第196話(第五章第30話) 乗っ取られたギルド4

 翌日の朝。


「はぁ……」


 現実で溜息を零す私。

 正直に言ってしまえば、今日はゲームをやりたいという気分ではなかったのですが、それでも……。


「やらないと、ギルドハウスがなくなっちゃう……」


 あの二人にギルドハウスを人質に取られてしまっているため、私は「ギフテッド・オンライン」の世界に向かいました。



……………………



「んじゃ俺らのレベル上げ、よろしくー」

「あたしらに歯向かったらこのギルドハウスがどうなるか、わかるよねー?」


 ログインしたらギルドハウスで、あの二人は既に来ていて……。

 私は、俺たちのためにモンスターを倒してこい! とギルドハウスから追い出されました。

 唖然とさせられてしばらくの間立ち尽くしていると、ギルドハウスの扉が開けられて中からススキさんが、私もされたように突き飛ばされました。

 私はなんとか踏ん張れたのですが、ススキさんは転ばされそうになっていて。

 とっさに支えに行きます。


「ススキさん! ……大丈夫ですか?」

「セツさん……っ! あ、ありがとうございます――」


 ススキさんが転倒するのをなんとか防ぎましたが、それを扉の位置で見ていた、私たちをこんな目に遭わせている男の人が悪びれもなく言ってくるのです。


「なんだよ、あんた。まだそんなとこにいたのかー? さっさと行けよー? ギルドハウスがどうなっても知らんぞー?」


 と。

 私たちを見下しながら。

 悔しさが募っていきますが……。

 私たちは何も言い返せませんでした。


 男の人が大声で笑いながら扉を勢いよく閉めようとした時、男の人の奥から声がしました。

 私たちの仲間の声が。


「退いてください。経験値を溜めろ、っつってきたのはあんたらじゃねぇですか。道塞いでるっつーことは行かなくていいっつーことでいいですか? 一人称わーはあんたらのレベルアップに貢献なんてしたくねぇんで行かねぇでいいならそれに越したことはねぇんですけどね!」


 ライザです。

 男の人が嫌な顔をして振り返ったタイミングで、死角になる方の脇から外に出てきました。

 男の人の視線がこちらに向き直ります。


「お、お前! 他の奴らはもう行ってるってのに! なんで倉庫に行った!? 反抗されないようにヤバそうなアイテムは全て預けさせたのに……! ことと次第によっちゃあ――」

「仕方ねぇでしょう? わーはネタジョブなんですから。しっかり準備しねぇと普通に死ぬんですよ。……行きましょう、セツ、ススキ」


 私たちのアイテムはあの二人によって没収されている状態でしたが、ライザは男の人の方を見ることなくそう言って、私とススキさんの手を取って歩き出しました。



 ギルドハウスが見えなくなったところで、私は呟きました。


「はぁ……。これからどうすれば……」


 溜息混じりです。

 あの二人にギルドハウスを乗っ取られてから、ゲームをするのが楽しくありません。

 気分は沈む一方……。

 ススキさんも私につられて溜息が出ちゃっていました。

 そんななか、ライザだけは俯いていなくて。


「それなんですが、ねぇこともねぇんですよ、ギルドハウスを取り返す方法。わーだけじゃどうにもならねぇんで、セツとススキの協力が必要不可欠なんですが」

「えっ!? ギルドハウスを取り戻せるの!?」

「わ、私の協力も必要なのですか!?」


 流石、ライザです!

 私なんて憂えていたばかりで何も考えていなかったのですが、ライザはギルドハウスを奪還する方法を考えていて、しかももうその方法を思いついていたようです……!

 私はライザに詰め寄っていました。

 ススキさんも同じようにライザに迫っています。

 説明を始めようとしたライザ。

 しかし――


「可能です、セツとススキの力があれば。まず問題になるのがあいつらの上がったステータス――」

『何止まってんだよー!? 速くダンジョンに行けってー! ギルドハウス、壊されたいのかー!?』

「「「っ!?」」」


 ライザの言葉は止められました。

 いきなり出現した「call」の画面から発せられた男の人の声によって。


「なっ!? こちらが操作をしないと繋がらないはずでは……!? それに何故、止まっていると……!?」


 ススキさんが愕然としました。

 私も似たような表情になっていたかもしれません。

 ススキさんが言った通り、連絡はこちらが応じなければ繋がらない仕組みになっているというのに、一方的に繋げられてしまっていたのですから。


『ギルメンになったら居場所特定できるんだろー!? あと、「かしずかせてる」奴らにはこっちから一方的に連絡できるんだよ。で、そっちは切ることも許されない』


 男の人から明かされた内容に、私たちの顔は蒼褪めました。

 これではギルドハウスを取り返すための話し合いができない……っ!


 もうどうすることもできない……、と打ちひしがれているなか、さらに追い打ちをかける言葉を男の人は使ってきて……。


『つーか、ギルドハウスと街の間で止まってんじゃねーよ! さっさとダンジョン行けー! 侍と忍者と聖職者と変なのを連れたガキはもうダンジョンに着いてるってのに! マジで壊すぞー、ギルドハウス!』


 私たちは移動をすることを余儀なくされました。



 移動中にライザに聞くと、私たちよりも先に来ていたサクラさん、キリさん、パインくんは既にダンジョンへ向かわされている、とのことでした。

 コエちゃんとカラメルも駆り出されているそうです。

 大丈夫かな、コエちゃん……。

 心配でたまりません……。

(マーチちゃんとクロ姉は今日はこっちに来れないということをあの人たちにも伝えていました)

(マーチちゃんは検査、クロ姉はアルバイトです)


 サクラさんたちの位置を調べてみると、彼女たちがいたのは



――第一層「スクオスの森」3階



 ……え?

 どうしてそんなところに……?


 私はたまらずライザに確認しました。


「あ、あの、ライザさん、これって……!?」


 レベルアップをするにはあまり効率が良くなさそうな場所に行っていることが気になって。

 ライザはすぐに回答してくれます。


「ああ、そこにモンスターハウスがあるらしいんですよ。相手が弱かったとしても数を倒すのが一番効率的ですからね」


 そう言いながら、彼女は私にウインクをしてきました。

 まだ男の人と電話が繋がっている状態……。

 言葉にはしないで何かを伝えようとしてきているのがわかります。

 ライザはこう表現しているように感じました。



――あの二人のために効率なんて考えるのはバカげている、と。



 それが私に伝わったのは、次にライザがこのように発言したからです。


「それじゃあ、わーたちも第二層のモンスターハウスに向かいますか。わーたちはあそこしか知りませんもんね? モンスターハウスがある場所」


 わざと効率の悪い方法を選択していたから。

 ライザの意図はススキさんにも伝わっていたようで、私とススキさんはライザの意見に賛成しました。



 そして、これは第二層「リスセフ遺跡」7階でリスセフ40体を倒した時のこと。


≪ライザです。スキルを『精神感応』に変更しました。セツ、ススキ。驚かずに聞いてください≫


 頭の中に直接ライザの声が響いてきました。


≪リアルで会って話しましょう。場所は――≫

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