第234話(第六章第28話) 因縁との決着(セツ&ライザ)1
「……トイドル……っ!」
やってきたのはキツネ顔の男。
私を生贄にしたヒトデナシ。
その男を目にした瞬間、ライザは一瞬だけ怯えるように顔を歪めたあと、悔しそうに歯を軋ませてその名前を唸るように口にしました。
ライザの声には怒りも滲んでいて……。
私も、にやにや顔のヒトデナシを見て怒りが湧き上がってきていました。
ですが、落ち着いています。
このヒトデナシとまた遭ったら感情的になってしまう気がしていたのですが、私自身でも意外だと感じるほどに冷静さを保てていました。
恐らくは、私よりも激怒していたライザの存在が大きかったのだと思います。
「俺の仲間がな? お前に苦汁を飲まされたらしいんだよ。なんでも、お金を稼ごうとしたのを邪魔されたとか、女の子をパーティに誘ってただけなのに脅されたとか、ギルドに加わりたかっただけなのに妙な空間に閉じ込められた、って話もあったな。ひでぇ話だよなぁ? お前はひでぇ奴だよ。俺はリーダーとして仲間が受けた仕打ちをそのままにするわけにはいかねぇ。お前に落とし前をつけさせる必要がある。そうだとは思わねぇか? って前にも言ったよな、あの時」
「っ! お、お前……っ!」
男がライザに向かって、ライザを狙っている理由を語りました。
ライザは何かを思い出したようでさらなる怒りに表情を歪めていましたが、私にはこのヒトデナシが言っていた最後の部分が何を表しているのかがさっぱりで……。
ただ、前半の部分は何か、過去にどこかで見た気がして。
……お金を稼ごうとしたのを邪魔された?
女の子をパーティに誘っただけなのに脅された?
ギルドに加わりたかっただけなのに妙な空間に閉じ込められた?
それって、もしかして……。
この男の発言を聞いて、私の頭に光景が浮かび上がってきます。
第三層水中エリア「ブクブクの街」。
第三層水中エリアダンジョン2「スクオスの住まうラグーン」。
第五層天空エリア南部・「ラッキーファインド」のギルドハウス――。
……このヒトデナシはあの人たちと関わっている、っていうこと?
もしそうなのだとしたら、それは逆恨みというものなのでは?
だってあれらは全て、向こうから危害を加えてきたことなのだから。
私が、この男が繋がっていると言ったのが本当にあの人たちなのか確証を得ようとしていると、その男は言ってきました。
「俺はこう見えて仲間思いな奴なんだ。仲間が理不尽にやられてるのを黙って見ているわけにはいかねぇんだよ。ってなわけで、俺は今からお前に制裁を加える」
倒れているライザを見下すようにして。
その近くにいた私に対してもそのような視線を向けてきている……。
……納得できないんですけど。
その態度にも、その言い分にも。
「……その理論なら、私はあなたに制裁を加えてもいい、ということになりますよね? しかも、仲間ではなく私自身があなた方から理不尽なことをされているわけですから、私はあなた方により重い制裁を加えてもいい、ということになるのでは?」
私は男の先ほどの発言を逆手に取って自分の権利の主張を行いました。
しかし、
「は? 何言ってんの? 俺、お前に何かしたっけー? 記憶にねぇなー、くくくっ」
「……」
とぼけられます。
こいつ……。
他人を小馬鹿にするような言い方をされカチンと来そうになりました。
ただ、ライザの次のように言ってくれたおかげで頭に血が上ることは避けられました。
「なっ!? こっちは知ってんですよ! あんたがこの子を使って『犠牲通過バグ』をやったっつーことは! なのに、記憶にねぇ、とか言いやがりやがる気ですか!? ふざけんじゃねぇですよ!」
彼女が熱くなってくれたから、私は熱くならずにいられたのです。
これに対してあの男が言ったのは……、
「ハッ! 騙される方が悪ィんだよ! 世界は厳しいんだ! あれはいい社会勉強になっただろ!? 本当なら授業料を取りたいぐらいだが、それを免除してやってるんだ、俺は! 俺って懐が深いからさぁ! で、『
……随分と調子のいいことを言ってくれていますね。
言いたい放題言われて、眉間がピクリと動きます。
ここまで言われて黙っていることなんてできなかったでしょう。
本来なら。
冷静さを保てていた私は見抜けました。
相手が私を怒らせるために挑発してきていることを。
これは、私を感情的にさせて思考力や判断力を削ごうとしている、そんな企みがあるというような顔をこのヒトデナシはしていました。
「……それで? あなたのお仲間がライザに苦汁を飲まされた、とのことですが、どうしてそのようなことになったのかを聞いても? あなたのお仲間がどのようにお金を稼ごうとして、どのように女の子をパーティに入れようとして、どのようにギルドに加わろうとしたのかを詳しくお伺いしてよろしいですか?」
とりあえず、間違いがあってはいけないので私が確認すると、
「……ちっ。嫌に冷静じゃねぇか。少しはライザを疑えよ。そうじゃなかったとしても、煽ってんだから乗って来いよ! バカっぽいから行けるって思ってたのに、思い通りにいかなくてイライラする、くそっ!」
ヒトデナシは計画が上手く運ばなかったことに悪態をつきましたが、すぐにその表情をニタァとしたものへと変えて、
「……作戦変更だ」
そう呟きました。
私が訝しんでいると、そいつは続けました。
「ああ、そうさ! 予想できてると思うが、俺の仲間は鍛冶屋を騙くらかして偽物の装備をつくらせて売らせたり、女を洗脳して無理やり仲間にしたり、スキルで勝手にギルドの長に就いて独占状態にしたりしてた野郎どもだ! 真っ当な人間じゃねぇ! そんな奴らが、だ。
――お前たちの大切な大切な仲間の元に今向かってる!
【※時系列は「ラッキーファインド」の他のギルドメンバーたちの戦闘前】
お前ら、相当仲が良いみてぇだからなぁ!」
「っ!? トイドル……っ!」
みんなを狙ってる、とにおわせたこのヒトデナシ。
この言葉を聞いて、私の冷静さが欠けていってしまいました。
マーチちゃんたちが無事なのかどうかということで気が気でなくなります。
すぐにライザを動けるようにして仲間の元に向かおうとしました。
しかし――
――私の身体は急に重さを覚えて……!
「行かせるわきゃねぇだろ?」
「あぐっ!?」
わけがわからないまま、私の身体は吹き飛ばされていました。
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