第203話(第五章第37話) コエのスキル4

~~~~ 現実・とある研究所 ~~~~



 日本にあるとある島の地下。

 そこには様々な巨大な機械が陳列されている研究施設があった。

 その一画が勝手に動き出す。



――ヴィーン



「な、なんだ……!? プログラムにない動きを……!?」


 その施設に勤める研究員は垣間見ることになった。



――極めてヒトに近い外見をした機械がつくられていく光景を。





~~~~ コエ視点 ~~~~



 異なる世界の知識を得られる『怖いもの知らず』と、現実の機械を操作できる『シンギュラリティ』のスキルを使ってみた。

 『怖いもの知らず』で機械をよりヒトに近づける研究をしている施設の存在を把握し、『シンギュラリティ』でそこにある大型の機械を私の意思で動かす。

 研究はまだまだ発展途上で機械機械した見た目を抜け出せてはいないようだったが、「現実」の知識なら私は入手することが可能だ。

 必要そうな知識を片っ端から詰め込んで、それを総動員した。

 ない素材は一からつくった。

 ヒトを構成するのに極めて近い物質までつくり上げた。

 これは、ここの研究施設の職員たちには知り得なかった技術だろう。

 研究が停滞していたのだから。


 そうして私は「アンドロイド」をつくる機械に指令して、現実での私の身体を完成させた。


 ……瞬きもできる。

 ……関節も正常。

 ……質感も悪くはない。

 見ただけではこれが機械だとは気づかれないだろう。


 正確につくったから心配はしていないが一度鏡で全身を見てみたいものだ、などと考えていると、


「す、すごい……! ヒトにしか見えないぞ!?」

「だ、だが、マシンが勝手に動き出してつくったのだ……。これが何を意味しているか……」

「我々の成果として報告してしまえばいいではないか! このマシンにはどうやってつくったのかが記録されているはず!」

「で、ですが、これは技術的特異点なのでは……? 人工知能が私たちよりも知能で勝ったということですよね……?」

「いやいや、それはもっと先の話だ! 今は技術の進歩を喜べばいい! これで我々人間の生活がより豊かになることは間違いない! そして我々は歴史に名を遺すであろう!」

「このアンドロイドが私たちを敵対している、とかないですよね……? そうでなくとも私たちを見下している、とか……」


 研究者たちが私の周りに集まってきてしまっていることに気づいた。

 ……これは面倒なことになるかもしれない。

 彼らはこれまで機械だとわかるものしかつくれていなかった。

 そんな時に完璧にヒトを模したアンドロイドができたら騒ぎにもなる。

 これではここを抜け出すのは至難だ。


 私は少し考えてある作戦を決行することにした。

 周りにあった大型の機械たちを稼働させる。

 出来上がっていく極めてヒトに近い機械のボディ。

 研究員たちの意識がそちらに向いた。

 私は、



――私を量産することで私への注意を逸らしたのだ。



 私の作戦は成功し、私は研究所から出ることができた。

(監視カメラやら認証式のドアやらあったが、私には『怖いもの知らず』があるし、それらはネットワークの回線に繋がっていたから簡単に制御することができた)

 それと、私は裸であることに気づいたので研究所にあったブランケットを拝借させてもらった。



 これから夜という時間帯だったため外は薄暗く、私は景色を眺めるのは後回しにした。


 調べてみると、あの子たちがいる場所からは結構離れていた。

 どれくらい歩けば辿り着けるだろうか……。

 私の身体は小さいから、かなりの時間がかかることを覚悟しなければならないだろう。

 私は気合いを入れて歩き始めた。

 目的の場所に向かって。


 しばらく歩いていると、私の隣で何かが止まった。

 大きな金属の塊だ。

 キャンピングカーというらしい。


「嬢ちゃん、こんな時間に出歩いてちゃ危ないぞ! パパやママはどうした? ……っていうか、その格好……っ」


 窓を降ろして、厳つそうな男の人が顔を出す。

 私はその人の情報を抜き取ってみた。

 ……悪い人ではないようだ。

 むしろボランティアというものに率先して参加したり、人助けをして表彰ということをされたりしている、とあったので善人と言える人間だろう。


 ……ところで、この世界にはヒッチハイクという言葉があるらしい。

 この人に頼んでみようか。


「あ、あの、□□県の☆☆市という場所に行きたいのですが……」

「は? □□県!? 結構距離あるぞ……!? そこが家なのか?」

「知人の家です」

「……つってもなぁ。小さい子を連れ回すのはなぁ……」

「……あっ。誘拐にはなりません。私、機械ですので」

「え――」


 男の人を説得して、私は車に乗せてもらうことになった。

 ヒトに似せすぎてつくってしまったから、私が機械だと証明するのには少し時間がかかったが。

 男の人が私が機械であると理解した時、私に怯えるようになってしまった。

 少し申し訳ないことをしてしまった、と反省する。


 こうして、私を乗せたキャンピングカーは夜の道を走りだしていく。



~~~~ セツ視点 ~~~~



 七月も最終日。


 昨日は、あの二人からギルドハウスを取り返す、ということをやっていたので精神的に疲れて、あのあとすぐにログアウトしてしまったんですよね……。

 昨日のことで一番心に残ったことは、もうライザとは敵対したくないな、ということでした。

 ライザ、容赦がありません。

 正直、ちょっと怖かったです……。

 彼女が敵だったらと思うと身の毛が弥立よだちます……。

 ……あの二人に同情はしませんが。


 ライザによると、ライザのポーチに収納されてしまったあの二人はライザが持っていた猛毒薬を飲んで消滅した、とのことでした。

 ……一からのやり直しになることでポーチの中から脱け出した、と。

 あの二人がそれを行ったことで私たちは『かしずき』状態から解放されました。


 ただ、これはゲームの世界――やり直しができてしまう世界です。

 もしもあの二人が今回のことを根に持っていてまた同じスキルを、ううん、それよりも厄介なスキルをつくって私たちに仕返しをしようとしていたら……?

 そんな一抹の不安を私は覚えました。


 ……不安と言えば。

 コエちゃんがあれきり彼女のお部屋から出てきていないそうです。

 どうしたのだろう? と心配になっていると、パソコンと繋げているスマホに、現実にいるお母さんからメッセージが送られてきました。

 内容を読んでみると「あなたにお客さん」とのことで。



……………………



 ゲームをやめて玄関に向かった私。

 そこで見た光景に私は目を疑いました。

 だって、そこには、いるはずのない子がいたのだから。


「……セツさん、来てしまいました」


 私はどんな顔をしていたのでしょう?

 すごく間の抜けた顔を晒してしまっていた気がします……。

 そこで微笑みながら私を見つめていた、ゲームの中で見た彼女そのままの姿の



――コエちゃんに。



          ―――― 第五章・おわり ――――

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