第226話(第六章第20話) 因縁との決着(マーチ&クロ)3
~~~~ マーチ視点 ~~~~
「あがっ!? ぐふっ!? がはっ!? ま、待っヘ……!」
「猛省した? 悔い改めた? セツちゃんは神! って思った? 思ってないなら続行」
……。
ひどい光景なの……。
倒れた木の隙間から辛うじて見えるそれは、クロが槌で相手をボコスカと殴り続けるというもの……。
HPが1で止められるから、って情け無用な感じ……。
通りがかりの人にこの構図を見られたら、クロの方が悪者だ、って捉えられそう。
……ていうか、あの人。
強さには自信があるみたいだったから、ちょっとヤバいんじゃないか? って思ったのだけど、蓋を開けてみれば大したことなかったの。
考えてみれば、当然の結果だったかもしれない。
ボクたちは上位職にパワーアップしてて、レベルも400近いのだから。
下位の職業で換算するとレベル1,500以上になるらしい。
相手が経験値で有利になるスキルを取っていない限りこれを超えるのは容易じゃない。
あと、クロは装備を改良できてステータスを際限なく上げられるから、実際の強さはレベルよりもっと上。
敵う道理はない。
(こんな頭のおかしい奴が最上位クラスの強さを持ってるっていうのは世も末だと思うのだけど)
「な、何故だ……!? 仲間の姿をしているんだぞ!? 何故、殴れるんだ!?」
なおも槌を振り回し攻撃するのをやめないクロに、畏怖を感じたのか慄くダブル。
そういえば、クロって他人の顔がわからない、って言ってたはず。
だからライザの姿だと認識できなくて躊躇わないで攻撃することができている、ってこと?
それとも、そもそもライザとはそれほど仲が良くなかったから殴っても問題ない、って思ってるとか?
……ううん。
クロにとってはお姉さんが第一だから、お姉さんの敵は自分の敵だ、と認識しているのだと思う。
ということは、お姉さんを害した時点で誰であろうと排除する対象として認定されるのだろう。
たとえ、それが仲間の格好や声をしていたとしても。
……って、アトルとかいう人の呻き声が聞こえなくなっているのだけれど?
見づらいけど、なんかぐったりしてるように見える。
あれ、気を失ってる……?
(クロの攻撃はまだ終わってないけど……)
同情はしないけれどクロがえげつない、って感想を抱いていると、
「『透明化』を解いてくれ! 我がどうにかしよう!」
「っ! わかった! 頼んだ!」
ボクの背後(倒れているから背中の上)からそんな会話が聞こえてきた。
ボクの声とクロの声で。
その方を見てみると何もなかった空間に白い光が集まってきて、そこから一人の人物が姿を現した。
そいつはクロの姿をしていて。
偽物のクロで本物のクロをどうにかするつもり? って疑問に思ったのだけど、その姿でどうにかするわけじゃなかった。
そいつはまた光に包まれて姿を変えたの。
――身体はウサギで、顔はヤギ、尻尾はサソリの生物に。
『「シェイプシフト」で変身した! カプルピクニス! 「デバフ無効」、「バステ無効」、「物理無効」に「魔法反射」の特殊効果を持つ、我の知るが限り最強のモンスターだ! 我には「生態模写」――化けたモンスターの特殊効果を使えるスキルもある! よって今の我は無敵だ! 覚悟するがよい!』
そう言って、高速?(お姉さんやライザが移動するのを見てるとあまり早いとは感じない速度)でクロの元まで飛んで行くサイズ感のバグってるヤギ頭のキモイウサギ。
ステータス的には大丈夫だろうけど、攻撃が一切通らない特殊効果を持ってるという部分に、ボクは流石に不安を覚えた。
「クロ……っ!」
だから、思わずクロの名前を呼んでしまったのだけど……。
あいつはいつも使ってる鉄槌で、その面の部分を問答無用でヤギの頭に叩きつけたようとしていた。
『ふん! 今の我には「物理無効」が――』
――パリーンッ
『――へ?』
一瞬、凸レンズのような緩く弧を描く透明な壁が防いだ。
けれど、その壁はすぐにガラスが割れるようにして消失し、人をやめた男が素っ頓狂な声を漏らす。
『なんで、「物理無効」の守りが消えて……!?』
「……『傾国傾城』。お前の能力を弱らせた。ステータスも特殊効果も。ただ、それだけっ!」
『ごぶふぁっ!?』
クロがもう一度槌を
大木にべしゃっとぶつかって停止、ぐったりして動かなくなる。
……っていうか、特殊効果を弱体化させられる特殊効果って……。
もうめちゃくちゃなの。
一時はどうなることかと思ったけれど、クロが圧倒的過ぎて二対二に。
ただ、あれに助けられてばかりなのは嫌だった。
ボクの後ろにいる奴の実体が見えるようにならないかな? って考えていると、神様がボクの味方をしてくれた。
「ランスーっ! く、くそ! ランスがやられた……! えっと、えっと……、何か方法は……そ、そうだ! おい、ダブル! 俺に使ってる『ディープフェイク』を解いて、かけ直してくれ! 『ジュン』で行く!」
「おお! その手があったか! では俺は『キサラギ』で……」
話し合って作戦が決まったらしい残された二人。
『透明化』が解除されて、ボクを押さえつけてるボクが姿を見せる。
その姿はすぐさまチャラそうな男のものに替わって、そして、顔を鷲掴みにされた。
――拘束を振り切って仰向けの状態に体勢を変えたボクに。
「……え?」
クロが簡単に倒せてたから、たぶんできる、って感じていた。
思った通り身体の向きは問題なく変えられた。
ボクに顔を鷲掴みにされた男は、ボクの手から離れると奇声を上げながら尻もちを搗いた状態で器用に高速で後退りをしていく。
その姿はすぐに見えなくなった。
「……さてと」
「ひぃっ!? ……くそっ、『ブラックドッグス』の奴ら……! 俺ら『妖精のしっぽ』をこのゲームで最強のパーティにしてくれるんじゃなかったのか……!?」
残るは一人。
真顔をそっちに向けると、そいつは慌てて自分の姿を変える。
ボクがボス部屋に放られるのを嗤ってみていたあのムカつく姿から、どこかで見たことあるような低身長の女の子の姿に。
たぶんだけどボクに、あの姿で接するのはまずい、と判断したのだと思う。
「た、助けて♡」
そいつはボクに媚びるようにそう言ってきた。
ボクは黙ってそいつのことを見ていた。
だって、その背後にぬっと近づく怪しい影があったから。
……狂気に満ちたクロの影が。
冷汗をだらだらと流しながら、クロに精いっぱい可愛さをアピールするダブル。
その抵抗は空しく、鉄槌は真上から振り下ろされた。
ちなみに。
妙な動きをしてこの場から去っていったチャラい男のことだけれど、あんな奇行に走ったのはボクがあいつの顔を鷲掴みにした時に幻惑薬を投与していたからなの。
ボクには『手加減』なんてないから、クロみたいなことはできないし。
あんな奴をPKした扱いになってペナルティを食らうなんてバカバカしいもの。
とりあえずなんとか片づけられたし、早くお姉さんと合流しないと……!
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