第235話(第六章第29話) 因縁との決着(セツ&ライザ)2
「かは……っ」
「セツ!」
大木にぶつかって私の身体はようやく止まりました。
打ち付けられた背中に痛みが走ります。
い、いったい何が……っ。
殴られる前に受けたあの感覚は……?
……いいえ、考えるまでもありません。
スキルです。
あいつは、相手の動きを止める、もしくは動きを鈍くする系統のスキルを持っているに違いありません!
ゆっくりと近づいてくるそいつに、私は背中の痛みを堪えながら睨みつけました。
「……さっきの、動きを止めるスキル?」
「当たらずも遠からずだな。『重力操作』――周りの重力を操ることができるスキルだ。こんなふうにな!」
「うっ!?」
ライザから情報を得ようとした私でしたが、返ってきたのはライザからではなくまさかの本人からで……。
先ほど私の動きを止めたスキル、『重力操作』を使われてしまいます。
しかもそれは、先ほどとは比べものにならないほどの力で、私は地面に這いつくばらされます。
う、動けない……!
男は私の身体をがしがしと踏み、蔑むように言ってきました。
「おいおい、イベントで優勝できるほどのパーティなんだろう!? どうにかしてみろよ!」
「ん、ぐっ、い、ぎ……っ!」
「セツ……っ!」
何もできない……っ。
されるがまま……。
重くなりすぎて持ち上げられない腕では庇うこともできなくて……。
私は何度も何度も、足蹴にされました。
(ライザの状態異常を解けていないので、ライザはまだ動けない)
優位に立って気をよくしたからでしょうか?
ヒトデナシが講釈を垂れてきました。
「アーハッハッハッハーッ! 俺、言ったよなぁ!? お前の前でお前の仲間を痛めつけて絶望に追い込んでやる、って! あのサムライ女の身体を操って! あの時は、やりたきゃやれ、それで
「や、やめろ……っ!」
ぺらぺらと話していたあいつ。
そのおかげでライザが何故あのような行動に出たのかが判明しました。
全てはこの男が元凶だったのです。
仲間をいたぶると脅されていたから、ライザは私たちを遠ざけようとした……。
私たちに危害が及ばないように……。
……ほんと、なんでもできるのに
それにしても不可解なのは、『アナライズ』を持っているライザがこの男には抵抗できなかったことです。
情報戦において彼女より優れている人がいるとは私には思えません。
『アナライズ』で「視る」ことができ、手放してもいいと思えるスキルを持っていて、スキルを変更できる手段も持っている。
それは、誰に対してもアドバンテージを得られるということのはずです。
彼女に敵はいないように思えていたのですが……。
彼女は、私たちを裏切っているように見せなければいけなかった……。
……それって、わかっていても対処することができないほどの恐ろしいスキルをこの男が持っている、ということ?
或いは、『アナライズ』でも見通せないスキルか何かがあってそれが不気味で受け身の行動しかできなくなっていた……?
……どちらにしても。
不愉快です。
ライザの悲痛な声が耳に入ってきて、私は冷静でいられなくなりました。
気がつけば、私は自分の身体の中で効果を発揮し続けているものにスキルを使っていて。
「……は? なんで動け……ぐわああああああああ!?」
私を踏みつける男の足を握り潰していました。
私が感情的になって無意識のうちに行っていたのは、身体の中にある攻撃バフポーションの性能を『ポーション超強化』で上げること。
確認していないので定かではありませんが、男の『重力操作』に勝たなければいけなかったため、恐らくですが私の「攻撃」は「器用さ」と同じようなことになってしまっていると思われます。
この時はそれを気にしている暇はありませんでしたから何も把握はしていませんでしたが。
「ああああああああっ!? お、俺の、俺の足がああああああああっ!」
絶叫し、黒い粒子になりかけていた男に私はすかさず復活薬を使います。
こんな人間でも倒してしまってはペナルティが発生してしまうそうなので……。
……この仕様は早くどうにかしてほしいものです。
復活薬を掛けると、男の黒粒子化は止まりました。
それでも治った足を抱えながら転倒し、泣き喚きながら転げまわる男。
「ああああ足いいいいっ!? おおおお俺のおおおお……っ!」
私が立ち上がってその男を見下ろす体勢になると、それに気づいた男は慌て始めます。
私に怯えていたといってもいいかもしれません。
「痛゛ぇ……、痛゛ぇよぉ……! く、クソが! よくも俺の足を……! 『重力操作』! 押し潰れちまえっ!」
私に下に見られていることが心底気に食わないといった様子で、私にスキルを使用してくるその男。
前は立てなくさせられていたそのスキル……。
ですが、今回は地面に伏す状態にさせられることはありませんでした。
ちょっとだけ、小さな子に服の裾を抓まれるような感じは受けましたが、立つことはできていて、動くことも可能でした。
男の顔が盛大に引き攣っていきます。
「な、なんで効かねぇんだよ!? 『重力操作』! 『重力操作』、『重力操作』、『重力操作』、『重力操作』っ!」
何回も繰り出される『重力操作』。
結果は変わらず、攻撃力を強化してからは、私はその影響を全くと言っていいほど受けませんでした。
この男が心から謝罪をするとは思えませんし、もう二度とライザの元には現れてほしくなかったため、それを伝えようとヒトデナシの男に近づいた時、そいつは慌てて後退りをして私から離れていきます。
それから叫びました。
「お、おい、お前ら! こいつをなんとかしろ!」
命令するトイドル。
そこへ、
「遅ぇんだよ、頼むのが!」
「一人で大丈夫とか言ってたのに、なっさけないリーダーだな」
「仕方ないから手伝ってやるよ。……まあ、というわけだ。悪いが死んでもらうぜ、セツちゃん?」
トイドルの周りに三つの白い光が輝きだしたかと思うと、三人の人物が姿を現しました。
――太い眉とギザギザの歯が特徴的な大きな身体の男の人、
小柄な王子様みたいな格好をしてるけれど目が濁っている男の人、
麻呂眉で三白眼の男の人――。
「……ミックス、ワワワ、シーヴァ……っ」
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