第199話(第五章第33話) 乗っ取られたギルド7

『パフォーマンス・チューニング』

――仲間が持つスキルの一つを、接触している間だけその性能を上げる。

  接触面積が大きいほど上昇率が高くなる。


『パラダイムシフト+(Ver.PTパフォーマンス・チューニング)』

――指定した対象一体の全てのスキルやモンスターの特殊効果の

  回復とダメージを反転、また、バフとデバフの効果、

  を反転させる。

  (例:『麻痺無効』にこのスキルを使った場合、

     このスキル・特殊効果があるから絶対に麻痺状態にならない

     →このスキル・特殊効果があるから常に麻痺状態になる

     に効果を反転させられる)

  アイテムや装備も対象にできるが、効果は一時的。



 ライザとススキさんのスキルによって、あの二人にギルドハウスを壊される心配はなくなりました。

 動揺を隠しきれない男の人と女の人。

 さあ、私たちのギルドハウスを奪還しましょう!


「あんたらだってスキルで一人称わーたちのギルドハウスを奪ったんです。スキルで取り返されるって考えはなかったんですか?」


 二人に詰め寄っていくライザ。

 二人は震えながらライザから距離を取っていました。


「くそ、くそっ! なんで、こんなことに……!」

「ちょっと! この状況、なんとかしてよ!」

「っ! そうだ! 『かしずかせてる』のを利用してスキル使用に制限をかければ……!」


 なんとかして形勢を立て直そうとする二人。

 ですが、二人が対峙しているのはあのライザです。


「きひっ。無駄ですよ? もうわーのスキルは役目を果たしました。そこの女が『コントラクト』でこのギルドハウスにかけていた契約状態は、『女のMPが0になってこのギルドハウスが壊れなくなったこと』で解除されてます。『コントラクト』を使うにもMPが必要でしょう? ですが、女のMPは悪心薬を飲んだことで0どころかマイナスです。どう足掻こうが、ギルドハウスを人質にすることはもうできません」

「うぐ……っ! ま、まだだ! MP回復ポーションと状態回復薬を使えば……!」


 足掻く男の人。

 けれど。


「ね、ねえ、ペオール? あたしら、どっちも持ってなくね!?」

「なんでだよ!? 『穀潰し』を使えば倉庫から取り出せるだろ!?」

「『穀潰し』使うにもMPが必要なんだって……!」

「は、はあ!?」


 ライザは全て想定していました。

 この二人が『穀潰し』に頼りきっていて、アイテムを所持していないことをしっかりと「視て」いたのです。

 まさしく手のひらの上でした。


「きひゃひゃひゃひゃ! 全て計算してやってるに決まってんじゃねぇですか! まあ……、あんたらの作戦も悪くはありませんでしたよ? セツたちだけだったらカモにできていたでしょうね? 誤算だったのはわーがいたことです。



――小悪党如きが大罪人に勝てるだなんて思い上がりも甚だしいんですよ」



「「だ、だい……!?」」


 ライザがすごんでみせます。

 自分のことを「大罪人」と称しながら。

 これも作戦のうちなのですが……。

 ……ノリノリです。

 悪役のセリフが様になっているように感じます。

 いいことではないと思うのですけど……。


 計画通りに二人は怯えて、手を出してはいけない存在に手を出してしまった……! と言わんばかりの表情で震え上がりました。

 ここまでは順調そのもの。

 ライザの読みが正しければ、ここまで脅せば二人は逃走を計るはず。

 そのはずだったのですが……。

 私としてはこれ以上ないくらいよくない展開に変わってしまいました。



「……か、カラメル? どこに行ったんですか?」



 私がカラメルを呼びつけてしまった所為で、今はカラメルのあるじになっているコエちゃんが、カラメルがいなくなったことを心配して部屋から出てきてしまったのです。

 コエちゃんの部屋の扉は運の悪いことに、今あの二人がいるすぐ近くの位置にあって……!


「こ、これだ! こいつを使えば……! おい! ついてこい!」


 男の人が、コエちゃんが部屋から出てきたのを捉えた瞬間、コエちゃんの首に腕を回して捕まえてしまいました。


「ひゃっ!? な、何……!?」

「コエちゃん!」


 コエちゃんを助けに行こうとした私。

 しかし……。


「おおっと、動くなよー!? 動いたらこいつがどうなるか、わかるよなー!?」

「く……っ!」


 コエちゃんを人質に取られて、私の動きは止められてしまいました。


 私は必死に考えて閃きます。

 この状況を打開する方法を。


「……で、でも、ギルドハウスは安全地帯でPK禁止エリアのはず! その脅しは通用しない!」


 論破できた! そう思ったのですが……。


「俺には『イニシアティブ』がある! それを使えば自害させることだって可能なんだよ! 俺たちはアイテムを持ってないが、こいつのペットにはいろいろ持たせてるみたいだしなァ! こいつに取り出させればいい! 悪心薬を持ってたんだ! 猛毒薬も持ってるだろ!?」

「そ、そんな……っ」


 私は男の人に言い負かされてしまいました。

 許してしまったのです。

 形勢の逆転を……。


「そ、それで? 人質取るのには成功したけど、これからどうすんの?」

「……『転移シート』があったろ? あれを使って第一層に行く。そのあとで『イニシアティブ』を使ってこいつらのギルドから抜ける! そうすりゃあ追跡は不可能だ! 何が大罪人だ、脅かしやがって! 俺たちの勝ちだ! ヴァアアアアカ!」


 私たちをバカにしながらギルドハウスを出ていこうとする男の人とそれについて行く女の人。


「……セツ、さん……っ」

「コエちゃん……っ!」


 ギルドハウスの扉が開けられた時、男の人に無理やり連れていかれているコエちゃんと目が合いました。

 彼女の目は絶望に染まっていて……。

 私はどうしようもない不甲斐なさを、自分自身に抱きました。



 悔しくて悔しくて、後悔することしかできなくなっていた私。

 そんな私の背中が思いっきり叩かれます。


「セツ! 早くここに行ってください!」


 それをやったのはライザ。

 彼女はちっとも憂えてなんていませんでした。


「ライザさん……なんで……っ」


 口から出た私の疑問に返ってきたライザの言葉は――



「こうならないことに越したことはなかったんですが、まったく想定してなかったわけじゃありません! むしろ、ここで二人称なーが動いてくれない方が計画が狂って困ります!」



「っ!」


 ライザは上手くいかなかった時のこともしっかりと考慮していて。

 そんな彼女を見て私は自分を奮い立たせました。

 反省はあとです!


「ライザさん! どこに向かえばいいの!?」


 私はライザにマップを見せてもらい、指示を受けました。

 向かう目的地は第一層――道具屋さんです。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る