第224話(第六章第18話) 因縁との決着(マーチ&クロ)1
~~~~ マーチ視点 ~~~~
「こ、ここは……っ!?」
ボクたちは第四層「スクオスのジャングル」でライザを見つけた。
あいつを連れ戻そうとしたけれど、あいつは帰ることを拒んだ。
それからなんらかのスキルを発動させた。
あいつの手が淡く光ったから。
ボクはとっさにお姉さんを庇った。
お姉さんとライザの間に割って入ったの。
そうしたらボクの身体は白い光に包まれて、気づいたらここにいた。
テーブルの上にアイテムが乱雑に置かれている、よく見たことのある部屋に。
ここはギルドハウス内のボクの部屋だった。
ライザが使ったのが転移系のスキルだとわかった。
「スクオスの森」でお姉さんに使ったの……とはたぶん違う。
転移系って意味では似たスキルだけど、あっちはHPをなくしてたから……。
それよりも考えなくちゃいけないことがある。
――「今はまだわーだけが標的になってんのに、なーらがわーと仲良くしてたら、なーらまで標的になっちまうじゃねぇですかっ!」か……。
ライザはボクたちと会う前に仕出かしている。
恐らく、ライザを狙っているのはライザに『トリックスター』を使われてやり直しにさせられた人たち……。
……あいつはボクたちに迷惑を掛けないようにしようとしてるみたいだったけど、もう充分迷惑をこうむっているの。
面倒くさい問題を抱えていてそれを一人で解決しようとしている。
それは迷惑以外のなにものでもない。
あいつは、自分に何かよくないことがあったとしてもボクたちは何も思わない、と思っているの?
思うに決まってる。
つらくて悲しくて泣きたくなるに決まっている。
なんとも思わない時期は、もうとっくに過ぎているの。
あのなんでも知っている
――仲間なのだから頼れ! って。
ボクは自分の部屋から飛び出した。
ギルドハウスの共同スペースが視界に入ってくると、そこにはコエちゃんと普段より大分おとなしいクロの姿があった。
クロは、ライザがお姉さんを騙していたことが許せなくて、ライザのことをよく考えずにあいつを悪だと断定していた。
クロとお姉さんは現実でも親交があるようで、クロにとってお姉さんは特別な存在みたいだから、そのお姉さんが騙されていたことに頭に血が上っていたのだと思う。
ただ、ライザがお姉さんのことを庇おうとしていた可能性がある(ボクとお姉さんはそれが事実だともう知っているけれど)ことを知って、クロは極まりが悪そうにしていた。
……はぁ。
本当にライザといいクロといい、どいつもこいつも面倒くさい。
「クロ、来て。あいつを連れ戻すの」
「っ! で、でも……」
「いいから来るの!」
「は、はい!」
クロを呼ぶ。
一緒に来い! って。
渋ったけど関係ない。
半ば無理やり連れて行った。
クロと一緒に「踏破者の証」を使って第四層「デカデカの街」へ。
一応確認してみたけど、「巻物」の反応はまだこの階層の東側にあった。
ライザを是が非でも連れ帰るため、ボクたちは東へと向かった。
ダンジョンまでの道のりを走っている時のこと。
「――え?」
ダンジョンのある方から二つの影が歩いてくるのがわかった。
それは、お姉さんとライザで……。
「えっ、あれ!? お姉さん、ライザ!? どうしてここに!?」
「あ……っ、ま、マーチ、ちゃん? えっと、これから帰るところだったんだよ」
「……はい。お騒がせして申し訳ありませんでした」
「……そう。もう、終わったんだ……」
ボクが戻ってくるまでにお姉さんが片を付けていたみたい。
えっ? 決着をつけるの早くない……?
お姉さん、すごすぎるの……。
クロが申し訳なさそうにライザの元に行こうとする。
その時だった。
何故かはわからない。
けれどボクは、言いようのない不安を覚えた。
ボクをその気持ちにさせたのは、ほんの些細な違いだった。
「待って!」
ボクはとっさにクロの肩を掴んで止め、スキルで確認する。
すると、とんでもないことが判明した。
――『ないものねだり』の反応がまだ東の方にあった。
ボクはすぐさま武器に弾をセットして射た。
ライザの姿をした奴に向けて。
直撃、とはならなかった。
恐らく、無意識に躊躇してしまったのだと思う。
仲間の姿をしていたから。
それでも威力はあったみたいで、後方へと吹っ飛んでいくライザ(?)。
クロが、わけがわからない、といった様子でおろおろし始める。
「えっ!? マーチちゃん!? なんで!?」
「あいつ、ライザじゃないの! 本物はまだ『スクオスのジャングル』にいる!」
「まっ!?」
ボクが攻撃した理由を答えると、クロが驚きの声を上げた。
対して、吹っ飛ばされたライザ(?)の近くにいたお姉さんは、愕然とした表情を見せたけれど、すぐに悔しそうに顔を歪ませる。
これって、お姉さんも違う?
「くそっ、何故もうばれたのだ!?」
……あっ、確定なの。
お姉さんも違う。
お姉さんはそんな言葉使わない。
お姉さんの声で、お姉さんの格好で、お姉さんじゃない言動を取られるとあの人を貶されているみたいで気に食わない。
「……ライザは『お騒がせして申し訳ありませんでした』とは言わない。あいつなら『お騒がせしちまってすみませんでした』っていうの」
「なっ!? たったそれだけのことで……!?」
ボクが違和感を覚えた箇所を指摘すると、お姉さんの姿をした奴は声を荒らげた。
やっぱりこいつは癪に障る。
ボクは弾を補充したスリングショットのゴム紐を引っ張る。
お姉さんを貶すそいつに向けて。
弾は状態異常にするもの。
奴の化けの皮を剥がしてやろうと思った。
しかし――
「これはこれは、恐れ入った。まさか私を吹っ飛ばすとはな! 思っていたよりずっと楽しめそうだ!」
「っ!」
急に声がして、ボクの意識はそっちに向けてしまった。
だって、その声は……っ。
視線の先でゆらりと立ち上がる人物。
その身体には傷一つついていない。
さっき、ボクが射た魔石の弾が肩に当たっていたというのに……!
「な、んで……!?」
驚愕と困惑の表情をボクは浮かべていた。
そいつ――ライザの姿をした人物は飄々と言ってのける。
「何故って? 私には『形質変化』というスキルがあるのだよ。自分の身体を構成する成分を変質できるスキルだね。簡単に言うなら、
――自分の身体を砂や水、火、風に変えることができるのさ。
さっきはとっさだったから、得意な砂に変えることしかできなかったがね」
「そんな……っ!?」
ボクの攻撃が通用しなかった理由を知らされた。
そいつが風の身体になって迫ってくる。
こ、こんなの、どうすれば……!
ボクの注意はそいつに向けすぎてしまっていた。
周りの警戒を怠ってしまっていた所為で、ボクたちは更なる窮地に追いやられることになる。
突然、背後から衝撃を受けてボクは前のめりに倒れる。
俯せになったあとに振り返って見るけど、そこには何もなかった。
ただ、何かに乗られているような感覚はあって。
目を白黒させていると聞こえてきた。
「はい、確保ー! これで俺たちの勝ちだな!」
「っ!?」
ボクの背後から聞こえてきたその声は、
――ボクの声だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます