第210話(第六章第4話) 多忙な(?)サブハウス

 これから忙しくなる、そう思っていたのですが……。


「……」

「……」


 第二のギルドハウスを建ててから四日が経ち、現在、八月六日(日曜日)。

 お店の状況はというと、



――しーん……。



 完全に閑古鳥が鳴いちゃっています。

 私たちも泣きたい気持ちでした。


 二日にサブハウスを建てて、残りの時間で商品を揃えました。

 三日はマーチちゃんとコエちゃんがお店の番を担当。

 四日はサクラさんとパインくん。

 五日はススキさんとキリさん。

 そして今日は私とライザが任されていました。

(クロ姉は現実でのアルバイトが忙しいようで最近ゲームの世界こっちに来れていません)

 お店の当番になっていない他のみんなは、レベルアップをしたり、商品開発に励んだり、お店の宣伝をしたりしています。

 ちなみに私は、三日、四日、五日とサブハウスに様子を見に訪れていますが、その時に見たのも今とまったく同じ光景で……。

 マーチちゃんたちも浮かない顔をしていました。

 おかげで夏休みの宿題が進むのなんの、です……。


「……来ないね、お客さん……」

「宣伝はしてるんですが……。やはり隠れ家的につくっちまったのが原因でしょうか?」


 私たちが建てた第二のギルドハウスがある場所は、オアシスであるため涼しく、砂嵐に見舞われないという滞在するという点においては恵まれている場所です。

 ただ、街からはちょっと距離がありますし、植物の陰に隠れてしまって建物が見つけにくく、さらにダンジョンに向かうだけなら絶対に通らない場所に建っているという、お店としては致命的な問題を抱えていました。

 その結果がこの閑静さ……。


 ライザがゲーム内のチャットにお店がオープンしたことを書いてくれましたが……。

 私やマーチちゃん、サクラさんたちが街で声を上げてお客さんを呼び込もうとしたのですが……。

 成果は得られませんでした。

 麻痺無効薬(制限時間:4分)や相手の素早さの上昇を阻害する素早さデバフポーション(制限時間:4分)といった第二層のエリアボス戦で有効なアイテムを大量に用意していたのに……。


「「……はぁ」」


 私とライザの溜息が重なりました。



 ……宿題、捗りました。

 あともう少しで終わらせることができてしまいそうです。

 宿題が終わってしまったら、どうやってお客様を待っていればいいのでしょう……。

 予習復習かなぁ……。

 ……時間を持て余してしまいそうです。


 結局、私たちがここにいる間にお客さんはやってきませんでした。

 時刻が④の0時になろうとしています。

(お店の営業時間は②の八時から③の0時までと、③の八時から④の0時まで)

 マーチちゃんも0、パインくんも0、ススキさんも0と言っていたので、今日も合わせると四日連続でお客さんは0人ということに……。

 これは本当にどうにかしなければいけない……! と焦燥感を抱き始めていたところ。



――カチャ、キィ……ッ



 という音が私の耳に届きました。

 音の発生源は玄関の方。

 見てみると、扉が少し開いていて女の子が一人、こちらを覗き込むようにしていました。


「あのー……、ここ、『ラッキーファインド』のお店で合ってるっすか?」


 こ、これは……!

 お客さんでしょうか!?


「そ、そうです! どうされました!?」


 私は、初めてお客さんが来た! と舞い上がりました。


 やってきたのは頭の上の方に三角でふさふさの大きな耳を持つ猫っぽい見た目の女の子でした。

 これは確か、獣人族の特徴なのだとマーチちゃんから聞いた憶えがあります。

(装備は寒熱対策のローブと防塵ゴーグルで、砂嵐のない場所に来たからかローブのフードは降ろされており、ゴーグルは額の位置まで上げられていました)

 その子からの質問に私が肯定すると、それまで恐る恐るといった様子だったその子の表情がぱあっと明るくなります。

 勢いよくお店の中に入ってきて、私に迫ってきました。

 私の手を取りそうな動きをしていたのですが不自然にぴたりと止まり、その手は胸の前へ。

 ……何かをごまかそうとした?


「よ、よかったっす! 実は『ラッキーファインド』のギルドハウスって第五層にあるんじゃないか? って噂されてたっすっから、僕は行けないものだ、と思って諦めてたんすけど……! 偶々ワールドチャット機能を見てたら、『ラッキーファインド』の支店が第二層北西側にオープンした、っていうのを見つけて! それで北西側を探し回ってようやく建物を見つけたんすよ!」


 僅かな引っ掛かりを覚えていた私でしたが、その子が飛び跳ねるほどにその身体で喜びを表現しているのを見て、お客様対応が先! と気持ちを切り替えます。


「そ、そうだったんですか。街から結構距離ありますもんね……。あっ、そうでした!



――いらっしゃいませ、『ラッキーファインド』へ! 本日は何をお求めですか?」



 やっと言えました、いらっしゃいませ、って!

 感慨深いものがあります……!


 初めての接客をしていると、その子が、うーん、と唸り始めます。


「そ、そうだったっす! 『ラッキーファインド』のお店に来れたことで目的を忘れるところだったっす! ……こほん。えっと、その、他の層の攻略に必要なものでもいいんすかね?」


 おずおずと確認してくるその子。

 私は答えました。


「大丈夫ですよ? こちらで用意することができるものであれば」

「じゃ、じゃあ……」

「セツ。幻惑に対処できる薬、だと思います」


 私がお客様にご所望の品を伺おうとすると、その子が答える前に、少し離れたところにいたライザが先んじました。

 恐らく何かを「視た」のでしょう。

 その子が大変驚きます。


「ええ!? ど、どうしてわかったんすか!?」

「……ここの層で必要なものじゃねぇ、って言ってたんで。悪心は対策必須の状態異常じゃありません。だとすれば、第四層エリアボスの幻惑対策かな、と」

「す、すごい推理力っす……!」


 ほしいものがわかった理由の説明を求められて、ライザはそれらしい理由を述べていましたが、ライザって相手を「視れ」ばその方がどのエリアまで行けるのかわかるんじゃないですかね?

 聞いたわけではないので、たぶん、なのですがそんな気がします。

 このゲームでは、スキルは重要な情報なので秘匿にした方がいいですから、ごまかすようなことを言ったのだと思います。


 私はこのお客さんが求める商品を取り出して確認しました。


「それならこちらの商品はいかがですか? お値段は一つ491,520Gしますが……」

「まっ!? 高!? ええっ!? なんでそんなに……っ!? 幻惑無効薬!? 使うと四分間幻惑状態にならなくなる!? これ、くださいっす! 二つ……いや、四つ!」


 初めは値段の高さに戸惑っていましたが、私がつくった幻惑無効薬の性能を読んで、有用だと、思ったのでしょう。

 その子は私がつくった商品を、買う! と言ってくれたのです!

 嬉しさが込み上げてくるのが実感できました!


「お買い上げ、ありがとうございますっ!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る