第228話(第六章第22話) 因縁との決着(コエ)2
~~~~ コエ視点 ~~~~
「りゅりゅーっ!」
「か、カラメル……っ!」
カラメルのおかげで解放された。
私はまだギルドハウス内にいる。
この家から出されていたら、どうなっていたのだろう……。
……危なかったかもしれない。
私を無理やりハウスの外へ投げ飛ばそうとしていたガリガリの男を壁まで吹っ飛ばしたカラメルは、私の近くに着地する。
私はしゃがんでカラメルの頭を撫でた。
「な、なんだぁ!? そのへんてこなプディンはぁ!」
「イッテェ……! こいつ、テイマーだったか……!」
太った男がカラメルを指差しながら吠え、ガリガリの男は苦痛に顔を歪めながら悔しそうに立ち上がる。
ここは
……いや、受けているな。
これは……。
一方、ペオールとフェニーは焦った表情で私たちと男たちを見比べるようにしていた。
あいつらは何がしたいのだ……?
私がペオールとフェニーの行動を訝しんでいる時、ガリガリの男が声高々に言ってきた。
「フハハハハッ! テイマーなら話が速い! なんてったって俺には『所有権の譲受』っていうスキルがあるんだからなぁ!」
「ああ、あれか! くくくっ、このガキがどんな反応するか楽しみだな!」
「……」
私はこっちの世界の情報は簡単には得られない。
そういう制約が掛けられてしまっているから。
ただ、おおよそは察せられる。
『所有権の譲受』というスキル名と、テイマーを相手取ることに関しての並々ならぬ自信。
これらから導き出される最も起こり得る可能性は……。
私は、いや、私たちは予防することにした。
カラメルにかかる負担が少し心配ではあったが……。
「……りゅっ」
……よかった、無事だった。
……こっちの世界の情報も瞬時に得られるようになりたいものだ、と強く思う。
私たちが対策を取っている間に、ペオールとフェニーの二人がひそひそと話し出していた。
それが目に入った。
口の動きからすると、
――あいつ焦ってるから、スロウたちに付いた方がよくね?
――いや、もう少し様子を見よう……
という会話だった。
……ああ、なるほど、理解した。
冷え切った目を向けたあと、視線を切った。
視線をガリガリの男と太った男の方に戻すと、私がどんな顔をするか、という話で盛り上がっていたのがちょうど纏まったところだった。
「フゥワーハッハッハッハー! それじゃあ行くぜぇ! 『所有権の譲受』!」
ガリガリの男がその腕を真っ直ぐ前に突き出し、拳をつくって宣言する。
「『所有権の譲受』は対象のテイムモンスターを奪うスキルだ! これでそのへんてこプディンは俺のものだぁ! 自分のテイムモンスターに殺されるがいい! さあ、やれ! へんてこプディン!」
「アーハッハッハッハーッ! 安心するなよぉ!? ここは今、安全地帯じゃねぇからなぁ! 俺の『
下品に、勝ち誇ったように笑う男たち。
意気揚々とカラメルに命令する。
……しかし。
「りゅりゅ?」
カラメルは奴の言うことを聞かなかった。
首を傾げるように身体の形をプルンと変えていた。
「な、なんで言うこと聞かねぇんだ!? 頭悪いからわからないのか!? おら! さっさとやれ!」
ドカドカと乱暴な足音を響かせながらカラメルに近づいて行き蹴ろうとするガリガリ男。
私は叫んだ。
「カラメル!」
「りゅっ!」
私の声を聞くと同時にカラメルはその背を低くする。
虹色のオーラを纏い、勢いよく跳び跳ね、驚異的な素早さで男の腹にぶつかりに行った。
「おごぁっ!?」
「へ? おい、こっち来ん――ごはっ!?」
カラメルが突進したことでガリガリの男は後方へ。
進行方向にいた太った男も巻き添えにする。
二人がぶつかって床に倒れそうになったところにカラメルがすかさず追い打ちをかけた。
再度タックルをして開いていたドアからギルドハウスの外へとふっ飛ばす。
カラメル、羨ましいほどに強いな……。
厄介なスキルを持った者がいなくなったので、今のうちにさっきやったことの後処理をしておく。
私はあの男の口から『所有権の譲受』という言葉を聞いてから、カラメルとの間にあった主従契約を解除していた。
スキル名からしてそうした方がいいと判断したからだ。
契約がなくなった時、テイムしていたモンスターが消えてなくなってしまう可能性もなくはないと考えて一抹の不安を抱えていたが、そんなことにはならなかったので、それは本当によかったと思う。
今の私はカラメルの主ではない、ということになったため、奴のスキルは不発に終わったものと推測される。
その解除された関係を私たちは元に戻していた。
そうしていると、さっきまで何もしゃべらなかったペオールとフェニーが話しかけてきた。
「や、やっぱこっちが勝つか……! お、俺は最初からそう思ってたよ! えっと、俺たち、あいつらに協力しろって脅されててさ……。あ、あんたらに危害を加えるつもりはこれっぽっちもなかったんだ! ほ、ホントだぞ!?」
「う、うんうん……っ!」
……なんかすごく持ち上げてきた。
必死に助かろうとしている。
私は先ほどのこの二人の会話を聞いているからバレバレだ。
明らかにゴマをすってきている。
それで見逃してもらえると本気で思っているのか?
どっちにつくか迷っている時点でこいつらは反省などしていない。
捨て置くとのちの障害になり得る。
ならば……。
私は自分のステータスを確認した。
相変わらずショボいステータスだ……。
セツたちのと比べると劣っているなどというレベルではないほど数値が低すぎる。
これでこいつらの対処ができるだろうか? と考える。
すぐに結論は出た。
無理だ。
力では及ばない。
スキルもこっちの世界では使えないものが多い。
やはり私は何もできないのか、と項垂れそうになった時、それは目に入った。
ジョブスキル『畜産』の説明が。
『畜産』――仲間になることを了承したモンスターを召喚し共闘することができる。
仲間になったモンスターから素材アイテムを回収できる
(素材を生成できるモンスターからはより多くの素材を入手できる)。
テイムされたモンスターのステータスはテイムした存在のステータスの
影響を強く受ける。
テイムしたモンスターに魔石を与えると経験値に変換される。
テイムモンスターに魔石を与えると強くできる……?
そういえば、バッグにはカラメルからもらっていた虹色魔石が入っていたはず……。
こ、これだ!
私にできるのはこれしかない! そう感じた。
カラメルにありったけの魔石を与えた私。
私が持っていた分だけでなく、カラメルがつくった分も一度私が回収して「食べて」もらった。
彼はMPがあれば魔石を生成できる。
しかも、セツがつくってくれていたポーションのおかげでつくれる魔石の数はかなり多い。
即ち、カラメルの大幅なレベルアップができたということ。
カラメルに魔石を与えだした私を見て、ペオールたちは困惑しだした。
何をやっているんだ、という問い掛けも無視してずっとその作業を続けていたからか、痺れを切らしたペオールが、俺たちをお前たちの庇護下においてくれ! と迫ってきた。
あいつは、うんって言え! と言いたげな顔で私に手を伸ばしてきて――。
私は弱いから頭に「死」の文字がちらついていた。
けれど、私が死ぬことはなかった。
カラメルが守ってくれたから。
そしてカラメルは、
――ペオールを呑み込んでしまった。
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