第212話(第六章第6話) 素材の出どころ

「あっ! セツさん! ちょうどいいところに!」


 ポカーンとお店の前にできている列を眺めていたら、お店の中にいたパインくんが外にいる私を見つけてお店から慌てて出てきました。


「ど、どうしたの、パインくん? それに、この状況は……?」


 パインくんに尋ねると彼は答えてくれました。


「えっと、前にこのお店に来たっていう方がワールドチャットで宣伝してくれたみたいなんです……。その方はとても影響力がある方だったみたいで……。そ、それよりも大変なんです! 麻痺無効薬の在庫がなくなっちゃって……!」

「ええ!?」


 この状況は有名な方(私は存じ上げません)が私たちのお店を紹介したことでできたものなのだそうです。

 ……それも大事なのですが、もっと重要なことをパインくんから伝えられていました。



――商品の在庫切れ



 それこそパインくんが慌てていた理由でした……!

 私はパインくんに手を引かれて、お店の奥に入り、大急ぎで麻痺無効薬の製造に取りかかりました。



 ……大分つくりました。

 閉店時間までそれほどなく、二十分(ゲーム時間)ほどでしたが、それでも。

 お店が閉まるまでに商品を買えなくて残念そうに帰っていく方たちも十人から二十人ほどいて……。


 今日だけで売れた麻痺無効薬は150個ほど。

(それ以外で売れたのは、バフ阻害の素早さデバフポーションが数点のみ)

 昨日は0でしたので大違いです。

 劇的に変化したため、繁盛してくれて嬉しい、というよりも困惑の感情の方が勝っていました。

 私たちのお店を紹介してくれた方、相当注目されているみたいです。

 何者なのでしょう……?


 兎に角、疲れたので今日はもうログアウトしようやめようと思ったのですが、重大なことに気づきました。

 ……あれ?

 そういえば、麻痺無効薬のストックが全然ないような……?

 それに、めちゃくちゃ素材使っちゃってたから、倉庫に素材が残ってないかも……!

 薬をつくる時は、お店に並べる商品を頑張って揃えないと! とそのことで頭がいっぱいだったので素材のストックまで気にしていませんでした。

 私はまっしぐらに倉庫に向かいました。


 保管しているアイテムを確認してみると、


「あ、あれ? すごいストックがある……。麻痺草もヒックリカエ草も……。な、なんで……!?」


 そこには大量の麻痺草とヒックリカエ草が……!

 つくった薬の数からして、相当な量の素材を消費していたはずで、下手をしたらなくなっていても不思議ではなかったのですが……。

 ……むしろ増えてる?


 謎の現象に理解ができなくて頭を悩ませていると、玄関の方で音がしました。

 誰かがやってきたようです。

 もうお店は閉まっていますので、仲間の誰か、ということになります。

 倉庫から出て確認してみると、やってきていたはコエちゃんでした。


 私の姿を確認したコエちゃんが言ってきます。


「セツさん、遅いので迎えに来ました。お母様が、晩ご飯ができたと伝えるように、と」

「あっ! そういえばそうだった……! 様子を見に来ただけのつもりだったけど、想像以上にお客さんがいて商品がなくなっちゃってたから補充をお願いされて……。す、すぐ戻るよ!」


 私は、今日も多分お客さんはいないから確認したらすぐにゲームをやめよう、と思っていたことをコエちゃんに思い出させてもらって、慌ててログアウトをしようとします。

 ですがその前に、コエちゃんがすたすたと私の横を通り過ぎていくのを目にしてログアウトをするのを中断しました。


「コエちゃん? 現実に戻らないの?」


 コエちゃんの動きを目で追いながら尋ねます。

 彼女は倉庫への扉を開きながら答えました。


「折角ここまで来ましたので、持ってきたアイテムを置いていこうか、と」


 そう言って倉庫の中に消えていったコエちゃんを私は追い駆けました。


 倉庫にアイテムを預けているコエちゃん。

 彼女が預けていたものは、



――麻痺草やヒックリカエ草(どれもレジェンドレベル1以上)



「えっ!? コエちゃん、こ、これって!?」


 なんで彼女が究極の素材を持っているのかがわからなくて思わず質問をしてしまっていました。

 マーチちゃんが増やしていて預けてくるようにお願いされていたのでしょうか?

 私はそのように考察していたのですが、答えは違っていました。


「私の職業は『農家』です。ジョブスキルの『栽培』は、畑をつくることで植物系のアイテムを生産できる能力になります。メインハウスの敷地内の一角に畑をつくらせていただいて、そちらでこれらのアイテムを生産していました」

「そ、そうなんだ……。で、でも、どうやってこんなに?」

「『栽培』は、魔力を注げば注ぐほど品質は良くなり、収穫できるようになるまでの時間も短縮できます。カラメルがセツさんからMP回復ポーションをもらっていましたから、それを使わせていただいて量産しました」

「りゅっりゅりゅ~!」

「あっ、カラメル。勝手に出てきてはダメです」

「りゅー!」


 素材のストックはコエちゃんがジョブスキルで増やしていた、とのこと。

 ……驚きました。

 コエちゃん、マーチちゃんと似たようなことができたんですね……。

(植物系のアイテムだけしか増やせない、という制限はあるようですが)


 コエちゃんの口からカラメルの名前が出ると、3Dプリンタでつくられるようにして、カラメルがコエちゃんの頭の上に出現しました。

 勝手に出てきたようで怒られてしまったカラメルは、彼女の上から私の胸に向かって飛んで避難してきます。


「久しぶりだね……って、わっ!? 危ないよ、カラメル!」

「りゅ~」


 私が受け止められなかったらどうするの!? と注意しますが、楽しそうに私の身体にその身体をすりすりしてくるカラメル。

 よほど私に会いたかったのでしょうか?

 ……カワイイ子ですね。


 私が抱えたカラメルの頭を撫でていると、コエちゃんが話してくれました。


「……実はカラメルも一肌脱いでくれています。虹色プディンの粘質水と虹色魔石をつくってくれていましたから。それらは別の色の粘質水と魔石に変えて使うことができるそうです」

「そ、そうなんだ! ありがとう、カラメルー!」

「りゅりゅー!」


 私が薬をつくるには粘質水と魔石、この二つも必要です。

 それをカラメルが用意してくれていたことを知らされました。

(MPを消費することでつくれるそうです)

 私のためにやってくれていたのだと感じられて、カラメルをぎゅーっとします。

 カラメルが嬉しそうにしているのが伝わってきます。

 ただ、


「セツさん、早くしないとお母様に怒られてしまいます」

「あ……っ」


 もう現実に帰らないといけない時間なわけで……。

 もう少し一緒にいたかったのですが、ものすごく悲しそうな声を上げていたカラメルとはなんとか別れて現実に戻りました。

(後ろ髪を引かれる思いをしながらも)



………………



 翌日の九日にもお客さんがやってきていて、「花鳥風月」のみんなでお店の当番をしていました。

 私は麻痺無効薬をつくるためにずっと奥に張り詰めていました。

 その日は、前日同様にお客さんが多かったということ以外に変わったことはなかったのですが……。


 この翌日の十日。

 ちょっとした事件が発生しました。

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