第197話(第五章第31話) 乗っ取られたギルド5

 七月二十九日。


 私は現実で出かけていました。

 ライザから、ゲームの中の問題を解決する話し合いをするためにリアルで会おう、と提案されたからです。

(あの人たちには私、ライザ、ススキさんでそれぞれ適当な理由をつけてこの日にログインできないことを言っていて、ギルドハウスを壊されない約束を取り付けました)

(サクラさんたちには本当の理由をライザが『精神感応』で伝えています)


 ライザに指定された場所は、私が住んでいる県と隣接している都市にある公園でした。

 私の家はその都市と近い方面にあり、電車も通っているためそれを使えばそれほど時間はかかりません。

 事前に地図で場所を調べ、逆算して約束の時間に間に合うように家を出た私でしたが、遅れるのはよくないと考えすぎた所為か三十分も早く目的の場所に到着してしまいました。


 時刻は午前九時半。

 入口以外が柵で囲われているオーソドックスな公園の中に入って、私は辺りを見渡しました。

 この日は土曜日だったため、小さなお子さんを連れた親御さんたちが何組か来ていました。

 ですが、やはり早く来てしまったからでしょうか?

 それらしい服装をしている子はいたのですが、だいぶ幼い気がしたので私は、その子はライザではない、と判断しました。

(現実の姿がわからないので、どんな服を着ていくか、を予め伝えています)

(私はフリルのブラウスとハイウエストのキュロットという装いでした)


 私はブランコの前に設置されているベンチに腰を下ろして、ライザやススキさんが来るのを待つことにしました。

 このベンチの近くには木が植えられていて、日陰をつくってくれています。

 季節は夏なので、外は暑く……。

 私は肩掛けのバッグからハンカチを取り出して汗を拭いながら、公園の入口の方を気にしていました。

 ライザたちが来たらすぐに気づけるようにしたかったから。


 そうしていると、



――ジャララ……



 と鎖の音が聞こえてきました。

 音がしたのはベンチの正面にあるブランコの方から。

 その方に目を向けてみると、先ほどまでブランコに座っていた一人の女の子が立ってこちらを見ていました。

 フリルがあしらわれた白いワンピースと麦わら帽子がとても似合っている可愛らしい女の子。

 ライザが着ていくと宣言したものと同じ格好をしています。

 美しい金色でしっかりとセットされている髪型は、マンガやアニメに出てくるお嬢様のようでした。

 ……あれ? この髪型って……。


 その女の子は私の方にずんずんと近づいてきます。

 そしてその口が開かれました。


「……セツ、ですか?」


 私のことを「セツ」と呼ぶのはライザしかいません。

 それで私はこの子がライザであると把握しました。

 この子がライザ……。

 めちゃくちゃ可愛いんですけど!?

 なんかもっとこう、大人な感じを想像していたのですが、まさかの愛くるしい感じだったことに私は少し……いえ、だいぶ戸惑わされました。

 ……そういえばいつかは忘れましたが、彼女は自分のことを「ちんちくりん」って言ってましたっけ……。


「……そうだけど、もしかして、ライザさ――ひゃい!?」


 私が肯定して、一応確認しようとした時。

 ライザの手が、私が一番気にしている部分に伸びてきました。


「ちょっ!? 何するの!?」

「クロが言ってたんで大体想像はついてましたが……っ。背は一人称わーよりちょっと高いくらいだっつーのに、なんでこんなのがついてやがるんですか!? 不公平でしょう!? わーは、わーは二人称なーより年上なのに、なんでわーのは自己主張してくれねぇんですか!?」

「し、知らないよ! 私だってできるならここまで大きくなってほしくはなかったよ! すっごく見られるし――って、やめて! 触らないで……っ!」


 ライザがご乱心になって、私は大変な目に遭いました……。



 ……争いって何も生まないんですね。

 騒いでしまった私たちは、周りにいた人たちから煙たがれることになってしまいました。

 ひそひそ声で、関わっちゃダメ、と言っているのがよく聞こえてきます。

 居心地の悪さを感じて縮こまるようにしていた私とライザ。

 そんな私たちに笑いながら話し掛けてくる人物がいました。


「あっははー。あんなこと、大声で言い合わない方がいいんじゃね? セッちゃん、ライザ……で、いいんだよね?」


 その人の服装は、Tシャツにオーバーオール、スニーカーを履いてキャスケットを被っていて、ボーイッシュな雰囲気に纏められていましたが……。

 髪はウェーブのかかった金色で肌は小麦色、ネイルは長くキラキラのラインストーンで飾られていて、目尻の方にはハートや星のフェイスシールが貼られていて……。

 容姿と服装にちょっとしたちぐはぐ感がありました。

 ですが、この感じ……。

 どこかで覚えた記憶があります。

 ゲームをしている時に……。


 私はハッとしました。

 ライザは気づいていないようでしたが。


「……誰ですか?」

「ええっ!? キリさん!? キリさん、ですよね!? どうしてここに!?」


 この人はキリさんだ! という直感が私はしたのです。

 彼女と初めてまともに話した時の、ギャルさんな見た目と忍者の装束という服装にギャップを受けたあの感じと、今目の前にいる彼女に受けた感じがリンクした気がしました。


 キリさんと思われる女性の方を見ていたライザですが、私の発言を聞いて驚き、一瞬だけ私の方を向いたあと、二度見をするように視線が女性の方に戻されます。

 私も、どうしてキリさんがここにいるのかがわからずに、その答えを求めるように彼女の方を見ていたのですが……。


「あはは! うち、キリちゃんじゃないし! ススキ! リアルじゃこんななの! どう? 驚いた?」

「「え――」」


 彼女はキリさんではありませんでした。

 自分のことを「ススキ」だと言った女性。

 私とライザは予想していなかったこの展開にしばらくの間固まってしまいました。



 とりあえず揃ったので、このあたりが地元だというライザの案内で私たちは近くのカフェに移動しました。

 そこであの人たちからギルドハウスを取り返す作戦を話し合いました。

 話し合うといっても、ライザが計画を立ててくれていたので、私とススキさんはその手順を憶えるだけだったのですが……。


 作戦の全容を話し終えたライザが私たちを見て改めて言いました。


「セツ、ススキ。取り返しますよ、わーたちのギルドハウスを!」

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