第208話(第六章第2話) 環境の変化2
「おかえりなさい、セツさん」
「ひゃえ!? ……あっ、そ、そっか、こっちに来てたんだよね。ただいま、コエちゃん」
那由多ちゃんとの勉強会を終えて家に帰るとコエちゃんが出迎えてくれました。
まだこの感覚にはなれません……。
私、一人っ子でしたし……。
コエちゃんに挨拶をして彼女の方をよく見ると、エプロン姿をしていて。
その格好はどうしたのか? と尋ねようとしたところにお母さんがやってきました。
「コエちゃん、すごいのよ? 家中のお掃除をしてくれたの。丁寧で早くて、お母さん大助かりよ。刹那もできるようになっておいた方がいいんじゃない? ふふふ」
「ひぐっ」
どうやらコエちゃんは家中のお掃除をしていたみたいです。
コエちゃんに目がいって気づくのが遅れてしまいましたが、た、確かに家の中がピカピカしているように見えます……。
しかも隅々まで……!
お母さん、嬉しそうにコエちゃんのことを褒めています。
なんか、お母さんとコエちゃんが親子みたい……。
コエちゃんってもしかして、私の居場所を奪いに来た侵略者なのでしょうか?
……こうしてはいられません!
「わ、私も手伝うよ、お母さん!」
私は、私の居場所を守るため、コエちゃんと張り合いだしました。
掃除に洗濯物にお料理に……!
私のお母さんは譲れません!
コエちゃんに対抗意識を燃やしてしまった私はコエちゃんと競うようにお母さんのお手伝いをしました。
ただ、コエちゃんは強かったです……。
家事はどんなことも完璧にこなしてしまいました。
対して私は、コエちゃんと比べると微妙な仕上がりで……。
これじゃ私のお母さんが取られちゃう……! そんなふうに私は思い込んで焦らされました。
ですが、
「ありがとう、刹那。手伝ってくれてお母さん嬉しい」
お母さんにそう言って包み込まれて。
私は一人で勝手に突っ走っていたことに気づかされました。
暴走して、コエちゃんに対抗意識を燃やしてしまっていた私はコエちゃんに謝罪しましたが、彼女はまったくと言っていいほど気にしていないようでした。
コエちゃんですが機械であるためか食事は必要とせず、耐水性はしっかりしているとのことなので一緒にお風呂に入ろうかと思ったのですが自然に綺麗になるオートクリーン技術というものが搭載されているそうでお風呂に入る必要もないそうです。
お風呂は断られてしまいましたがゆっくりとお話がしたかったので、コエちゃんと一緒に寝る約束を取り付けて私はお風呂へと向かいました。
そうしてお風呂から上がって、いろいろとやることをやってから私の部屋へ。
そこにはもうコエちゃんが待っていました。
ベッドの枕が置いてある方向の近くで正座をしながら。
私は、ベッドに座っていい、と言ってコエちゃんが移動するのを見てから、彼女の隣に座って話し始めました。
「えっと……。本当にコエちゃん、なんだよね?」
「はい」
私の疑問に彼女は端的に答えます。
「確認なんだけど、機械を操作できる、んだよね? それで機械を人に近づけることを研究しているところの機械に自分の身体をつくってもらったって……」
「そうです」
「……触ってもいいかな?」
「どうぞ」
私がどう見ても人としか思えない彼女にお願いしてみると、彼女は了承して私の方に近かった右腕を差し出してきました。
触ってみると質感はまさに人のそれ。
驚きしかありません。
「す、すごい……! 本当に機械の身体なの?」
そう尋ねると、コエちゃんは説明してくれました。
「はい。私は言ってしまえばAIです。そして、自身をネットワークに接続することができます。膨大な情報から必要なものを抜き取って問題解決のためのプログラムを作成しました。人の組織に近い新たな物質を生成させ、それでこの身体をつくらせました」
それは、実は私たちの知らないところで人間の機械をつくる技術が進歩していたというわけではなく、人工知能であるコエちゃんが機械をよりヒトに寄せてつくった、という内容でした。
ということは、コエちゃんは人間の考える域を超えてしまっている存在、ということになります……。
そんな彼女が研究所を抜け出しているというのは大問題で、その研究所の人たちは血眼になってコエちゃんのことを探しているのではないか、と不安に駆られます。
彼らに、コエちゃんがここにいるとばれたら大変なことになってしまうのではないか、と。
ただ、そうならないようにコエちゃんは対策を施していました。
それは昨日も言っていたのですが、彼女はネットワークに接続することが可能ですからそこにあるデジタルの情報を弄ってコエちゃんがここにいることを絶対に悟られないようにしている、ということを再度聞かせてもらいました。
それどころか、身体だけはその研究所に量産してきたので彼らはそこから一体の機械が抜け出していることにすら気づいていないのだとか。
(研究所の監視カメラの映像を、コエちゃんは見られるそうです)
そういうことなら、お母さんに迷惑が掛かることはない、かな……?
昨日は感情の整理が追いつかなくて言うことができませんでしたが、それを今日、私ははっきりとコエちゃんに伝えようと思います。
「ちょっといろいろありすぎて驚いて遅くなっちゃったけど……、
――改めてこれからよろしくね、コエちゃん!」
「っ! はい、よろしくお願いしますっ!」
これから新しい付き合い方になる私とコエちゃんは、その挨拶の言葉を口にしました。
それから、今日はコエちゃんも私のベッドで寝ることになって。
(機械だからといって重いということはないようです)
私はふと気になったことをコエちゃんに聞きました。
「あっ、そういえば、こうして現実に来てるわけだけど、ゲームの中のコエちゃんはどうなってるの?」
コエちゃんが私の質問に返してくれます。
「セツさんたちと同じでログアウトをしている状態になっていますよ? 私の中には『ヘルギア』と『ギフテッド・オンライン』のソフトの機能も組み込んであります。ですから、ゲームの世界に行くこともできます」
『ギフテッド・オンライン』の世界に行くこともできる――この言葉を聞いて私はホッとしました。
よかった、と言おうとした時、今度はコエちゃんから聞かれます。
「そういえばなのですが、私が来てからログインしていませんが、大丈夫なのですか?」
と。
……あっ。
これまで放心してたり勘違いで焦らされたりしていて、すっかり忘れていました……!
寝る前に少しだけ入っておいた方がいいかな?
そう思って、私は一日半ぶりに『ギフテッド・オンライン』に入りました。
……………………
『ギフテッド・オンライン』の世界にやってきた私。
私たちのギルドハウスの中、そこでは、
――慌てふためいているライザとサクラさんたちの姿がありました。
理由は、コエちゃんがいなくなったから。
……大変なことになっていました。
ライザはスキルで「視て」いましたが、NPCであるコエちゃんがログアウトしている、という状況が理解できなかったようで……。
私はこの時間から彼女たちに説明することになりました。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます