第232話(第六章第26話) 因縁との決着(ススキ&キリ&パイン)4

~~~~ パイン視点 ~~~~



「……いや、何言ってるの、ススキちゃん。ボクは戻してもらうからね?」

「安心してください、パイン! 何も違和感なんてありません! そのままで行きましょう!」

「キリ、戻して」

「はいはーい」

「ま、待って!」


 ススキちゃんが何か言ってきたけど、もう知らない。

 ボクはキリ(外見は全然キリに見えない)にお願いして元の身体に戻してもらおうとした。

 けれど、ススキちゃんに止められて……。


「自分を優先させるなんて男らしくないですよ、パイン! あなたはキリのお兄ちゃんでしょう!? ならば、キリの姿を元に戻すのを優先させるべきではないのですか!?」

「っ! そ、そう言われると……」


 でもそれは、もっともな意見で……。

 ボクはキリのお兄ちゃんなんだから、大変な目に遭ってるのはキリもなのに、その妹を差し置いて自分が先につらさから解放されようなんてお兄ちゃん失格だよ……!

 男らしくない……!

 ……うん、目が覚めた!

 キリを先に元に戻さなきゃ……!


「あー……、えっと、パイン? うちが先に戻ったら――」

「ボクが間違ってたよ! キリだってつらいんだもんね! それなのに、ボクは自分のことしか考えてなくて……! 待ってて! すぐに戻すから……!」

「……あ、いや。……もういっか。聞いてないし……」


 ということで、ボクたちはキリを元の身体に戻すのに奮闘することに。



 ただ、これがそう上手くはいかなくて……。

 聖女の状態回復魔法でもキリを元には戻せなかったんです……。

(『洗脳』の状態は解けたのに……)

(力を込めようとしたら広範囲に影響が出て、キリが眠らせれた人たちが起きちゃって慌てた……)

(キリがすぐに眠らせてくれたから問題はなかったけど……)

 特殊な状態みたい……。


 あと考えられる方法と言えば、悪そうな見た目の人が持っていた『取り換えのスキル』を使わせて、こうなった時とは逆の手順を辿ること。

 でもそれは、難易度の高い方法でした……。


 まず、今キリの精神が入っている鬼のような人の『洗脳のスキル』で悪そうな見た目の人に『取り換えのスキル』を使わせてキリの人格を一旦悪そうな見た目の人の身体に移すのが第一工程になります。

 『取り換えのスキル』を一度使ったことがあるキリの感覚によると、二人を対象に指定するそのスキルは、そのうちの一つを絶対に悪そうな見た目の人スキルの使用者にしないといけないっぽいのだそう……。

 だから、どうしても悪そうな見た目の人を経由しないといけない、とか。

 だけどそうすると、 鬼のような人が先に元の身体に戻るわけで……。

 ボクたちがやろうとしてることに気づいたら『洗脳のスキル』で邪魔をしてくるかもしれない……。

 それを回避しつつ、悪そうな見た目の人の中に入っているキリが『取り換えのスキル』を使ってキリの身体にキリの人格を戻す必要がある。

 それが第二の工程……。

 もし無事に戻れたとしても、元に戻ったことで自由に動ける状態になっているはずの悪そうな見た目の人にまた「取り換え」られたらダメだから、その対処も考えなくちゃいけないし……。

 やることがいっぱいだよ……。


 ……これ、成功させられるのかな?

 作戦を開始したら一気にやって、この人たちの前からすぐに消えないといけないんだよね?

 『洗脳』とか『取り換え』をされる前に。

 ……ちょっと無理そう。


 しかも、頑張るのは基本キリ……。

 ボクたちができることなんてほとんどない……。

 何か力になれないかな? とステータスを見てたら、ジョブスキル『聖女の慈愛』でできることの中に、「シール」っていう魔法が使えるようになっていたことに気づいた。



「シール」――相手を封印状態にしてを一時的に使えないようにする魔法。



 実は結構前に覚えた魔法だったんだけど、使い道がなかったからすっかり忘れてた……。

 でも、これを使えば……!


 ボクはキリに提案した。



 準備が整って。

 作戦決行の時。


 キリ(外見は鬼のような人)が『洗脳』を使って『取り換えのスキル』を使える人を操り、中身を悪そうな見た目の人その人に移したら、ボクはすかさず鬼のような人にシールの魔法を使った。

 そしてすぐにキリ(外見は悪そうな見た目の人)に状態回復魔法を使って彼女を起こす。

 起きたキリは『取り換えのスキル』を使って自分の身体に戻った。

 ボクは悪そうな見た目の人にシールの魔法をかけ、キリの状態を回復させる。


「あー、よかったー! めっちゃ気持ち悪かったから助かったよ、パインー!」


 自分の身体に戻れて安堵したんだと思う。

 キリはボクに抱きついてきて……。

 ちょっと戸惑っちゃったけど、涙声だったし、身体は震えていたから、引き離すなんでできなくて……。

 安心してほしくて、ボクはキリの頭を撫でた。



 一分も経たないくらいでキリはいつも通りに戻った。

 そのことにホッとして、大事なことを忘れていた。


「……で、うちは無事に戻ったわけだけど、パインは――」

「そ、そうだよ! ボクも戻らないと……!」


 キリに言われて、自分はまだ姿が変わったままなのを思い出しました。

 すぐに戻らないと! って思ったんだけど……。



 ……………………。

 


 どうやって?


 この状態には状態回復魔法が効かないし、ボクをこの姿にした人は未だに眠ってる……。

 そもそも起こして、戻して、って頼んでも聞いてくれるの……?

 ……あれ?

 これって、キリが戻る前に性別を変える人を操って直してもらうべきだったんじゃ……!?


「……あー、やっと気づいた……」

「き、キリ……!? 知ってたのなら……」

「うちは教えようとしたよー? でも、パイン、聞いてなかったからさー」


 ボクの青くなった顔を見てキリが言ってきた……。

 呆れた顔で……。

 ……これは、知らせようとしてくれていたのに聞かなかったボクに非がある、よね……。


 キリにもう一度身体を変えてもらうわけにはいかない。

 というか、そうするには『取り換えのスキル』を使ってもらわなきゃいけないんだけど、この状況で使ってもらえるとは思えない。

 ……ああ。

 これ、詰んでるかも……。


 脚に力が入らなくなってぺたりと座り込んじゃった……。

 不思議だったのは涙が出てこなかったこと。

 こんなにも悲しいのに……。


 ボクは今後を憂いていたというのに……。


「い、いやー、迂闊でした! ま、まさか戻れなくなるなんて! わ、私も想定していませんでしたよ! で、ですが、こうなってしまったからには致し方ありません! こう考えてみてはどうでしょう! これも試練だ、と! うちから溢れ出る格好良さがあれば見た目など……」

「うわああああああああっ!」


 嬉々としていたススキちゃんの声に、ボクの心は悲鳴を上げたんです……。

 とりあえず、ススキちゃんの今後一カ月のおやつ抜きが決定しました。



 そのあとのことですが……。

 ボクは元の身体に戻りたいあまり『痛いの痛いの飛んで行けっ!』を暴発させていました。

 スキルの影響を無効化して跳ね返すスキルではないのに、この状況を受け容れられなくて無駄に縋っていたんです……。

 その所為なのかおかげなのか、そのスキルに変化が生じて……。

 封印状態から回復した『洗脳』の男の人がキリたちをまた『洗脳』しようとしてきたので、とっさに状態回復魔法で治したあと……。

 『痛いの痛いの飛んで行けっ!』を使ったら(ボクの状態を治そうとして)、男の人たちは自分たちを愛し始め、どこかへと消えていったのです。

 ダメージしか返せないスキルだったはずが、『洗脳』の効果を相手に返したみたいです……。


 ……それができるなら、ボクの身体を元に戻してよ!?

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