第233話(第六章第27話) 再戦セツvsライザ(第二部・セツ視点)
マーチちゃんがどこかに飛ばされてしまいました。
ですが、ライザのことです。
危険な場所には移動させていないでしょう。
今はそう信じることにします。
私が今すべきことはどこにいるかわからないマーチちゃんを探しに行くことではなく、ライザを捕まえて連れ戻すこと!
今一度目的をはっきりさせた私はライザを確保するべく動き出しました。
ライザはマーチちゃんにやったように私をどこかへ飛ばそうとしてきましたが、私はそれを回避しました。
ただ、回避することに意識が行き過ぎて距離が開きすぎてしまったためにライザに逃げられそうになってしまいます。
捜索系のスキルを持たない私がライザを見失ってしまったら、また見つけ出すのに時間がかかってしまう……。
時間がかかってしまうだけならまだいいでしょう。
最悪なのは、捜索系のスキルを使っても居場所を掴めなくなるようにされることです。
ライザは「スキル変更の巻物」を持っている……。
それでマーチちゃんの『ないものねだり』の対策をされて行方をくらまされてしまっては、再びライザと会うことは困難を極めることになってしまいます。
それだけはなんとしてでも阻止しなければなりません!
私は、私たちは、ライザを捕まえようとして、近づいたところをライザのスキルで飛ばされそうになったのを避け、ライザが逃亡を計ろうとするのを接近して阻止するということを繰り返しました。
「本っっ当に! やりにくいったらありゃしねぇですね……! いい加減諦めてくれねぇですか、マジで!」
「それはこっちのセリフだよ!」
「
「私が一番なってほしくなかった展開にはなってるんだよ、もう!」
そんな言い争いをしながら、迫っては避けてを交互に行う私たち。
素早さは私の方が上回っていましたが、ライザには『アナライズ』があります。
情報で素早さをカバーして、私がライザを捕えようとするのを躱していたライザ。
私はライザがスキルを使って私を別の場所に移そうとするのを、高い素早さを最大限に使って避けていました。
どちらも決定打に欠けていて、この場は膠着状態に……。
「はぁ、はぁ、はぁ……! そっちは捕まえられねぇし、こっちは飛ばせられねぇ……。
「はぁ、はぁ……。そっちこそ、いい加減私に捕まってよ」
すごく短時間、目まぐるしく変わる攻守交替によって私の顔にもライザの顔にも疲弊の色が出てきていました。
これはどちらか先に倒れた方が負けということになるのではないか? と私が思案していた時、ライザが動きました。
「それができたら苦労はしねぇんですよ!」
彼女はポーチから何かを取り出そうとしました。
収納ポーチから出てくるその先端を視界に捉えた瞬間、私は本能に突き動かされます。
「『ポーション超強化』!」
反射的に私も自分のポーチからアイテムを取り出しました。
そのアイテムの性能を引き上げに引き上げて、「自分の中」で効果を発揮し続けているものにもそのスキルを使用して。
私はポーチから取り出したアイテムをライザに向けて振り撒きました。
自分に向かってくる液体を確認したライザは横にずれて避けようとしますが、
「っ! 状態異常無効貫通!? こんなの食らうわけには……って!? なんで方向が変わって……っ! 『追尾』機能なんてねぇのに……っ、そ、そうか! 器用さか!」
液体は方向転換し、ライザのあとを追い続けました。
先ほど、ライザに向かって液体を掛ける前に私が『ポーション超強化』で上げていたのは、既に私に使っていた「器用さバフポーション」です。
この時の私の器用さは
――----------------(×11,525,215,046,068,470.76)
カンストしています。
どれだけ逃げても執拗にライザを追い駆ける黄色い液体。
「くそ……! これじゃあ『巻物』を使う暇なんて……わっ!?」
私を盾にすることを思いついたライザでしたが、液体は私を避けてライザに降り注ぎました。
私が使ったのは麻痺薬。
逃げている最中でかかったライザは足を動かせなくなってその場に倒れ込みます。
「あぐっ!? う、動かねぇ……っ。こんなところで……っ!」
倒れた拍子に彼女の手から転がり落ちた「巻物」を回収し、私はライザの顔の近くにしゃがみ込みます。
「本当のことを教えてよ、ライザさん」
「ほ、本当のことも何も……」
「ライザさん」
「……っ」
一度はごまかそうとしていたライザですが、彼女の顔を覗き込むようにして尋ねると、目を伏せて観念したように打ち明け始めました。
「……セツの推測通り、わーはサクラを水の中に突き飛ばしたくて突き飛ばしたわけじゃありません。あいつは『洗脳』されてたんです」
「やっぱり……!」
思っていた通り、ライザは私たちを貶めようなどと企んではいませんでした。
ですが、そうだとすると何故私たちを裏切ったかのように振る舞っていたのか、ということが疑問に浮かんできます。
「でも、だったらなんで自分が悪者に見えるようなことを?」
「……仕方なかったんですよ。
――お前の前でお前の仲間たちを痛めつけて絶望に落とし込んでからお前を殺す、ってサクラを操った奴に言われてたんですから……っ!」
「っ!」
口をついて出た言葉に、ライザは答えました。
脅されていたのだ、と。
「わーが仕出かしたことで、なーらに迷惑を掛けたくなかったんです……。だから、だから、わーは……っ! あいつに、セツたちは仲間じゃねぇ、なーらを痛めつけられてもわーはなんとも思わねぇ、って信じ込ませる必要があって……! ですが、もう、ダメです……っ。わーの話す言葉は全部、あいつに筒抜けになってる……。あいつが、わーを追い詰めるためになーらをいたぶりにやってくる……。わーは、わーはどうすればよかったんですかね……?」
自分が蒔いた種だから自分で何とかしなければいけない、私たちに迷惑は掛けられない、そう涙でくしゃくしゃになった顔でライザは言ってきました。
……そんな事情があったんですね。
すっかり弱々しくなってしまったライザに私は伝えました。
「そんなの決まってるよ。
――ごめんなさいって言って私たちを頼ればよかったんだよ、バカライザ!」
「っ!?」
私の怒りを孕んだ叫び声を聞いた彼女に、私の気持ちは伝わったようで。
「ごめん、なさい、セツ……。助けて、ください……っ!」
「……うんっ!」
彼女は初めて、私にお願いしてきました。
そういえば、彼女が私に向けて「ごめんなさい」というのも初めて聞いた気がします。
やっと蟠りが解消されたというタイミングで。
「おう、ライザ。やっぱりそいつらのこと大切に思ってんじゃねぇか!」
……いい感じだった空気に水を差す人物が現れました。
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