第209話(第六章第3話) NPCの消失

「大変お騒がせしました」


 翌日。

 マーチちゃんもログインできる時間になってやってきたため、私、マーチちゃん、ライザ、サクラさん、ススキさん、キリさん、パインくんに向かって、コエちゃんがここから消えていた理由を伝えて謝罪をしました。

 マーチちゃん以外には昨日、知っていることを私から説明していて、その内容を聞くのは二回目になるのですが、しっかりと聞いていました。

 ちなみにクロ姉は現実でのアルバイトのため、この場にはいません。

 クロ姉と会った時に私から説明をしようと思います。


「……はぁ、現実にある機械を操って自分の身体をつくった、と……」


 コエちゃんからわけを話してもらったマーチちゃんは放心状態になってしまっています。

 一方でこの話を昨日、私から聞いていたライザは、


「……んなモン気づけるわけねぇでしょうが。……スキルは伏せられてたし。NPCが現実に行ってた、なんて……っ。まあ、今はそうでもねぇみてぇですが……」


 『アナライズ』でわかるのはゲームの中の情報だけだ、と昨日とまったく同じ嘆き方をしながらコエちゃんの頭上を見ています。

 私もつられてそこに視線が向かいました。

 コエちゃんのそこには、

 今までは、



――NPCというテロップが表示されていたのに。



 それは恐らく、現実で身体を持ったことが原因でしょう。

 ということは、コエちゃんも一プレイヤーとして見られている、ということ?


 私が首を傾げていると、ライザが私に言ってきました。


「それでセツは今度はちゃんと見てくださいよ? 衝撃が強すぎて気づけなくなってた、っつーのも理解はできますが……」

「ご、ごめんって……」


 ……これは念押しですね。

 このことも、昨日私がライザたちに説明した時に彼女に言われていました。



――現実で何度もメッセージを送ったんだから気づけ、と。



 ライザの言う通り、現実でコエちゃんが私の元にやってきたことで、私の情報処理能力はキャパを超え、現実の私のスマホにライザからメッセージが送られてきていたことに私は気づくことができませんでした。

 ライザは何回も私と連絡を取ろうとしてくれていたのですが、指摘されるまでまったくわからなかった私。

 スマホを確認してみると、未読のメッセージが二十以上も……。

 これは口が酸っぱくなってしまってもおかしくないかもしれません……。

 私がライザからのメッセージの存在に早く気づいていれば、ライザたちに余計な心配を掛けることもなかったはずですから。


 私が反省していると、マーチちゃんがぽつりと零しました。



「……はぁ、羨ましいの」



 と。


 彼女は放心状態から回復していて私たちの方を見ていました。

 彼女の発した言葉は近くにいた私の耳に届いていて。


「羨ましい、って何が……」


 私が尋ねると、マーチちゃんは短く返してきました。



――「連絡先」



「あ……っ」


 私がライザの連絡先を知っているのは、あの二人・ペオールとフェニーから私たちのギルドハウスを奪い返すのに必要だったからです。

 ライザは、心で会話をすることができる『精神感応』というスキルに変えていましたが、それでの会話に集中しすぎて口数が不自然に減ったり、動きが不自然に止まってしまったりして、あの二人に私たちが何か企てていることを感づかれるのを警戒していました。

 あの二人はスキルで私たちの行動を監視していましたから。

 ですからそれを回避するために、ライザは現実で会って話す、という手段を取ったのです。

 ライザのことはよくわかるようになっていましたから、現実で会うことに問題は感じませんでした。


 マーチちゃんたちが事前に知らされたのは、ライザが『精神感応』のスキルを取ったことと、作戦決行日のその時間帯にはログインしないようにしてほしいということだけで、どうやってあの二人に対処したのか、は全てが終わったあとにライザに教えられたそうです。

 その時も、私たちが現実で会って連絡先を交換していたことを羨ましがっていたマーチちゃん……。

 彼女は私たちと現実で会ってみたかったみたいです。


 ……ですが、彼女は――。


 彼女は今、現実で会える状態ではありません。

 問題を抱えていていますから……。

 彼女の置かれている状況を考えると、私は胸が絞めつけられる思いがしました。


 本当にどうにかならないのでしょうか……。

 何か、私にできることは……。

 考えていると、ふと思いついたことがありました。

 私はある人に尋ねようとします。


「ねえ――」

「あっ! コエちゃんの失踪事件が解決したみたいだから……って、お姉さん、ごめんなさいなの!」

「ううん、いいよマーチちゃん。どうしたの?」


 しかし、マーチちゃんと発言するタイミングが被ってしまって、聞けませんでした。

 私はマーチちゃんに譲ります。

 私が聞きたかったことは、またあとでその人に直接聞きに行くことにしました。


「えっと、ちょっと前から考えていたことに取りかかりたいな、って……」


 コエちゃんの起こしたちょっとした(?)事件は無事に解決し、私たちはマーチちゃんのやりたかったことに協力することを申し出て、それを推し進めることになりました。



 というわけで、私たちは第二層・砂漠エリアの北西を訪れました。

 ライザの案内で奥の方まで進んでいくと、そこには植物が生えている場所が……!

 その植物を掻き分けて中に入っていくと、砂漠なのに水が溜まっている場所に出たのです。

 ここはこの砂漠のオアシスとのこと。


 私たちがこの場所にやってきた理由、それは、



――第二のギルドハウスを建てるためです!



 ギルドハウスはお店としての機能も備わっています。

 私、マーチちゃん、ライザ、クロ姉は生産職ですので、折角なら自分たちでつくったアイテムを売りたいところです。

 しかし、そのお店が第五層にあるとなっては、到達している方がそれほど多くはないためお店にくるお客さんが限られてしまいます。

 だからできるだけ低層にサブのギルドハウスを建てておきたい、というのがマーチちゃんの考えでした。

(ちなみに最初に建てたギルドハウスをメインハウスといい、二番目以降に建てたギルドハウスをサブハウスというらしく、サブハウスは4億Gで建てることができてその性能はメインハウスのものに準ずるそうです)

 第一層は混雑していますし、敵が厄介な攻撃をしてくるのは第二層から。

 それらを考慮すると第二層の一番いい場所に建てるのがベストだ、と私たちの意見が纏まります。


 こうして私たちは第二層に第二のギルドハウスを建てることになりました。

 これから少し忙しくなるかもしれません。

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