第220話(第六章第14話) ライザの答え2
~~~~ マーチ視点 ~~~~
ああ……。
ああああ……っ。
ああああああああっ!
「お姉さんっ!」
霧散するように、または崩れ去るように……。
お姉さんの身体は、消えていっていた。
手を伸ばすも、ボクの手はお姉さんの手を掴むことはできなくて。
――お姉さんは完全に、その場から姿を消した。
最後の粒子がきらりと光って、ボクの視界から消えていく。
……っ。
「ライザああああああああっ!」
考えていなかった。
ライザはずっと、後悔しているのだと思っていた。
これまでのこいつの言動は、ボクたちの役に立とうとしているように見えたから。
それがまさか……。
お姉さんを殺してしまうなんて……っ!
「よくも……っ、よくもよくもよくもよくも……っ!」
ボクはライザに向けて魔石の弾を射る。
目には涙が溜まっていた所為か、あいつには当たらなかった。
続けざまに何発か撃ったけれど、全て外れる。
悔しさと焦りで頭がどうにかなってしまいそうだった。
そんなボクに、あいつは言ってくる。
「……なんでやられないと決めつけてたんですか。ちゃんと忠告したでしょう? それを聞かなかったのはそちらです。
「当然なの! お姉さんの仇は討つ!」
涙を拭って、魔石をセットする。
ボクは頭に血が上っていた。
お前らが悪い、みたいなことを言ってくるこいつに報いを受けさせたかった。
だから、大事なことに考えが至っていなかったんだ。
「……わーに構うより、セツを迎えに行ってキャリーとかした方がいいと思いますけどね。生産職はよほど運がよくなきゃレベルを上げられませんから、いいパターンを引くまでに何回やり直しになるかわかったもんじゃありません」
「っ!」
教えられてハッとした。
今のライザに気づかされたというのは癪だったけれど……。
お姉さんの仇を取るか、お姉さんを助けに行くか。
お姉さんを絶望させたこいつのことは許せない。
けれど冷静になって考えてみると、勝てる気がしなかった。
素早さ以外のステータスはボクの方が圧倒的に高いのに、ボクの攻撃は全て躱されてしまっていたから。
弾がなくなれば、そのあとの展開は一方的なものになる……。
ここでボクがやられるのは得策じゃない。
ボクもやり直しになってしまったら、ススキたちに連絡が取れなくなるし、お姉さんをギルドハウスがある場所まで連れて行くのが困難になる。
そもそも、ボクがやり直しになってしまったら、お姉さんの足を引っ張ることしかできなくなる。
「商人のスリングショット」を失ったボクはお荷物でしかないから……。
ボクは「帰還の笛」を取り出した。
「ライザ! 絶対に許さないから! いつか必ず、必ず……! お姉さんに味わわせたのと同じ痛みを味わわせてやるから……っ!」
そしてボクは、「帰還の笛」を使った。
正直、素直に使わせてくれるとは思ってなかった。
あんな啖呵を切っちゃったものだからてっきり止められると踏んで構えていたのだけれど、あいつはボクが街に戻るのを黙って見ていた。
「お姉さん!」
「始まりの街」に戻ってお姉さんを探す。
けれど、お姉さんの姿はどこにもなかった。
いくら待っても、お姉さんが噴水前にやってくることはなくて……。
ボクは記憶を辿った。
あいつがお姉さんを消してしまう前に、また「スキル変更の巻物」を使っていたことを思い出す。
……まさか、あいつ!
いや、でも……っ。
この状況はそうとしか考えられない……っ!
ああ……っ、ああああああああっ!
お姉さんが消えちゃった……っ!
~~~~ ライザ視点 ~~~~
……ふぅ。
これでよし。
目的は達成できました。
わーは二人が光って消えていったあとを見ました。
……何も残っちゃいません。
まるで、今のわーみてぇに……。
ノスタルジーに浸っている暇はそんなに与えられませんでした。
ザッザッザッ、と地面を靴底で擦る音が聞こえてきます。
こちらに近づいて来てやがるのはスキルを使うまでもなく明白……。
「……はぁ」
わーは深い、深い溜息をつきました。
ポーチから『巻物』を取り出して唯一の出入口である一本の道の方を睨みつけます。
しばらくして、そいつらが姿を現しました。
数は五人……。
……ったく、湧きすぎでしょう。
「……ちっ」
思わず舌打ちが出ちまいました。
そいつらはわーに対して何かを叫んできます。
ただ、それを聞くつもりはありません。
……めんどくせぇんですよ、マジで。
わーは今日四つ目となる「巻物」を使用しました。
ふと思います。
先ほどセツに使用したスキルをこのアイテムの対象に指定したわけですが、変更する前のスキルは上手く機能したのか? と。
機能してなかったらやべぇなんてモンじゃねぇんですが、確認する余裕はくれませんでした。
やってきた五人が動き始めたからです。
わーは対応に追われました。
相手の一人がわーとの距離を一瞬で縮めてきます。
……速いですね。
まあ、ステータスを上げるスキルを持ってますから、当然ですか……。
向こうから近づいてきたんです。
一応、警告はしていたんですが、意味はなかったようです。
それでも向かってきたということは当然、反撃される覚悟を持っているということですよね?
わーは攻撃を躱してその人物に触れ、スキルを使用しました。
すると、白い光に包まれて消えていくその人物。
その人物以外の残りの四人は突然のことに動揺し始めました。
この機会を逃しはしません。
その人たちが呆けている間に、一番厄介なガード系のスキルを持っている人物の前に瞬間的に移動して触れ、その人物も光に包ませました。
五人で来たのにもう既に二人も消えてしまった状況に、残った三人は取り乱しました。
一人は焦ってわーを狙ってきたので返り討ち(触れて光に変えた)にし、一人は逃げ出そうとしたのですぐさま追い駆けて光にして消しました。
最後の一人は尻もちをつき、わーを見て怯えきっていたため触れて前の四人同様に消し去ります。
静かになった隠し部屋。
いろいろと確認して概ね計画通りに進んでいることを把握します。
全ては順調でした。
……なのに、
「はぁ……っ」
出たのは大きな、大きな溜息で……。
少し、動く気になれなかったわーはその場に腰を下ろして、しばらくの間また膝を抱えていました。
「……迷うんじゃねぇですよ。自分で決めたことじゃねぇですか……っ!」
自分に言い聞かせるように、そう繰り返し呟きながら。
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