第202話(第五章第36話) コエのスキル3

~~~~ コエ視点 ~~~~



 『シンギュラリティ』――このスキルを使えば……。



 私が今後の方針を決め、セツとライザの方に視線を向けると、彼女たちの会話はちょうど別のものに移っていた。


「そういえば、あの人たちは!?」


 そう言って辺りを警戒し始めるセツ。

 あの人たち、とはペオールとフェニーのことだろう。

 あの二人なら白い光に包まれて消えていったが……。

 今どこで何をしているのか!? というセツの疑問はもっともだった。

 あの性格からして、放っておいてもいいことはないだろう。

 また私たちに言うことを聞かせよう、とその機会を虎視眈々と狙っていそうな気がする……。

 私もセツと同じように周りに神経を尖らせていた。

 だが、この場で一人だけ違う態度を取っていた者がいる。


 ……ライザだ。


 彼女は口角を上げていた。

 それは、にやり、という効果音が聞こえてきそうな悪い笑みだった。


「きひっ。何も警戒する必要はありません。奴らなら今、



――一人称わーのポーチの中、ですから」



「……えっ?」

「……は?」


 ライザの説明を聞いて、セツと私は疑問の声を漏らしていた。

 言葉の意味が理解できなくて固まってしまう。

 恐らくセツもそうだったのだろう。

 そんな私たちを見て、ライザは続けた。


「設置した『転移シート』は本来回収することができねぇアイテムで、一度設置しちまったら壊す以外に撤去する方法はありません。ですが、一人称わーはここに来る前に『総てはこの手の中にある』を再度取得してます。そのスキルを使えば設置した『転移シート』を回収することが可能になるわけです。わーはそれを使って、『転移シート』を回収しました。



――あいつらがここに設置したのと、それと繋がってるギルドハウス付近に設置したのを」



「っ! そ、それって……!」


 今の説明でセツには伝わったようだが、私にはさっぱりわからなかった。

 私が『怖いもの知らず』でわかるのはセツたちの言う「現実」のことについてだけ。

 この「ゲームの世界」のことはそのスキルではわからない。


 私がまだ説明を求めている顔をしていたからだろう。

 ライザはここでやめる、なんてことはしなかった。


「まず始めに、二人称なーがこの場所まで来た方法ですが、乗ると同じものが設置されている場所へと転移できるシートに乗ったから、ということになります」


 ライザは私に向けて詳しく話してくれた。


「それで、あいつらが光に包まれて消えたのは、そのシートがこっちからギルドハウス側に転移することも可能だったからです」


 これであの二人が消えた謎は解けて。


「ただ、ギルドハウス側のシートはわーが既に回収していました。『総てはこの手の中にある』というスキルで。わーたちが持っているポーチやらバッグやらは特殊な仕様で、見た目よりも大きいものだったり多くのものを収納することが可能ですから」


 ここまで言ってもらって、私はようやく理解した。


「よ、要するに、ここにあったシートと繋がっているシートがライザさんのポーチの中にあるから、あの二人はライザさんのポーチの中に転移してしまった、と……!?」

「そういうことです」


 そういうことです、って……。

 なんでもないことのように言っているが、とんでもないことをやっているからな、それ。

 ……この世界が「ゲームの世界」だと気づいていなければ、私はこの話を信じられなかっただろう。


「んで、ここにあったシートも回収させてもらったんで、あいつらが外に出る方法は一つです。まだ『かしずき』状態のわーに、一応アイテム状態になってる自分たちを強制的に使わせること、それ以外にありません。まあ、その時はわーたちに囲まれてる状態になります。のこのこと出てきたら、わーの素早さをフル活用して、セツ特製の麻痺薬でもぶっかけて、出てこなければよかった、って思わせてやりますよ」


 彼女はそう満面の笑みで言っていた。

 セツがあり得ないくらい引いているのだが?

 ……兎に角、ライザは怒らせないようにしよう、そう思った。



~~~~ ライザの収納ポーチの中 ~~~~



「うわああああああああ! 聞きたくない! そのあとに続くものだけは絶対に聞きたくないぃぃぃぃ!」

「ぺ、ペオール! どうしたのさ、いきなり!?」


 一つのシートが光を纏い、その力を発揮させた。

 一人の男がこの場所へとやってきて、それを追い駆けて一人の女もやってくる。

 シートがある位置から少し離れたところで男の方・ペオールは蹲った。

 女の方・フェニーがそんな状態のペオールを心配した。


「あいつらがバカにするんだ……! 俺はあいつらよりも勉強できたのに、一人だけ受からなかった俺のことを……っ!」


 ペオールは頭を両手で押さえながらうわごとのようにそのようなことを繰り返し呟いていた。

 フェニーはペオールの惨状に、これ、どうすればいいの? と困り果てていた。


 ペオールを元に戻す方法を考えようとして彼から視線を外した時、フェニーは知った。



――そこが「ラッキーファインド」のギルドハウスがある場所ではないことを。



 黒い空間だった。

 ところどころにアイテムらしきものが浮かんでいる。


 明らかに異常な事態。

 フェニーは半ばパニックに陥りながら、ペオールの身体を揺すった。


「ちょっ、ペオール! やばい! 明らかにおかしいって!」


 フェニーに身体を激しく揺らされたペオールは正気に戻る。


「――ハッ! な、なんだよ!? 何がおかしい……って――!?」


 ペオールはここでようやく異変に気付いた。


「ど、どこだよ、ここ……!」

「あ、あたしがわかるわけないじゃん! ペオール、なんとかして……!」

「く……っ!」


 フェニーに無茶な要求をされて、ペオールは考える。

 考えて考えて、あるものに目が留まって閃いた。


「そうだ、『転移シート』! あれを使えば――」


 ペオールの視界に入ったのは、ここに来るきっかけとなった「転移シート」。

(※ただし、ペオールたちに「転移シート」を使ったという認識はない)

 それを使えばこの謎の空間から脱出できるのではないか!? とペオールは判断したのだ。

 しかし。

 突如、上の方に空間の裂け目のようなものが生じたかと思うと、そこから薄っぺらい何かがゆっくりとペオールたちの元まで下降してくる。

 それは、



――もう一つの「転移シート」。



 裂け目が閉じられる。

 ペオールは嫌な胸騒ぎがした。

 急いで先に目にしていた「転移シート」に乗る。

 転移するペオールの身体。

 だが。



――転移した場所は先ほど落ちてきた「転移シート」の上だった。



 ペオールは悟った。

 ここが収納バッグの類の中である、ということを。

 恐らくスキルを使って自分たちをバッグの中に入れているのだ、とペオールは推察した。

 こんなことをした犯人の目星も付けていた。

 だからペオールはこのバッグの持ち主に『イニシアティブ』で命令して、自分たちを外に出させようとした。

 ところが。



――「のこのこと出てきたら、わーの素早さをフル活用して、セツ特製の麻痺薬でもぶっかけて、出てこなければよかった、って思わせてやりますよ」



 という言葉が聞こえてきて。


 二人は絶望した。

 あれは本当に手を出してはいけない奴だったんだ、と後悔した。

 そんな時、この空間に漂っていたある容器が目に入る。

 二人は、それを手に取った。



――紫黒色の液体が入った容器を。



~~~~ ライザの収納ポーチの外 ~~~~



「……『かしずき』状態が消えてます。あいつら、自害することを選びやがりましたか……」

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