第231話(第六章第25話) 因縁との決着(ススキ&キリ&パイン)3

~~~~ パイン視点 ~~~~



「何を騒いでいるんですか? ライザを探しに行ったのではなかったのですか? 何故まだこんなところに――」


 外がうるさかったから……!

 ススキちゃんがギルドハウスから出てきちゃった……!


「だ、ダメ、ススキちゃ――」

「ああ、そういえばもう一人いましたね。私はそちらの方にしましょう」


 この人たちはよくわからないことをしてくる。

 キリもおかしくなっちゃったし、ボクも……っ。

 相手が何をしたのか、何がしたいのかがわからない。

 このままじゃ、ススキちゃんも巻き込んじゃう! って思った。

 だから、止めようとした。

 来ちゃダメ、って……。

 でも……!


 眼鏡の人が急に倒れて……。

 ……ススキちゃんの様子がおかしくなる。


「……ふむ。悪くはないですね。そちらのギャルの方が胸がある気はしますが……。お尻はこちらの方がいいでしょう」


 絶対にススキちゃんが言わないようなことを言い出したんです……!

 も、もしかして、これが『憑依』……!?


 困惑するボクを余所に、様子がおかしくなったキリとススキちゃんが会話を始めます。


「……さっすがぁ。どっちにも憑りついたことがある奴は言うことが違うねぇ。まっ、俺はこっちの方がいいと思うけどな」

「……まあ、一番いい身体をしているのはセイが捕まえている子だと思いますが……」

「ああ……。元が男でもあれは確かに」


 そこにボクを捕まえている人が加わって……。


「俺好みに身体につくり替えたんだから当然だ。……渡さないからな? 俺はこの子とイチャイチャするって決めたんだ。ハグまでしかできないのが残念極まりないが」

「横取りなんてしませんよ。そんなことをしたらあとが恐ろしいので……。しかし、他人にも使うことができたんですね、『肉体改造』のスキルは」

「……ん? 待てよ、ポゼス。あの子を奪うのはセイの怒りを買うからできねぇけど、俺らが加わる分には問題ないんじゃね? だって俺たち、今女なわけだし」

「っ! そうでした! 百合好きのセイですし、女の子が増える分には構わないのでは!? いいですよね、セイ!?」

「いや、まあ、そうだが……。中身が男っていうのはなぁ……。しかも、ポゼスとエカリトだろ? ……うーん、まあ、ガワが可愛いからいいか……」


 そんな会話が繰り広げられて、ボクににじり寄ってくる二人。

 どうしてそうなったのか全くわからないけど、ボクは三人にもみくちゃにされる羽目に……っ!


「ひっ!? や、やめ……っ!」


 身体を弄られる。

 胸とかお尻とかは触れないみたいだったけど、それ以外はほとんど撫で回されて……。

 ……恐怖でしかなかった。


 心がもういっぱいいっぱいになってて、この人たちの声を聞く余裕なんてなくなっていて。

 でも、これだけは耳に入ってきた。



「ギャルと身体を入れ替えられて最高!」



 キリの姿をした人のこの声は。


 それでボクはようやく理解したんです。

 今、身体の大きい人に捕まっている悪そうな人相の人がボクの名前を知っていて、助けを求めるような目をボクに向けていた理由は、



――あの人とキリの身体が入れ替わってしまっているからだ、って……!



 な、なんとかしてキリとススキちゃんを元に戻さないと……!

 で、でも、ど、どうしたら……!?

 考えて、考えて考えて……。

 思いつきました。



――そ、そうだ! せ、聖女の回復魔法なら……!



 ボクはそれを試そうとしたんだけど……。

 ボクの動きは止められてしまった。

 いきなりの大声によって。


「やっぱダメだ! もう我慢できねぇ! みんな纏めて俺のものになれ! 『ブレインウォッシャー』!」


 キリ(中身)を捕まえている人がそう叫んだ直後、ボクの意識は真っ黒に塗りつぶされていった……。



……

…………

……………………



「――ハッ!?」


 どれくらい意識がなかったんだろう……。

 気がついた時、ボクを取り囲んでいた三人も気絶していて、意識はまだ戻っていないようだった。

 ボクは三人に押し倒されていた状態から抜け出して辺りを見渡します。


 そうして目に入ってきたのは、倒れている悪人顔の人とその人を見下すように立っている鬼のような男の人の姿。


「キリ!?」


 ボクは思わず声を荒らげていた。

 だって、キリ(中身)が倒れていたんだから。


 でも、状況はボクが思っているようなことにはなってなかったんです。


「あっ、パイン。気がついた?」

「……ふぇ!?」


 さっきは悪そうな見た目の人が呼んできていたけど、今度は鬼のような見た目の人がボクの名前を呼んできて……。

 ボクは一瞬戸惑わされたけど、すぐにスキルのことを思い出した。

 キリと悪そう見た目の人の身体は入れ替えられていた……。

 そして、キリにはそんなスキルはないわけで……。

 そうだということは、身体を入れ替えるスキルは悪そうな見た目の人が持っているスキルだったのではないか? と推測できます。

 スキルがもし、身体の方に結び付けられているのだとしたら――



――悪そうな見た目の人の身体の中に入ってしまっていたキリは自分の身体を「取り換え」られたように、そのスキルを使うことができたりする……?



「もしかして、キリ……?」


 確認してみると。

 想像した通りの答えが返ってきて。


「うん、そうだよー? みんなが操られるのを見て、鬼みたいな男こんな奴の思い通りになるのはヤだったからさ、必死になってたら『身体を入れ替えるスキル』が発動して。で、入れ替わったことに気づいたこいつが身体を取り戻そうとしたから今度はこいつのスキルが発動して相手を眠らせた、って感じ」


 また身体が変わってしまったらしいキリ。

 鬼のような男の人から発せられるその口調は確かにキリのもので。

 なんだかものすごく違和感があるんだけど……。


 悪そうな見た目の人(中身、鬼みたいな人)を眠らせたあとに、キリは鬼の人がススキちゃんを『洗脳』してたのを利用して眼鏡の人の『憑依』を解かせたんだとか(眼鏡の人が起きるのと同時に『洗脳』で眠らせたみたい)。

 それからボクとススキちゃんの『洗脳』を解いてくれた、とのこと。

 感謝してもしきれない。

 キリ、カッコイイなぁ……。


 少しするとススキちゃんは目を覚まして。


「……う、ううん……。私はいったい……?」


 どうやらちゃんと『憑依』は解除できてるみたいだったから、ボクがこれまでのことを説明しました。

 ススキちゃんが今のキリやボクの姿にすごく驚いてなかなか説明に入れなかったんだけど……。


 ススキちゃんに説明してると、ボクは妙案を思いついたんです!



――今のキリに、ボクをこんなにした人を『洗脳』してもらって、ボクの身体を元に戻してもらえばいいんじゃ!? と!



 早速キリにお願いしました。

 けど、予想外のところから反論が……っ。


「いいえ! ダメです、キリ! 戻しては! こんなに可愛いのに戻してしまってはもったいないでしょう!?」


 ススキちゃんが抵抗したんです……。

 ……考えてみれば、これはまったく予想外のことではありませんでした。



――小さいころのボクに、私の言う通りにしてたらカッコイイ男の子になれるよ! と女の子らしい所作を教えてたのがススキちゃんだったから……。


 

 もったいない、って何!?

 ボクで遊ぶの、いい加減にしてよ!

 そんなにイジるなら、ススキちゃんの今日の晩ご飯、なしにしちゃうからねっ!?

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