第198話(第五章第32話) 乗っ取られたギルド6

~~~~ 『ラッキーファインド』ギルドハウスにて ~~~~



 現実では七月三十日の0時過ぎ。

 ゲーム内では①の0時五十二分。


 二人の人物がだらだらしながらにやけていた。

 二人の視線の先にあるのはスマホのような緑色の画面。


「おい、見ろよ、フェニー。昨日と一昨日でレベル三桁突破したぞー?」

「あー、ほんとだー。マジでいいカモ捕まえたじゃん、あたしらー」


 二人とは、他人に強要して自分たちのステータスを上げさせていたペオールとフェニー。

 二人は、ぎゃはは、と下品に笑い合う。


「ほんと、それなー。この調子なら俺ら、最強になっちゃうかもなー」

「いーじゃんそれー。あいつらに最強にしてもらおーよー。そんでもって、もっとあいつらを顎で使ってやろーよー」

「もう既に顎で使ってるけどなー」

「あー、ほんとだー。ぎゃははっ」


 自分たちのギルドハウスではないのに、我が物顔の二人。

 他人の迷惑も考えず大声を出していた。

 そんなギルドハウスの中で、ここしか居場所のない少女は一人(正確には一人と一匹)、彼女が使っていいと言われた部屋で怯える夜を過ごしていた。



~~~~ セツ視点 ~~~~



 三十日の朝。

 この日はライザが立てた作戦を決行する日です。

 私の部屋で深呼吸をして気持ちを落ち着けてから、私は「ギフテッド・オンライン」の世界へと向かいました。



……………………



 ②の二時三十六分。

 私たちのギルドハウスを訪れた私の視界にあの二人が入りました。

 ……エントランスなのに寝転がっていて、相変わらずのぐうたらです。

 この二人、いつ現実に戻っているのだろう? と湧いた疑問はさておき。


 私がメニュー画面を確認していると、私がログインしてきたことに男の人の方が気づいて言ってきました。


「あー、やっと来たかー。んじゃ、今日もよろしくー」

「……」


 自分のレベルアップを今日も任せようとしてくる男の人。

 ですが、私は動きませんでした。

 ライザが決めた作戦はもう決行しています。


 動かない私を見て不満を募らせたのは女の人でした。


「おいー、動けよー。このギルドハウスがどうなってもいいってのかー?」


 お決まりの脅し文句を使ってきます。

 それでも、


「……」


 私は動きませんでした。


 動かない私に痺れを切らしたのか、二人は上体を起こして私を見てきました。


「……こいつ、立場がわかってないみたいだな―」


 忌々しげに私を睨んでくる男の人。

 一方で、


「ペオールー? こいつ、高を括ってるんだよ、きっとー。あたしらが本気なの、思い知らせてやろーぜー?」


 女の人は薄ら笑いを浮かべていました。

 女の人がこう言うと、男の人も口角を釣り上げます。


「……そうだなー。やっちまえ、フェニー! もう泣いて謝っても遅いからなー!?」


 男の人のこの言葉を合図に、女の人は収納バッグからある薬品が入った容器を取り出しました。

 ショッキングピンクの液体がその中で揺れています。

 容器の蓋を取った女の人。

 彼女はその薬品を飲み干しました。


「んぐ、んぐ、んぐ、んげー、まっずー……っ。でもこれで、このギルドハウスはお終いだねー! ぎゃははははーっ!」

「あははははーっ!」


 勝ち誇った顔をする女の人と男の人。


 女の人が飲んだのは悪心薬です。

 あの色からして間違いありません。

 そして女の人は、この二人のどちらかのHPかMPが尽きたら私たちのギルドハウスは崩壊する、と言っていました。

 ……これは、



――自らMPを削ってギルドハウスを壊しに来た



 ということ……っ。

 私の頬を冷たいものが伝っていきました。

 だって――



――あまりにもライザの予想通りに事が運んでいたので。



 ライザにちょっと恐ろしさを感じてしまっていたのです。

 ……本当に仲間でよかったと心の底から思います。



「ぎゃははははー……ん? あれ?」

「あははははー……? お、おい! なんで壊れないんだよ!?」


 完全に勝った気で高笑いをしていた二人でしたが、その表情は焦りへと変わっていきました。



――私たちのギルドハウスは何も変わらず建ち続けていたから。



「フェニー! ちゃんとスキル、使ったのか!?」

「使ったよ! ちゃんとギルドハウスが壊れるように指定した! なのに、どうして壊れないんだよ!?」


 私たちのギルドハウスが無事だったことで、二人は言い争いを始めました。


「『コントラクト』使ったんなら、壊れるはずだろ!? 設定ミスったんじゃないのか!?」

「あんたこそ、『イニシアティブ』で変なことしてんじゃないの!? 不発だったの、そんくらいしか考えらんないんだけど!? ここのギルドの奴ら、可愛かったり胸デカかったりする子多いもんね!? 絆されたか、この野郎!」

「はぁ!? んなわけあるか!」


 と。

 見事に仲間割れをしていました。


 二人は考えが及んでいないようでした。



――他のスキルが介入しているという可能性を。



 口論に夢中になっていた二人は私を見ていません。

 仕掛けます!


「カラメルっ!」

「りゅりゅ!」


 私が呼ぶと、虹色のオーラを纏って瞬時に駆けつけてきてくれたカラメル。

 私たちの所持していたアイテムはあの二人によって倉庫に移されていましたが、カラメルは例外でした。

 あの二人は、この子が『体内収納』という特殊効果を持っていることを知らなかったのです。

(コエちゃんを「かしずかせて」いた二人ですが、カラメルを「かしずかせて」はいませんでした)

 ギルドイベント前に彼に持たせていた容器を体内から出してもらって、容器に入っていた液体を男の人目がけて振り撒きます。

 高い器用さの影響を受けて、男の人の方へまっすぐ飛んで行くピンク色の液体。

 悪心薬の雨が男の人に降り注ぎます。


「冷た!? な、なんだ!?」

「ひっ!? 何!? なんなんだよ!?」


 薬品を浴びた男の人は困惑しました。

 女の人はこの展開についてくることができていないようで、パニックに陥っていました。


 ステータスを確認したのでしょう。

 男の人が愕然とします。


「っ! さっきのは悪心薬か! 俺のMPもなくなってんのに、ギルドハウスがなくなる気配が一切ねー……! いったいどうなってんだ!?」



「スキルで防いだから、に決まってんじゃねぇですか」



 男の人の疑問に答えたのはライザでした。


 ライザとススキさんが倉庫から出てきます。

 実は彼女たちは私よりも先にこっちの世界に来ていました。

 前日、現実で会った時に私たちは連絡先を交換していて。

 それで、「ギフテッド・オンライン」の世界にログインしていたサクラさんから情報をもらったススキさんがライザに報告。

 あの二人がゲーム内で寝ている間に彼女たちはログインをして、倉庫内でログアウトしていたのです。

 倉庫の中でログアウトすると、ログインしたら倉庫の中から始められるので。

 あの二人はスキル『穀潰し』によって倉庫に行くことはありませんからログアウトをした時に目印として置かれてしまうピンを発見されることもありません。


 彼女たちが倉庫に行ったのは、「スキル変更の巻物」を手に入れるため。


「私のスキルでそちらの女の人のスキルの効果を反転させていただきました。



――『MPが尽きたら壊れる』設定から『MPが尽きたら壊れなくなる』という設定に」



「なんだって!?」


 ライザが新たに『パフォーマンス・チューニング』というスキルを取得して、それでススキさんの『パラダイムシフト』の性能を一時的に上げたから可能になったことでした。

(元々は回復とダメージ、バフとデバフのみを反転できるスキルでしたから)

 二人にこの説明はしませんが。


 さあ、反撃開始です!

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