第221話(第六章第15話) セツの行方(セツ視点)
「……ん、ううん……」
……頭がボーッとします。
少しくらくらする感覚があったため、頭を押さえながら目を開けました。
視界は初めのうちはぼやけていましたが、徐々に定まってきて、白い天井が映ってきます。
「ここは……?」
若干の怠さを覚えていた身体でゆっくりと上体を起こして周りを見渡してみると、そこには長めのテーブルと多くの椅子。
辺りには薬品のにおいが漂っていて。
私はここがどこなのかを理解しました。
「私の部屋!?」
ギルドハウスの私の部屋。
私はそこにいたのです。
どうしてこの場所の床で横になっていたのか、を考えてすぐに思い出しました。
「そ、そうだ……! 私、ライザに……っ!」
ライザにやられた……。
確かにそう記憶しています。
あの時、私のHPは間違いなく0になっていた……。
……ですが。
「……それならやり直しになってるはずじゃ……?」
何故か私はギルドハウスにいたのです。
これはいったいどういうことだろう? と疑問を抱いたため、ステータスを確認してみます。
すると、レベル385、職業:精霊薬師の表記が。
スキルも『ポーション超強化』、『有効期限撤廃(自作ポーション限定)+』と強化されている状態でした。
(私自身の状態も「デバフ無効(上書き不可)」、「バステ無効」のまま)
これが意味していることは――
「ライザは、私を殺すつもりがなかった……!?」
それに思い至った瞬間、私は自分の部屋を飛び出しました。
早くライザを見つけないと! と思っていたので周りがよく見えていなくて。
声を掛けられるまで、このギルドハウスに他の子がいたことに気づけませんでした。
「……セツさん!? いつ戻ってこられたのですか!? それに、そんなに慌てて……!?」
後ろから聞こえたので振り返ると、そこにはコエちゃんがいました。
私は答えます。
「ライザさんがスキルを変更してたからたぶん、そのスキルで……! それよりコエちゃん! ライザさんは私たちを裏切ってなんてなかったんだ! そうじゃなきゃ、殺すふりをして私をギルドハウスに戻すなんてことしないはずだから……! サクラさんにあんなことをしたのは何か事情があるんだと思う! やっぱり本当のことを聞きださないと……!」
コエちゃんにそれだけを伝えて慌ててギルドハウスを出ていこうとする私。
そんな私をコエちゃんが呼び止めました。
「ま、待ってください! そのことを皆さんにお伝えした方がよろしいかと……!」
コエちゃんにそう指摘されて、私はハッとしました。
ライザが私たちの敵になったわけではない、とわかって舞い上がって、冷静さを欠いていました。
そして、コエちゃんのこの助言で思い出した大事なことがもう一つ。
「そうだ! マーチちゃん……っ!」
私は、マーチちゃんを置いてきてしまっていたことに気づかされます。
居場所を確かめてみると、彼女は第一層の街にいて……。
慌てて電話を掛けると、彼女は堰を切ったように泣き出してしまいました。
マーチちゃんは、私がいなくなってしまったと思っていたみたいで……。
……彼女に余計な心配をさせてしまったことを反省させられました。
マーチちゃんはすぐにギルドハウスにやってきて、私に抱きついてきました。
私はマーチちゃんを安心させるように優しく抱きしめ返します。
そうしている間にクロ姉やススキさんたちも戻ってきて、私はライザのことをみんなに伝えました。
「ライザは私たちを裏切ったんじゃないと思う。私を殺さなかったから……」
「言われてみれば……! あいつはボクたちとの戦闘を避けようとしていたように感じるの」
私が言うと、マーチちゃんは記憶を辿るようにしてライザの言動を振り返りました。
「……ですが、サクラを手に掛けたことは? それはどう説明するのですか?」
「……だよね。サクラちゃん、今も目を覚まさないし……」
「それは……」
マーチちゃんは私の意見を支持してくれましたが、ススキさんとキリさんは納得がいっていないようでした。
彼女たちの視線が私ではない方に向けられます。
今も眠ったままの状態であるその人の方に。
彼女たちが納得していない理由は、サクラさんをこんな状態にした、という部分……。
私の意見では、その説明ができていなかったのです。
私はライザがなんの意味もなくこんなことをしたとは思えません。
ですが、なんの意味があったのか、が私には想像もつかなくて……。
ライザを捕まえて説明してもらわないとわからないのではないか? ということはススキさんとキリさんの協力を仰ぐのは難しいかもしれない……、と諦めの気持ちに私はなっていたのですが、そんな時にパインくんが言ったのです。
「……あの、サクラちゃんにこんなことしたの、ライザさんじゃないんじゃ……?」
と。
それは思いもよらなかったことでした。
「ちょ、ちょっと待ってください! どうして自分がやってもいないことを自分がやったなどと言ったのですか!?」
「そ、そうだよ、パイン! いいことなら兎も角、悪いことを自分がやったことにするなんて変じゃん!」
パインくんの発言にススキさんとキリさんが異を唱えます。
それでも、パインくんは、自分の勘違いだった、と意見を取り下げることはせず……。
「えっと、その……、ライザさんって、ボクたちと初めて会った時にボクたちにやったようなことを他のパーティの人たちにもやってた、って聞いたから……」
「そうなの! あいつ、多方面から恨みを買ってて狙われてるんじゃ!? だから、ボクたちから離れようとした! 迷惑を掛けないように……! それなら説明がつくの!」
パインくんの考えを聞いて、マーチちゃんはライザが私たちと会った時とそれ以前に何をしていたのかを思い出します。
私も思い出しました。
ライザが、
――「……今考えてみると短慮だったと思ってますよ。いくらうまくいかなくて苛立ってたとはいえ、みんなに迷惑を掛けちまうかもしれねぇ禍根を残したことは……」
と言っていたことを。
彼女は、現実でもゲームにも裏切られて荒んでいた時に、嘲笑してきたり気持ち悪い絡み方をしてきた人たちに無残な死に方をさせていました。
どれほどの相手からかはわかりませんが、恨みを買っていてもおかしくはありません。
そのことで私たちに迷惑が掛かるのを彼女は避けようとした、ということは大いに考えられます。
だから、私たちの前からいなくなろうとした……。
「……ほんとに、もう……っ」
なんでもかんでも一人で解決しようとしたがる彼女に私は言ってやろうと決めました。
――勝手な判断でいなくなられる方がよっぽど迷惑だっ!
と。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます