第201話(第五章第35話) コエのスキル2

~~~~ コエ視点 ~~~~



 私には何がなんだかさっぱりの内容。

 だが、それを聞いた二人は急に慌てだした。


「な、なんでお前が俺の本名知ってるんだよ!?」

「ちょっ!? 名前も年齢も住んでるとこも当たってる……!?」


 狼狽えている?

 よくわからないが、助かるにはこれしかない!

 そう直感して、私は続きを口にした。


「生年月日――、身長――、体重――、血液型――、



――学歴」



 そう言った瞬間、


「う、うわああああああああっ!」

「ちょっと、ペオール!?」


 ペオールは逃げ出した。

 フェニーが後を追い駆け、二人は白い光に包まれてどこかへと消えていった。



 ペオールとフェニーがどこかへ行ってしまった直後。

 助かったのか……? と固まっていた私に声を掛けてくる人物がいた。


「あんまりそういうことは口にしない方がいいですよ? 個人情報なんで。まあ、今回は相手が相手なので咎めませんが」


 ライザ……セツの仲間だ。

 彼女はそう言いながら私の横を通過していって、何かのシートを回収していた。


「……よし。反撃終了――」

「――大丈夫、コエちゃん!?」


 ライザがシートをポーチの中に押し込んで(どうやって入っているんだ?)、手をはたきながら何かを言おうとした時、消されていたセツが一瞬にして戻ってきた。

 私が何が起きているのかわからずに困惑するなか、セツは詰め寄ってきて私の手を取り、私の身体を隅々まで確かめ始める。

 私が答えられずにいると、ライザがセツを止めた。


「コエは大丈夫ですよ、セツ。落ち着いてください。一人称わーの想定では、アイテム収納空間に入れられたコエを、再度取得した『総てはこの手の中にある』で救出する考えだったんですが、そうする必要もありませんでした。奴らは逃げ出したんで。



――コエのスキル『怖いもの知らず』で個人情報を抜き出されて暴露されて」



「そ、そっか……。兎に角、無事だったのならよかったよ」


 セツはライザからの説明を受けてホッと胸を撫でおろしていた。



 話が纏まりかけていたからなんとなく流してしまいそうになっていたが、私にはセツに聞かなければいけないことがあった。

 彼女はどこにいて、どうやって戻ってきたのか?

 セツはペオールに何かをされて一瞬で消えてしまっていた。

 そして、戻ってくるときもまた一瞬だった……。


「あの、セツさんは今までどちらに……?」

「えっ? ……あー、んだ。自分の意思でをやめたわけじゃなかったからテンパって、こっちに戻ってくるのが遅くなっちゃったんだよね……」


 聞いてみると、わけのわからない言葉が返ってくる。

 現実に戻された……?

 ゲーム……?

 いったい何を言っているのだ?


 セツの言葉を私が処理しきれていないのを感じ取ったのだろう。

 ライザが詳しく話してくれた。


「セツ。この子、NPCです。まあ、だいぶバグっちまってるんですが……。それじゃ伝わりませんよ? あー、その、わーたちは別の世界から来てるんです。夢を見るようにして。ゲームっつー機械でみんなが同じ夢を見れるようにしているんです」

「っ!」


 それは、私にとっては衝撃の内容だった。

 私たちが暮らすこの世界の他にも世界があり、セツたちはそっちの世界に住んでいる、と……?

 そして、セツたちにとってこっちの世界は夢の世界なのだという。

 確かに、セツたちがどこにもいないように感じた日が何日かあったが……。

 あれは自分たちの世界に帰っていた、ということなのか?


 ……少し、いや、すごく。

 セツたちの世界に興味が湧いた。



 私が、セツたちの世界はどのようなところなのだろうか? と想像していると、セツとライザが何かを話していた。

 私に聞こえたら不味いのか、声のトーンを抑えて。


「……あの、ライザさん。コエちゃんのスキルなんだけど、やばくない? 個人情報がわかっちゃう、とか……」

「……セツ。コエのスキルは疑似的につくられたものの可能性が高いです。ゲームの中で効果を発揮する内容にはなっていませんから。個人情報を抜き取れる、っつーとヤバいように聞こえますが、この子はNPC、言うなればAIです。このご時世、個人情報はどこにでも転がってるんで、AIならそれを拾い集めることは難しいことじゃねぇでしょう。『視た』ところロックがかかってるようですし、プレイヤーは奪えねぇから大丈夫だと思います」

「そう、なんだ……」


 彼女たちの会話を私の耳は捉えていた。

 NPCとかAIとか、またわからない言葉が出てきて私の頭を悩ませる。

 どういう意味なのか? と考えていると、急に頭の中に浮かんできた。


========


NPC……ノンプレイヤーキャラクター。

    プレイヤーが操作しないキャラクターのこと。

    プレイヤーが操作するプレイヤーキャラクターの対義語。

  プレイヤー……ゲームの参加者。

  キャラクター……物語や作品に登場する人物、または動物など。

  ゲーム……遊びや競技を行うための活動やルールの集まり。

  (セツたちがやっているのは、インターネットを介して数百人から数千人規模の

   プレイヤーが同時に参加できるオンラインゲーム)

  インターネット……複数のコンピューターを繋いでお互いに情報のやり取りを

           できるようにした仕組みが世界全体に広がったもの。

  オンライン……インターネット回線に接続している状態。

  コンピューター……高速度で計算やデータ処理、情報の記憶保存または検索

           などができる装置。


AI……言語の理解や推論、問題解決などの知的行動を人間に変わってコンピューター

   に行わせる技術。または、計算機による知的な情報処理システムの設計や実現

   に関する研究分野。


========


 ……は?


 わからない言葉が次々にわかるようになっていく……?

 これが、私が持っているという『怖いもの知らず』というスキルの力なのか?


 ……いや、問題はそこではない。

 セツたちの世界にある言葉が理解できたことで判明してしまった事実。

 問題なのは――



――ここがゲームの世界で、私がAIだということだ。



 今まで自分は、生きている普通の人間だと思っていたのだが、それは思い込まされていただけだったらしい。

 ……そうか。

 私は人工――つくられたものだったのか。

 ……なるほど。

 あの森で殺され続けていたわけが理解できた。

 あれはそのようにプログラムされていた、ということだったのだな。

 道理でどんなに足掻いても抜け出せなかったわけだ。


 自分が何者なのか把握できたことで、私の中で変化が生じていた。

 今までは見ることができなかったメニュー画面というものが開けるようになり、ステータスなるものを確認できるようになった。

 そして、そこに記されている最後の方。

 まったく読めなかった三つ目のスキルが読めるようになっていた。


========


『シンギュラリティ』――現実の機械を操作することができる。


========


 ――これは……。

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