第225話(第六章第19話) 因縁との決着(マーチ&クロ)2
~~~~ マーチ視点 ~~~~
わからない。
何がどうなっているの?
どうしてボクは倒されているの?
どうしてそこには何もないのに何かに乗られている感触があるの?
どうしてこいつらはボクたちとそっくりな形や声をしているの?
あとから冷静になって考えてみれば、簡単なことだった。
けれど、この時のボクは早くお姉さんの元に行きたくて。
早くライザを連れ戻したくて焦っていて……。
そんな簡単なことにさえ気づけなかったんだ。
「マーチちゃん! あう……!」
短い悲鳴が聞こえて横を確認すると、クロがボクと同じように地面に伏していた。
何かが乗っているのか、クロが着ている服に異様な皺ができていた。
思わずクロの名前を叫びそうになったけど、ザッザッザッという足音が聞こえてきて、ボクの顔は正面の方へと向けさせられる。
ライザ(?)が目の前まで近づいてきていて、言った。
ボクは地面に這わされていたから、そいつの様子を確認するには見上げる必要があった。
「……ふむ。ダブル、この者たちは本当に強いのか? 私にはそうは思えないのだが……」
顎を触り考える仕草をしたあと、お姉さん(?)の方に顔を向けて確認していた。
強いはずだが……、と少し動揺した様子のお姉さん(?)。
……それにしても、今、ライザ(?)はお姉さん(?)のことを「ダブル」って呼んだ?
その名前、どこかで聞いた憶えがあるの……。
どこだっけ……? とボクが記憶を辿っていると、横からすさまじいオーラを感じた。
クロだ。
クロから怒りが溢れ出ていた。
「……ダブル――『ちっちゃくて大きい』子に化けて私を誑かした屑! 今すぐ私の目の前から消えろッ!」
クロが叫んだことで、ボクはようやく思い出した。
どうしてボクたちそっくりな姿かたちをした奴らがいるのか疑問に思っていたけれど、ボクたちは「偽装を得意とするプレイヤーの存在」をよーく知っていた。
クロに偽物の装備をつくらせていた、あの事件の首謀者。
そして、
――ボクを「スクオスの森」のバグで犠牲に使おうとした奴ら……!
ボクは目の前の仇に、歯を噛み締めた。
(弥生があれを知っていたとは思えないから、こいつがバグについて教えたのだと思う)
(それからバグに興味を持って調べて「決闘」のバグを見つけて使った……)
(あの子の性格からして、その可能性が高い)
クロは威勢のいいことを言っていた。
けれどそれは、伏せられて動きを封じられている状態で、なの。
相手を怯ませる力は、その言葉にはなかった。
「クズ呼ばわりとはひどいなぁ。それから、消えろ、だと? その状態で何ができるというんだ? なにもできまい! お前たちは大人しく我々が強くなるためにこの世界から退場してくれればいいんだ!」
お姉さん(?)……ううん、ダブルが言ってきた。
お姉さんの声で。
お姉さんなら絶対に言わない言葉を。
……本当にイライラする!
これはもう確実にお姉さんを貶しているとしか判断できない。
ボクは腹を立てていた。
けれど。
ボクよりももっと憤っている存在がいた。
相手が仇敵であったという事実を知った時よりも、怒りの度合いが増していて。
「ごぶっ!?」
突如として、どこかから悲鳴が聞こえてきた。
続けて少し離れたところにあった木が何故かいきなりドゴーンと大きな音を立てて、べきべきと折れ始める。
(ボクたちがいる場所はジャングルのダンジョンに向かう道だから、周りには大きな木がたくさんある)
一瞬、何が起きたのか理解できなかったけれど、目を凝らしてみると何かが高速で回転しながら宙に浮いているのが確認できた。
それは――武骨なハンマー。
予備としてつくられたクロの武器の一つに、確か、『自律戦闘』の特殊効果を付与したものも持ってる、とか言ってたっけ?
じゃあ今のは、『自律戦闘』をする槌のターゲットとなった何かが攻撃されて吹っ飛んでいった、ってこと?
ボクが状況を整理していると、ボクの背中の方からボクの声がした。
「ほわっ!? なんで攻撃できたんだよ!? 俺が『透明化』させてた、ってのに……っ!」
『透明化』……。
なるほどなの。
クロは、透明になってクロの身体を押さえつけてた奴を『自律戦闘』を持ったハンマーの標的に定めていた、と。
透明になっててボクには見えなかったからそいつが木に当たったのが認識できなくて、木が独りでに音を立てて折れたように受け取れたみたい。
……あと、ボクに乗ってるのも透明になってる奴だってわかった。
ボクたちに仕掛けてきたこいつらの顔に、何が起きたんだ!? と書かれる(そのうち二人は透明だったため、同じ顔をしてるかはわからなかったけど)。
驚きの表情に染まっている奴らの顔に、さらに驚きの色が増す。
クロが立ち上がったことで。
……ていうか、立ち上がり方。
ぬめりって感じで気持ち悪かった。
加えて、発された言葉もヤバかった。
「……セツちゃんはそんなこと言わない。あの神聖なセツちゃんを汚した。断罪、万死に値する。……撤回、それ、セツちゃん気にする。よくない。……発想、殺さずに後悔させる。心を折る、……ううん、生ぬるい、粉砕する、名案。んふっ、んふふふふっ!」
ニタァと不気味すぎる笑みを浮かべながら物騒なことを口にするクロ。
やっぱりこの人、お姉さんのこととなると盛大に頭のネジが飛ぶの(普段でも二、三本飛んでるのに)。
その様子は、味方であるはずのボクですら委縮してしまいそうなほどの狂気が含まれていた。
その場にいたボクを含めた過半数は今のクロに引いていたのだけれど、一人だけ果敢に挑もうとしていた奴がいた。
ライザの姿をした奴なの。
それは勇猛ではなくて蛮勇っていう気がする。
そいつが言った。
「っ! 対象を吹き飛ばすスキルかな? 少しはやるようだ。だがしかし、最強を目指す私には生産職など取るに足らぬ! 最強になるための糧となってもらおう!」
そういえば……。
今ここにいる奴らは、ボクを犠牲にし、クロのお金と信用を毟り取ったあの三人組のはず。
けれど、少し離れたところで怯えている奴、ボクの背中に乗っている奴、クロにさっき吹っ飛ばされていった奴、壊れたクロと今退治しようとしている奴……。
……一人多いの。
今ごろになってそのことに気がついて危機感を抱いたボクだったけれど、もうそれに意味はなかった。
「何も知らずにやられるのは可哀想だ。だから、教えてあげよう。私の名前はアトル。身体を構成する成分を変えられるスキルを持っている。今の私は風だ! この状態の私に攻撃が届くことはな
――へぶしっ!?」
クロがいつも使ってる鉄槌を取り出して目にもとまらぬ速さで振り、ライザの見た目をした人を吹っ飛ばした。
……クロ、説明も聞かない、って容赦ないの……。
何本かの木をへし折りながら直進し、一際大きな木にぶつかってようやく止まったアトルとかいう人。
「な、何故だ!? 何故、スキルが機能しない――!?」
クロに疑問をぶつけるけど、彼女は一瞬にしてそいつとの距離を詰めて高らかに言った。
「予備に『手加減』つけた。これでHP1で止められる。でも、痛みはあるようにした。セツちゃんを汚したこと、懺悔して? 改心して? 崇め奉って? それまで叩き続けるから!」
……もう会話は成立していない。
クロの頭のネジが全て吹き飛んでいた。
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