第214話(第六章第8話) 望まぬエンカウント
あのお客さんが帰っていったあと、マーチちゃんが詰め寄ったことで語られたライザの説明によると、
――ライザは私たちと会う前、現実でもゲームにも裏切られて荒んでいた彼女は他のプレイヤーたちに無残な死に方をさせていた、とのことです。
パインくんに行ったのと同様、『トリックスター』を用いて強いステータスを持つプレイヤーのステータスを奪ってそのステータスをモンスターに与える、というやり方で。
ライザは数えていたわけではありませんが、『トリックスター』の使用回数を『アナライズ』で調べてみると、四十五組の個人やパーティにこの方法を使っていたことが判明します。
そのうちの一組は私たちやパインくんたちなので、四十四組に迷惑をかけている、ということに……。
私とマーチちゃんは頭を抱えました。
「……言い訳させてもらいてぇんですが、誰彼構わず無差別にやってたわけじゃありません。
「それでも、迷惑をかけたことには変わりないと思うのだけど……」
「……相手は、大義名分を得たと誤認してPKしようとしてきたり、リアルの写真を送ってこいって執拗に迫ってきたり、雑魚が粋がるなと嘲り笑ってくるような奴らだったりしやがるんですが?」
「……それは確かにあまり気分がよくないかも。でも……」
ライザの言い分は、自分に迷惑をかけてきたプレイヤーしか標的にしていない、というものでした。
一応、彼女の中で決められたルールはあったようです。
ですが、その行動が問題にならないというわけではありません。
「よくないんじゃないかな、そういうの……。相手が気に入らないから嫌がらせをした、っていうのとそんなに変わらないと思うし……」
「……今考えてみると短慮だったと思ってますよ。いくらうまくいかなくて苛立ってたとはいえ、みんなに迷惑を掛けちまうかもしれねぇ禍根を残したことは……」
どんな人であろうとその命を奪っていい理由にはならない、と私は思います。
それにもし、『トリックスター』を使われて自分たちを死に追いやっていたということがその人たちにバレでもしたら、恨みを抱かれる可能性だってあるわけで……。
(あのお客さんの話では、ライザのスキルのことはばれていなくても逆恨みみたいな感じでライザを憎んでいる人たちが実際にいるみたいですし……)
私は、ライザが復讐されてしまうこともあるのではないか? と心配していました。
ですがライザは、自分が狙われるかもしれないということについてはまったくと言っていいほど警戒している様子はありませんでした。
……自分がやったことが間違っていたとはあまり思っていないようです。
それからライザは、
「四十四組に『トリック・モンスター』戦法を使用してますが、その全部が全部一からのやり直しになってるわけじゃありません。標的にした奴の仲間が助けることが多いんで、むしろ一からのやり直しになってる方が少ねぇです。十組もいなかったんじゃねぇですかね……?」
「『トリック・モンスター』?」
「『トリックスター』でモンスターをバケモノにすることです。わーはそう呼んでます。あっ、あと、わーはバレねぇようにやってましたから、死ぬことになったのがわーの仕業だったとは気づかれてねぇんじゃねぇかと」
「……」
自分に恨みを持っている人はそれほど多くはないはずだ、という見解を述べていました。
……その考えでいいのでしょうか?
ちょっと楽観的な気がするのですが……。
マーチちゃんを見ると、彼女は呆れたジトっとした目でライザのことを見ていました。
全てを見通すことができるライザのことなので、ちゃんと状況は把握しているのだと思います。
ですから、これ以上追求することはしませんでした。
お店に多くのお客さんが来るようになったので話す時間が取れなくなった、ということもありますが……。
現実で午後になって。
またお客さんの入りが途絶えた時。
それは突然やってきました。
キィ……ッ、と扉が開き、挨拶をしようとして、
「いらっしゃ……っ!?」
また途中で止められました。
今度はライザではなく、私の言葉が。
私がそうなってしまった理由、それは――
「よう、セツちゃん! お店出せたんだなぁ! まさか、そんなに金を溜められるなんて思ってなかったぜぇ!? いい金づるでも捕まえたかぁ!? アーハッハッハッハーッ!」
キツネのように糸目で面長の顔をした髪が長くひょろっとしていて長身の人物。
その人が私たちのお店に、私の目の前にやってきました。
……忘れもしません。
何故ならこの男は――
「……トイドル……ッ!」
第一層「スクオスの森」、そのボス部屋で私を生贄にしたあのヒトデナシのパーティの一人だったのですから……!
忌々しげに睨みつけているとそいつは言ってきました。
「おいおい、このゲームのことをいろいろ教えてやった恩人に向ける顔か、それが? 『さん』も取れてるしよぉ。この世界は厳しいんだ。その厳しさも俺は教えてやったっつうのに。早めに知れてよかったじゃねぇか。感謝してほしいくらいだねぇ」
「……っ」
……何を言っているのでしょうか、こいつは。
あれを感謝しろ、と?
……ふざけています。
私は怒りから言葉を発せなくなっていました。
ただただこの男を睨むことしかできなくなっていた私にマーチちゃんが聞いてきました。
「お、お姉さん、こいつ、もしかして……」
彼女の表情は驚きと怒りに染められていて。
何も言わなくてもわかってくれたのだと直感します。
私とこの男にどういった繋がりがあるのか、ということを。
よくわかっていなかったライザがマーチちゃんに確認しました。
(あいつにはPKをした記録がなく、『アナライズ』では過去に使用されたバグについてはわからないみたいです)
「ま、マーチ? この状況はいったい……!?」
「……ライザ。お姉さんが『犠牲通過バグ』の犠牲にされていたことは話したと思うの」
「そういえば聞いた気が……って、まさか……!?」
マーチちゃんに答えてもらってライザも状況を理解したようです。
私たち三人に睨まれたそいつはけろっとした様子で……。
あまり効いていないどころか、にやりといやらしい笑みを浮かべて私たちに突きつけてきました。
「おお、怖っ。……まあ、今回はセツに用事はねぇんでね。そっちの、ライザとか言ったか? あんたに忠告しに来たんだよ。あんた、
――相当な恨みを買ってるな?」
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