第217話(第六章第11話) 審議

「サクラがやられちゃってるからねー……。あいつはうちらを裏切った、って考えた方がいいんじゃない?」

「で、でも、どうしてサクラちゃんは『眠ったまま』なの? セツさんの状態回復薬を使っても起きなかったし……。あの人にこんなことできるのかな……?」

「あれはマーチさんが増やした『スキル変更の巻物』を使ってスキルを変えることを厭わないのです。それでこの前の二人組を撃退していましたから、『眠らせるスキル』に変更していてもおかしくありません」

「……」


 ライザは私たちを裏切っているとみなすキリさん。

 サクラさんの状態が不自然であることが気になっているパインくん。

 ライザならサクラさんを今のような状態にすることが不可能ではない、と言いきるススキさん。

 マーチちゃんはずっと黙ったまま……。

 状況ははっきり言って悪くなっていました。


 サクラさんは私がサブハウスの中まで運んでいました。

 少しでも状況を改善しようとして、サクラさんが起きれば好転するのではないか、と思って、全状態回復薬を使ったのですが『効果がありません』と脳内にアナウンスされて……。

 今も彼女は眠ったままの状態です。


 ライザのスキルは『アナライズ』、『トリックスター』、『総てはこの手の中にある』の三つだったはず……。

 その中に、対象を眠らせるスキルは含まれていないはずでした。

 しかしススキさんに指摘されて、ライザにはサクラさんを眠らせることができない、とは言えなくなってしまいます。



――彼女は三つ目のスキルに執着していない……。



 元々、彼女が持っていたスキルは『光の記憶』というもので、それを『総てはこの手の中にある』に変え、『パフォーマンス・チューニング』に変え、『総てはこの手の中にある』に戻している……。

 「スキル変更の巻物」を使うことを躊躇わないライザ……。

 『眠らせるスキル』を取得していることも考えらるわけで……。

 ライザはどうしてこんなことを……。


 考え込んでいると、クロ姉が纏め始めます。


「……審議。あいつを追放する、しない?」


 ライザをこのギルドから追い出すかどうか、を決めようとしたクロ姉。

 その表情はいつになく真剣で……。


「ちょっ、待って、クロ姉! ライザさんがなんでこんなことをしたのか、まだちゃんとわかってないのに……!」

「あいつ、言ってた。『私たちが邪魔だ』って。断言、庇う余地、ない」

「そ、それは……っ」


 私は、待ってほしい、と言いました。

 ライザがこんなことを仕出かした意味が必ずある、そんな気がするのです。

 これまで私たちと一緒に過ごしてきた彼女は、考えなしに行動する人ではありませんでしたから。

 ですがクロ姉に、ライザが言っていたことを思い出させられるように言われると、私は言葉を返せなくなってしまいました。

 だってこれは私がそう感じているだけで、証拠とするにはその能力はあまりにも乏しかったので……。


「私も敵とみなすべきだと思います。あれは何を考えているか読めません。信じた結果、キリやパインにも危害を加えられてはたまりませんから」

「ちょっ、ススキさん……!」

「……うちもあいつを信じるのはもう無理かなー。サクラがこんなになってるし……。パインは守らなきゃだし」

「っ!? キリさんまで……!」


 私が何も言えないでいる間に、ススキさんとキリさんもライザを追放することに賛成して……。

 このままではライザが本当に追放されてしまうかもしれません……!

 慌てる私の耳に次に聞こえてきたのは……。


「……許せないの。本当に許せない。もう迷惑はかけないって言ってたのに……!」


 マーチちゃんの声。

 その声は、怒りを必死に抑えている所為か、震えていました。

 マーチちゃん……っ。


「マーチちゃんも賛成。多数決。これで決ま――」


 クロ姉が審議を終わらせようとした時、マーチちゃんがそれを遮りました。


「ちょっと待つの。ボクはライザを追放するなんて一言も言ってないの。探して見つけ出してぶん殴って連れ帰って理由を吐かせるの。それで元通りにする。納得できない理由だったらどうしようもないけど……でも、ライザがやることだからきっと意味があるはずなの」

「マーチちゃん……っ!」


 マーチちゃんはライザを追放することに反対しました。

 マーチちゃんがライザのことを、私がライザに対して思っていたように見ていたことに、私は嬉しい気持ちになります。

 私は間違っていなかったんだ、と思えて。

 ライザのことをちゃんと見てくれている子がいる、ということがわかって……。


 おこがましくもそんな感覚になっていた私にだけ聞こえるようにマーチちゃんが耳打ちしてきます。

 これでもしボクたちが考えていることと違ってたら一緒に騙されることになっちゃうね、その時は一緒にあのバカを止めるの――と。

 私はマーチちゃんの方を向いて頷きました。



 それでライザを追放するかどうかの審議は終わらず……。

 パインくんに委ねられることになってしまいました。


「仕方ありません。パインに決めてもらうしかありませんね。この子に重要な役目を負わせてしまうのは心苦しいのですが……」

「え、ええっと、ぼ、ボクは……っ」


 責任を感じているのでしょう。

 パインくんはすらすらと言葉を発せなくなっていました。

 それでも意を決した様子で意見を口にしようとした時、


「セツさん。朝食が冷めてしまいましたよ?」


 淡い光を発して床の一部が円形に光り、コエちゃんがやってきました。

 それでホッとしてパインくんは口を噤みました。



 コエちゃんは、集まって神妙な面持ちを私たちを見て、何があったのかを尋ねてきました。

 クロ姉とススキさんが説明をして(ライザの言葉が悪い方向に偏っていたので私が修正をしています)、事情を把握したコエちゃんが提案します。


「なるほど。それではまずは捕まえて話を聞くというのはどうでしょう? 追放するかどうか、はそれから決めても問題ないと思います」


 コエちゃんのことの一言で、私たちの方針は決定しました。


 早速ライザを探そうとした私でしたが、それをコエちゃんが制してきます。


「セツさんは朝食を採りに行ってください。お母様が困ってしまいますよ?」


 ……お母さんを困らせたくはありません。

 ライザを捜索したい気持ちは山々でしたが、それはみんなに任せて、私は一旦朝ご飯を食べるために現実へと戻りました。

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