?」
「……あんなことをしてきておいて、敬え、と?」
「あれは指導だったと思ってほしいな。この世界の厳しさを初心者に伝えるのは先輩として当然だからね」
「……では、あなたたちが生贄にされても、勉強させていただいてありがとうございました、と言えたなら敬います」
「こいつ……!」
私は三人に問いました。
その答えに私は少し安堵します。
三人にあの時のことを反省されていたら私はきっと、許した方がいいのではないか、という気持ちが芽生えてしまっていたでしょうから。
この人たちは私にあんなことをした……。
そのことに対して後悔なんてしていない。
許す必要はない……。
それが明確になっただけでも幾分か気分が楽になりました。
私と男たちが睨み合っていると、無様に転げ回っている男がその仲間たちに指示してきました。
「おい、何呑気に話してんだ! さっさとそいつを潰せ!」
余裕がなくなったからなのか、発言に小物感が出ています。
先ほどまで尊大だったから余計にそう感じるのかもしれません。
私がその男に対して呆れた視線を向けていると、三人のうちの一人が一歩前に出てきて私にその得物の先端を向けてきました。
得物はハンマー。
『犠牲通過バグ』を完遂するために必要となる衝撃をあの茨の壁に与えるのに使用されていたものと同種の武器です。
他の人の武器は今見た感じだと、打撃系の武器ではありません。
……いえ、それを確認するまでもなかったのですが。
私は憶えています。
あの時、この男……シーヴァがボス部屋の出入口を塞いだ人物であるということを。
「リーダーの命令だ! ってことでやらせてもらうぜ? 悪く思うなよ!?」
ニタニタ顔をシーヴァに向けられて、私は恐らく目つきが鋭くなっていたと思います。
私を見ていたトイドルが短い悲鳴を上げていましたので。
(他の三人には効果はなかったようですが)
一瞬だけ、ライザのことを確認します。
この三人の情報を得ようとして彼女の方に視線を向けたわけですが、彼女は何も、一言も発しませんでした。
ですが、その目は何かを訴えかけていて。
私はそれがなんなのか、何故か伝わったような気がしました。
三人、特にシーヴァに視線を戻した際、その男はより一層嘲笑のような笑みを強くします。
「『虎の威借り』!」
スキルを使用したようです。
その内容は……。
「……ん? はあ!? なんか職業が変わってる! 戦士だったのに『歴戦の覇者』に……! しかもレベル385でこのステータス! これ、四倍くらいの成長速度だろ!? ……ハハハッ、最強じゃねぇか!」
「……」
私を潰そうとしたのに、その前に自分のステータスを見て驚いてる……?
自分のステータスなのに……。
……スキルを使ったから変化した?
しかも、職業が変わっていて、レベルが「385」って……。
もしかすると、この人のスキルは――。
「ハハハハハーッ! このステータスに生産職が敵うはずがねぇ! あばよ、最弱うううう!」
私の思考を中断させるように叫んで駆け出してきたシーヴァ。
大きなハンマーを掲げながら私に突っ込んできます。
ただ……、
――遅い。
私の目にはすごく緩慢な動きで向かってきているように捉えられました。
それでいて勝ち誇ったような顔をしていて。
……舐められたものです。
ゆっくり、ゆっくりと近づいてきた(本人は全力なのかもしれませんが)シーヴァがハンマーを振り下ろすのを最低限の動きで躱して、私はその男の腕を掴んで投げて倒します。
この男からしてみたら私のこの動きは、予想もしていなかったことだったからでしょうか?
シーヴァはハンマーの柄から手を放してしまっていました。
そのため投げた先に、大きな面によって地面に自立しているハンマーが。
使用者を叩きつけられる形となったハンマーは見事に損壊することになりました。
「おごぁああああっ!?」
ハンマーは無残なことになりましたが、人の方は地面に叩きつけると同時に復活薬を掛けていますからプレイヤーキルをすることにはなっていません。
あと、攻撃力を上げすぎてしまった影響か、シーヴァを叩きつけた部分を中心に地面が丸く陥没するという現象が発生しました。
……クレーター(直径一メートルほど)みたい。
マーチちゃんが見ていたら、とんでもないことを言われていたかもしれません……。
(ちょっと、いなくてよかったかも……、と思ってしまっている私がいます)
「いぎゃあっ!? ど、どうなって……!? クソザコの薬師のくせになんで……!?」
「……薬師は思ったほど弱くない、ということなのでは?」
何故自分が倒れて空を見上げることになっているのか理解できないといった様子でのた打ち回るシーヴァに、私は説きました。
私のスキルは薬師のジョブスキルあってのものですから、全ては組み合わせ方次第なのだと思います。
戦闘職だから強い、とか、生産職だから弱い、ではなく、職業を活かせるスキルを取れば相乗効果で強くなることは可能なはず。
生産職でも、薬師でも、強くなれないということはないはずです。
これで少しは薬師の地位を向上できたのではないか、と思っていたのですが……。
「お、おい! 薬師の分際で調子に乗るな! 何かトリックがあるはずだ! 職業が薬師に見えるようにしてるとか、相手のステータスを薬師以下にできるスキルを持ってるとか……! 偽装系か強力な弱体化のスキルを持ってないと説明がつかない!」
「なんにせよ、厄介なスキルを持ってるってことだけは確かみてぇだな。そうじゃなきゃ、相手と同じレベルになる、っるースキルを持ってる戦闘職のシーヴァに生産職の薬師が勝てるわけがねぇからな」
「……」
薬師の評価は上がりませんでした。
私が持っているスキルがすごいだけ、という認定に……。
……どれだけ認識を改めたくないんですか。
もやもやします。
ともあれ。
今は敵対している人がいるわけですから、そちらに集中しないと……。
一人で突っ走ってきたシーヴァを返り討ちにした私に、今度はミックスとワワワの二人で向かってくるようです。
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