第227話(第六章第21話) 因縁との決着(コエ)1
~~~~ 第四層「スクオスのジャングル」に続く道 ~~~~
マーチとクロが去ったあと。
三人の人物が嘆いていた。
「くそ、くそ……っ! おい、アトル! お前がいれば楽勝ではなかったのか!? 散々見栄を張っておいて、なんだあのやられ方は! 瞬殺だったじゃないか!」
「あ、あり得ぬ……っ。この私が生産職に負けるなど……っ!」
「喧嘩をしている場合ではないだろう!? 我らが早急にやらねばならぬことはこの状況を解決することではないのか!?」
三人とはダブル、アトル、ランス。
マーチとクロに挑んで返り討ちに遭った者どもである。
この三人は今、このような状況になっていた。
========
名前:ダブル レベル:360
職業:魔法使い
HP:1/1
MP:0/0
攻撃:1
防御:1
素早さ:1
器用さ:1
スキル:『ディープフェイク』
『嘘の上塗り』
『MPリンク』
状態:装備による全ステータス低下
装備による装備変更不可
装備による移動不可
装備による連絡不可
装備によるアイテム使用不可
名前:アトル レベル:720
職業:闘士
HP:1/1
MP:0/0
攻撃:1
防御:1
素早さ:1
器用さ:1
スキル:『形質変化』
『魔法の身体』
『弱点補完』
状態:装備による全ステータス低下
装備による装備変更不可
装備による移動不可
装備による連絡不可
装備によるアイテム使用不可
名前:ランス レベル:360
職業:神官
HP:1/1
MP:0/0
攻撃:1
防御:1
素早さ:1
器用さ:1
スキル:『シェイプシフト』
『生態模写』
『変身時間制限撤廃』
状態:装備による全ステータス低下
装備による装備変更不可
装備による移動不可
装備による連絡不可
装備によるアイテム使用不可
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「全ステータス低下」、「装備変更不可」、「移動不可」、「連絡不可」、「アイテム使用不可」――呪いとも受け取れるようなマイナスの特殊効果の数々。
それらが三人の防具に付与されていた。
やったのはクロ。
彼女は去る前にこの三人の防具に付いている特殊効果を、彼女のスキルで弄っていたのである。
「どうにかする、ってどうするんだ!? 装備は取り外せないし、アイテムも使えない! それに、俺らはここから動くこともままならないんだぞ!?」
「……連絡も取れぬから助けを呼ぶこともできぬしな」
「ステータスを低下させられていて、スキルも使用できないからな!? 使えたとしても、俺らは移動系のスキルを持っていない……! これでどうしろと言うんだよ!」
「あ、諦めてどうする! 考えろ、ダブル!」
「こいつ、いつもいつも……! そこまで言うならお前が考えろ、ランス! まあ、いつも俺に頼り切っているお前じゃ何も思いつかないと思うがな!」
「な、何を……!」
動けないし、助けも求められない。
その場にいることを強制させられたダブルとランスは口論をし始める。
その場にいるもう一人、アトルはというと二人の会話など耳に入ってはいなかった。
「ここはダンジョンの外……。モンスターはほとんど出てこない……。私たちが動けないのは状態異常ではない……。アイテムでは治せない……。これ、ずっとこのままなのではないか……?」
そのことに思い至り、絶望していた。
ちなみに。
一人、この場所を走り去っていったトールという人物だが。
「や、やめろ、やめてくれぇ……! お、俺をどこに連れて行く気だぁっ!」
などと叫びながら尻もちを搗いた状態の後退りを続け、「タチシェス自然保護区」ダンジョン15階のある場所へと自ら向かって行く。
そして、その場所に自ら勢いをつけて入っておきながら、
「あべしっ!? な、投げることないだろ!? な、なんでこんなことを……!? し、仕返し!? ま、待て、商人の嬢ちゃん! なんだここ!? も、モンスターがいっぱい……っ!? う、うわああああああああっ!」
商人の女の子に投げられた、と主張する。
自ら入ったというのに。
その男が入った場所とは、
――80体のタチシェスに囲まれるモンスターハウス。
幻影に惑わされた男はこの場所に向かわされたのである。
「あがああああああああっ!」
男の断末魔がバケモノたちの部屋で響くのだった。
~~~~ コエ視点 ~~~~
【時は少し遡って、マーチたちがギルドハウスを出ていったあとのこと】
マーチがクロを連れて出ていった。
本音を言えば、私もついて行きたい。
だが、私の役目はそれではないだろう。
ついて行ったとしても、私にはできることがないのだから。
この家で彼女たちが帰ってくるのを待つ……。
それが私に与えられた役目だと感じた。
「セツたちがライザを連れて帰ってくることができますように……」
そう祈った時だった。
――バアアアアンッ!
物音。
玄関の扉が勢いよく開けられた音だ。
そして。
「アーハッハッハッハーッ! 今日からこの豪華なギルドハウスは俺たち『砂男の虜』のものだ!」
聞いたことのあるようなセリフに、展開。
私は反射的にその方を見た。
そこに――
――あの二人の姿があった。
ペオールとフェニー……!
こいつら……、性懲りもなく……っ!
ただ、二人の様子はおかしかった。
俯き加減で居心地が悪そうに冷汗をだらだら流している。
先ほどのセリフを言ったのはこの二人ではなかった。
二人の間にいる縦に長い男と横に広い男。
この二人のうちのどちらかが放ったものだった。
「……あん? あんだよ。全員出払ってるんじゃねぇのかよ。『不法占拠』できねぇじゃねぇか」
「あー、いいこと思いついたー! 追い出しちゃえばいいじゃーん! そうすりゃあそのスキル使えるんでしょ?」
太っている方がスロウ、病的なまでに痩せている方がレイジ。
……やはり、私にはゲーム内の情報はプレイヤー名しか読み取れないようだ。
奴らのいらない情報(現実)は嫌というほどに手に入れられるのだが……。
私はこいつらがここへ来た理由を考える。
ペオールとフェニーがいる時点でいい理由だとは想像しにくい。
それに加えて初対面の二人が、追いだせばいい、とか、『不法占拠』、とも言っていた。
これはよくない来訪であることは明白だろう。
私が頭の中で状況を纏めていると、ガリガリの男が動き出した。
「おらぁ、とっとと出てけぇ! 『マジックアーム』!」
ガリガリの男が私に向けて手を伸ばす。
私とは結構離れていたから、そいつが何をしようとしているのかが瞬時には理解できなかった。
しかし、何かしらの意味があるのだと判断すべきだった。
この世界は、ゲームの中なのだから。
――ガシッ
「っ!?」
私の身体が何かに拘束される。
感覚としては透明な巨大な手に両方の腕と胴体を掴まれているかのよう。
その力は強くて私では抜け出せなかった。
「そぉら! このまま外へポーイ!」
「なっ!?」
私の身体が動かされる。
そのまま外に投げられるのではないか?
そんな動きだった。
私はハッとする。
――全員出払ってるんじゃねぇのかよ。『不法占拠』できねぇじゃねぇか
――追い出しちゃえばいいじゃーん! そうすりゃあそのスキル使えるんでしょ?
このまま私が外に出されたらこのギルドハウスが大変なことになる――そう直感した。
けれど、どんなに足掻いても私は私を掴んでいる透明な手のようなものから脱け出せなくて。
……ああ、なんて無力なのだ。
っ! まずい、勢いをつけるための動作が終わった……!
このままでは――
目を固く閉じてしまった時だった。
「ヘブッ!?」
男の悲鳴が聞こえ、拘束が解ける。
恐る恐る目を開けてみるとそこでは、
「りゅりゅーっ!」
カラメルが男を吹き飛ばしていた。
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